2003年のイラク戦争の折、連日のようにテレビや新聞報道に登場し、中東問題解説者として活躍した
酒井啓子・東京外国語大学大学院教授。戦争の背景を解釈する際にたびたび用いられた「アメリカ対イスラム」「正義対テロ」といった対立構図式の世界観に異議を唱え、ともすれば米国寄りの視点に偏りがちな日本のマスコミに慎重姿勢を促し、イラクの政治社会や歴史などの多角的な視点から湾岸をめぐる国際関係を分析した。
新進気鋭のイラク専門家として、世界中の中東研究者から一目置かれている酒井氏も、意外なことに、英語には深いトラウマ体験を背負っている。十数年前の国際学会での“失態”が原因で、一時“引きこもり状態”に。その後、OLやサラリーマンに混じって英会話教室に通い、山のように英語テープ教材を買い込んでは、必死の思いで英会話を猛特訓した過去があるという。今では「英語にはもうこだわらない」とあっけらかんと笑い、また、自分の研究者としてのアイデンティティは、「むしろ英語を話せなかったことから生まれている」とも語る。“引きこもり”になってから現在に至るまでの、英語にまつわる長い心の旅路を吐露して下さった。
取材・構成=古屋裕子(クリムゾンインタラクティブ)