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「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(前編)

本連載では、どんなにひどい原稿でも、掲載料さえ払えば査読らしい査読なしで掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」について、何度も取り上げてきました。最近では、「フェイク・ジャーナル(fake journals)」と呼ばれることもあります。
捕食ジャーナルで研究成果を発表する者たちは、主としていわゆる開発途上国の医師や研究者だと思われてきました。実際のところ、そうした捕食ジャーナルに投稿される論文の著者がインドなどのアジアに集中することを明らかにした調査もあります。ただ筆者は「日本人も少なくないのではないか?」と思ってきました。
カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらは、そうした論文の共著者たちのなかでも、ジャーナル編集部や読者など外部との窓口役を果たす「責任著者(corresponding author)」の所属国に着目すると、インドの次に多かったのはアメリカであることなどを、『ネイチャー』への寄稿で明らかにしました。
この調査の対象となったのは、1907件の論文です。モーハーらは、捕食ジャーナルのリストとして知られ現在は閉鎖されている「ビールズ・リスト(Beall’s List)」などを参考にして、生物医学分野の捕食ジャーナルを発行している出版社の中から、1誌だけを発行している出版社41社と、複数誌を発行している51社を選びました。その上で、これらの出版社が発行するジャーナル計179誌に最近掲載された論文3702件から、純粋な生物医学研究と体系的レビュー(複数の論文のデータを統合して分析する研究)を抜き出したところ、1907件が残ったのです。


彼らの調査で、そうした論文では、主流のジャーナルに載った論文に比べて、ガイドラインが守られていない傾向があることが浮かび上がりました。たとえば、臨床試験を報告する論文では「登録情報」が書かれていないこと、体系的レビューでは「バイアス(偏り)」のある可能性が評価されていないこと、動物実験では「盲検化(ある動物が実験群であるか比較対照群であるかを実験者がわからないようにすること)」に関する情報が書かれていないこと、などが明らかになりました。
また、倫理委員会の承認を得ていることを明記した論文が、主流のジャーナルでは70%を上回る(ヒトを対象とした研究で70%以上、動物を対象とした研究で90%以上)のに対し、モーハーらが調査した捕食ジャーナルでは40%に留まりました。さらに、資金源を書いていない論文は、約4分の3に上りました。責任著者の所属国は、インド(27%)、アメリカ(15%)、ナイジェリア(5%)、イラン(4%)、日本(4%)など世界103カ国に広がることもわかりました。
モーハーの調査とは別に、シンクタンクである民主主義・経済学研究所(IDEA : Institute for Democracy and Economic Analysis)がまとめた調査では、インドやナイジェリアの論文の10%以上が捕食ジャーナルで発表されていたこと、それに対してアメリカや日本では1%以下であったと明らかになっていました。また、『情報科学技術協会ジャーナル(JASIST : Journal of the Association for Information Science and Technology))に掲載された別の研究では、捕食ジャーナルに載った論文の著者の75%が南アジア(主にインド)、14%はアフリカ(主にナイジェリア)にいたのに対し、アメリカにいた著者はわずか3%だとわかったこともあります。
それらとは対照的に、モーハーたちの調査では、著者たちの57%は「高所得国」または「中所得国」以上の国の研究者であることが判明しました。モーハーらは調査結果に違いが出た理由を、自分たちは共著者全員ではなく「責任著者」に絞って分析したこと、自分たちのサンプルに高所得国の著者たちが好むジャーナルが含まれている可能性、そして近年、捕食ジャーナルを発行する捕食出版社は高所得国や中所得国の医師や研究者たちに対して、メールによる論文投稿の勧誘をより積極的に行うようになっている可能性を挙げています。
モーハーたちの調査は続きます。後編では、捕食ジャーナルの特徴(見分け方)なども紹介します。

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