「捕食ジャーナル」ブラックリストへの強い要望
本誌でも何度も伝えてきたように、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナル「 捕食ジャーナル (predatory journal)」が問題になり続けています。これらは「ハゲタカジャーナル」と訳されることもあります。
そうしたジャーナル(学術雑誌)に掲載された論文は、たとえば生物医学分野であったら、同分野の論文データベース「パブメド(PubMed)」に収載されないこともあります。
コロラド大学デンバー校助教授で図書館司書のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は2010年、捕食ジャーナルと捕食出版社のリスト、通称「ビールズ・リスト」をつくり始めました。ところが2017年1月、このビールズ・リストが予告なしに閉鎖してしまったことも、本誌で伝えた通りです。その理由は、ビールズは雇用主からの圧力だと述べる一方で、上司や所属機関はそれを否定し、あくまでも個人的な理由であるとしています。
ビールズ・リストが閉鎖されると、すぐにそれをコピーしたウェブサイトが複数登場してきました。今年3月、『ネイチャー・ニュース』はそのうちの1つのサイトの管理人にメールで取材することに成功し、その人物が自然科学分野の研究者であると述べたものの、それ以上の詳細は「ハラスメントの恐れ」を理由に明かさなかったこと、彼または彼女はこのリストを更新・管理するために毎週数時間を費やしていることを明らかにしました。
「ビールズによる捕食ジャーナルと捕食出版社のリスト」と名づけられているこのウェブサイトは、その管理人が個人的に使うために制作したものだといいます。ところが、このウェブサイトを開設してすぐ、管理人は研究者たちから問い合わせのメールを受け取るようになりました。それらのほとんどは、自分が論文原稿を投稿しようと考えているジャーナルの信頼性について尋ねるものですが、中には、自分の研究が捕食出版社に盗まれたこと、自分の名前が捕食出版社に無断で使用されたことを訴えるものもある、といいます。
管理人は、問い合わせを受けたジャーナルが、まだリストに載っていないものである場合には、ジャーナルの価値を評価するための情報データベース「ジャーナル引用レポート(Journal Citation Reports)」をチェックするなどします。管理人が信頼できないものだと判断したジャーナルや出版社は、リストに書き加えられます。
このウェブサイトには、2018年3月までに、もともとビールがリストアップしていたジャーナルおよび出版社に加えて、スタンドアローンジャーナル(オープンアクセルジャーナル1誌だけを運営している出版社のジャーナル)85誌と、出版社27社が追加されています。
また、『ネイチャー・ニュース』によれば、他にも、研究者と思われる人々がビールズ・リストを復活させることも目的に開設したウェブサイト「ストップ捕食ジャーナル」が2017年1月から公開されていますが、残念ながら更新されていないようです。
一方、2017年6月には、「キャベルズインターナショナル」という学術サービス会社が、捕食ジャーナルだと思われ、信頼できないジャーナルのブラックリストを有料で発表しました。同社によれば、匿名の者たちによって管理され、無料で公開されているブラックリストは、それに載せられるものの基準が明確に説明されていないことが問題である、といいます。同社のブラックリストはその基準を明確に説明しており、現在、8000誌のジャーナルをリストアップしており、また、すでに約200の研究機関がこのリストを購読したといいます。
匿名の者たちに管理され、無料で公開されている「ビールズによる捕食ジャーナルと捕食出版社のリスト」の管理人も、時間があれば、リストに載せているジャーナルと出版社すべてにつき、選定した理由を記したいと述べています。しかし、自分たちのリストを利用している研究者の多くは「低所得国」の人たちなので、キャベルズインターナショナル社がブラックリストを有料で公開していることについては「複雑な気持ち」であることを表明しています。
『ネイチャー・ニュース』は、学術界が捕食ジャーナルのブラックリストを必要としていることは事実だが、そうしたブラックリストには、リストに載せるための明確な基準と理由、削除する場合にもその理由、そして、リストに載せられたジャーナルや出版社が納得しない場合には彼らの言い分を聞くための「控訴制度」が必要だ、という専門家の意見を紹介しています。
最も望ましいのは、研究者1人ひとりがジャーナルの信頼性や価値を自分で判断できるようになり、こうしたブラックリストが必要とされないようになることです。そのときには捕食ジャーナルというビジネスモデルが成立しなくなるかもしれません。残念ながら、そうなるまでには時間がかかりそうなので、ブラックリストは当分の間、必要とされ続けるでしょう。