「アンペイウォール」でオープンサイエンスが実現!?

本誌で何度も伝えているように、ジャーナル(学術雑誌)の購読費が値上がりしていることによって、論文を入手しにくくなっていることに多くの研究者らが不満を抱いています。そのため、誰でも論文を無料で簡単に入手できる“海賊版”論文サイト「サイハブ(Sci-Hub)」が歓迎されてきました。その一方、当然ながら激怒した学術出版社がサイハブを訴え、アメリカの裁判所がウェブサイトの閉鎖や賠償金の支払いなどを命令したものの、サイハブはアメリカの司法の力がおよばない国にサーバーを置くなどの対抗処置を講じており、依然として利用可能です。

日本人がサイハブを利用して論文を入手することは違法でも何でもありません。しかしながら、アメリカの司法で著作権侵害だとみなされたサービスを使うことに抵抗がある人もいるでしょう。そんな人のために登場したサービスの1つが「 アンペイウォール (Unpaywall)」です。

アンペイウォールとは、ウェブ上に合法的にアーカイブされた論文PDFを見つけるためのツールで、ウェブブラウザの拡張機能(アドオン)として普及しています。

インストールも使い方もとても簡単です。たとえばファイアフォックス(Firefox)であれば、右上のメニュー(横線3本)から「アドオン」、「アドオンをもっと見る」と進み、「アドオンを見つけよう」と書いてある検索窓に「Unpaywall」と入力すると、アンペイロールのページがすぐに見つかりますので、「Firefoxへ追加」をクリックすれば、インストール終了です。

あとは普通に論文を検索してみてください。右上に、緑色の鍵マークが出ていたら、そのページで全文を入手できなくても、ほかのページで入手できることを意味します。一方、灰色の鍵マークが出ていたら、残念ながら全文を無料で読めるページはないということです。

ネイチャー・ニュース』は、このアンペイウォールの歴史は2011年に遡り、「オープンサイエンス」についてのワークショップに参加したコンピュータ科学者3人のアイディアによるものだったことを伝えています。

そのうち2人、ヘザー・ピウォワー(Heather Piwowar)、ジェイソン・プリム(Jason Priem)は非営利組織「インパクトストーリー(Impactstory)」を設立して、2017年3月10日にアンペイウォールをプレリリースし、4月4日、正式にスタートさせました。すでに1万人以上がインストールしたことを、『ネイチャー・ニュース』が伝えています。

世界中の研究機関がジャーナル購読費の高騰に直面し、大手学術出版社との契約を中止するケースも伝えられていますが、アンペイウォールの存在を多くの研究者が認識するようになれば、研究機関が購読すべきジャーナルを選ぶ判断に役立つことなども指摘されました。


実をいえば、グーグル・スカラー(Google Scholar)で論文を検索すれば、たとえジャーナルのウェブサイトでペイウォール(閲覧制限)がかかっていても、「PDF」という表示が現れるものであれば、それをクリックすることで全文を読めるPDFファイルを入手することができます。ただし、プリムらによれば、グーグル・スカラーは無料で入手可能な論文すべてを検知できるわけではない、とのこと。アンペイウォールは、各研究機関がその成果を公開する「機関リポジトリ」に入れられている論文だけでなく、まだ査読中のプレプリント(原稿)を公開する「プレプリントサーバー」にある論文原稿の存在も検知するので、その便利さや能力はグーグル・スカラー以上かもしれません。

また、ピウォワーやプリムらがアンペイウォールのデータを分析したところ、現在、人々がアクセスしようと試みた論文のうち、約半数は無料で合法的に読むことができる、ということもわかりました。その結果は2017年8月にプレプリントとして公開され、査読を経て今年2月にオープンアクセスジャーナル『ピアーJ(PeerJ)』に掲載されました。当然のことながら、この論文はどのデータベースからアクセスしても、認証されたサイトであり、安全に閲覧できることを示すアイコン(緑色の鍵マーク)が記されます。

そして最近、ウェブ・オブ・サイエンス(Web of Science)スコーパス(Scopus)といった論文データベースも、アンペイウォールとの連携を開始しました。『ネイチャー・ニュース』によれば、アンペイウォールとの統合以降には、無料で読める論文の数は、ウェブ・オブ・サイエンスでは210万件から1200万件に、スコーパスでは150万件から700万件に増加する、と試算されています。スコーパスを運営するのは、オープサイエンスを推進する研究者たちには評判の悪いエルゼビア社です。同社はいうまでもなく、サイハブを訴えた大手学術出版社です。

アンペイウォールのデータベースには、1960万件もの論文が収録されている一方、「DOI(インターネット上の論文などに付与される識別子)」が付けられた論文は7350万件あるとも推測されています。アンペイウォールが登場してもなお、誰もがすべての論文を無料で読めるユートピアは、まだ到来していない、ということです。

そして残念ながら、サイハブもまだまだ必要とされ続けるでしょう。

 

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