アスタリスクの使い方

あなたが今、一般には馴染みの薄い研究分野の論文を書いているとします。ただでさえ難解な内容をどう読者にわかりやすい文章で伝えるか、あるいは、重要な部分をどう目立たせられるかが、論文を書く上での大きな課題となるでしょう。

ブログ記事や自分のノートなら、強調したい箇所にハイライトを付けたり、フォントを変えたり、あるいは独自のマークを付けたりしておくことも考えられますが、研究論文などのアカデミック・ライティングでは、そう簡単に表記を変えることはできません。

アスタリスク「*」(アステリスク、あるいは星印と呼ばれることもあります)はよく、補足や脚注を示すために本文中に付けられます。また、脚注を示すだけでなく、省略された文字があることを示したり、免責事項(広告や契約書に出てくる)を示したりするのにも使われることがあります。この記事では改めてアカデミック・ライティングにおけるアスタリスクの使い方について見直してみます。

アスタリスク(*)とは

アスタリスクとは、注釈や脚注、参照を示すために文中で使われる記号です。本文などに特別な解説を加える必要があるような場合にアスタリスクを付け、欄外の同じアスタリスクを付けた該当部分に対する注釈や解説を連携させるものです。

英辞書によれば、アスタリスクは「小さな星のような記号(*)で、文字や印刷で参照マークとして、または省略や疑わしい事柄などを示すために使用される。」との意味の他に、言語学で、特定の言語を母国語とする人々にとって非文法的な、あるいは容認できない発話を示すために使用される星印(*)といった意味も記されています。

脚注や注釈を示すためのアスタリスク

アスタリスクが脚注や注釈を示すための記号として使われるようになった歴史は古く、一説によると中世初期の写本に記載が残されています。現在、アカデミック・ライティングでは、本文中の情報の出典や背景に関する補足、つまり脚注や注釈を示すためにアスタリスクが使われています。本文中にアスタリスクが付いていれば、同じページの下(footnotes)か、論文の最後(endnotes)に掲載される参考文献(Reference)のセクションに、アスタリスクの付いた部分に関する詳細情報が掲載されていることが分かります。

論文のタイトルにアスタリスクが付いていることもあり、法学者であるピーター・グッドリッチ(Peter Goodrich)は『On Philosophy in American Law』に収録されている小論 “Dicta “の中でアスタリスクについて以下のように言及しています。

“The asterisk footnote now tends to play the role of listing institutional benefactors, influential colleagues, student assistants, and the circumstances surrounding the production of the article.” (仮訳:アスタリスクの脚注は現在、組織的な後援者、影響力のある同僚、学生アシスタント、そして論文作成に関わる状況について列挙する役割を担う傾向にある。)

アスタリスクの使い方は広がりつつあるようです。責任著者(corresponding author)であることを示す他、図表やデータにおける有意差を示したり、論文のテーマに関連するさまざまな情報を共有しやすくするためにアスタリスクが活用されています。

アスタリスクのその他の使い方

著者名に付ける

学術論文では、著者名が列記されますが、その中で論文に関する最終的な責任を持ち、中長期的に問い合わせに応じられる責任著者(corresponding author)の名前の横にはアスタリスク(*)が付けられます。

学生やポスドクは連絡先が変更になる可能性が高いため、基本的には教授など研究室主宰者(PI: Principal Investigator)が責任著者となることが多くなっています。研究論文を作成する際には、研究に参加した研究者の中で筆頭著者(first author)と責任著者がそれぞれの役割を担うことになりますが、共同筆頭著者(co-first author)が存在する論文も多くあり、その場合には、共同筆頭著者にアスタリスク(*)などの記号が付けられることもあります(例えば、「著者 A*、著者 B*、著者 C、著者 D.. 」など) 。共著者名とともに、研究を行った大学または研究所の名前と住所が記載されます。

統計学的な有意差を示す

科学的研究においてもアスタリスクは重要な役割を持っています。

アスタリスクは、表やグラフ中で統計学的な有意差(値)を示すためにも使われます。有意差とは、データ間の差が統計的に有意かどうかを検証し、偶然ではなく実際の差異に基づくことを確認する概念で、統計的有意差を示す手法として値が使用されます。

一般的には、1個のアスタリスクはp<0.05、2個のアスタリスクはp<0.01を表します。3個のアスタリスクが並んでいる場合はp<0.001として使われることが多いようです。例えば、「* p<0.05」 と書かれていれば有意確率が5%未満であり、有意差が認められたことを意味することになります。

とはいえ、表記するアスタリスク数は、スタイルによっても異なるようなので、自分の提出するジャーナルの指示するスタイルを確認し、それに準ずるようにしてください。グラフでも統計的有意性を示すのにもアスタリスクが使われます。ただし、表中であっても参照記号としてアスタリスクが付けられている場合もあり、その場合はページの脚注などと同じ意味で、*の説明を参照するようにと示唆するものです。

一般的な文章におけるアスタリスクの使い方

もちろんアスタリスクは、アカデミックな文章以外の一般的な文章でも使われています。

例えば、漫画などで不適切な言葉(冒涜的あるいは下品な単語など)を表すとき、最初の文字に続けてアスタリスクを書くことがあります。これは、漫画家のモート・ウォーカー(Mort Walker)が自身の漫画で使い始めたと言われている「grawlix」と呼ばれる言葉の置き換えです。日本語では伏字と呼ばれ、特定の文字や単語の一部を隠すために使用される記号や文字のことを指します。書き表せない言葉の置き換えとしては、パスワードやクレジットカードの番号など見せたくない情報を*で置き換えているのを見たことがあるでしょう。最近ではSNSやメッセージといったデジタルコミュニメーションの中で、文章の訂正箇所や感情表現のひとつとしてアスタリスクが使われているのも見かけます。

また、広告にアスタリスクが使われていることもあります。例えば、新聞広告などで「新型車が勢揃い、発売中*!」と見出しにアスタリスクが付けられているような広告は、ページ下部に重要な情報または補足情報があることを示しています。また、数式で乗算記号(かけ算の×)の代わりに*が使われていることもあります。

最後に補足ですが、アカデミック・ライティングではアスタリスク以外に、短剣符(Dagger)(†)が使われることもあります。使用するべき記号(アルファベットや*、†、‡、§などの記号)はジャーナルによって異なる場合があるため、論文を書き始める前に、各ジャーナルの著者向けの指示(投稿規程)を確認することをおすすめします。そして、論文を提出する前に、アスタリスクを含めた記号が投稿規程に準じて正しく使われているかを再度確認してください。

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