アカデミック・ライティングにおける言葉の選択と注意点

「言葉の選択」とは

文章を書く際、効果的で的確な言葉を選択することにより、読者に正確な情報を伝えることができます。効果的な「言葉の選択」、つまり、状況に応じていかに適切な言葉を選ぶかがとても重要なのです。同じことを伝えるにしても、選ぶ言葉によって読み手が受け取る印象は異なり、意図とは異なる意味が伝わってしまうことすらあります。アカデミック・ライティングの場合には、専門用語を多用しすぎると分かりにくくなってしまいます。専門用語や紋切り型の表現(定型表現)を使いすぎることなく、明示的な意味や含意を伝えられるようにすることが大切なのです。また、語彙が多ければ良いというものでもありません。

文章を書く上では避けて通れない「言葉の選択」

自分の研究内容をきちんと伝えるためには、論文で適切な言葉を選ぶことが極めて重要です。アカデミック・ライティングに限ったことではありませんが、文章の執筆とは、言葉の選択の連続です。自分のアイデアを明確に表現できる単語を注意深く選ぶだけでなく、それらの単語をどのようにフレーズ、センテンス、さらにはパラグラフとして配置するかを判断しなければなりません。説得力のある言葉の選択は、読者の内容理解につながります。それが、研究アイデアを明確にし、拡散するのす。

言葉を吟味する際には、読者に正しい情報を伝えることを妨げる要素のないように注意することも重要です。

言葉の選択における一般的な注意点につき、例文を示しつつ説明していきます。

誤った単語

あまり深く考えずにライティングを行う、あるいは単語の意味を間違って覚えているなど、さまざまな理由で間違った言葉を使ってしまうことがあります。特に、意味や品詞を混同しやすい英単語には注意が必要です。

例1:There were averse effects.

修正1:There were adverse effects.

“averse”は「嫌う」という意味で、”adverse”は「反対の、逆の、悪い」といった意味。スペルは似ているが文意が変わってしまう。

例2:The journal excepted your article for publication.

修正2:The journal accepted your article for publication.

“except”は何かを除外することを意味し、”accept”は何かを受理することを意味するため逆の意味になってしまう。

複数の解釈が可能な言葉

例1:I sprayed the ants in their personal places.

修正1: I sprayed the ants in their hiding places.

“personal”には複数の意味があるが、”hiding”とすることで場所を特定し、行動の意図を正確に伝えることができる。

例2: I want to do something different in my presentation.

修正2: I want to do something unique in my presentation.

“different”は通常(の行動、手法など)とは異なることを意味するのに対し、”unique”は通常とは関係なく、まったく新しいことや変わったことを意味する。

不必要に複雑な言葉

例1:“Conventional wisdom” is a relatively new designation.

修正1:“Conventional wisdom” is a relatively new term.

複雑な単語”designation”は、より意味の明確な”term”というシンプルな単語に置き換えられる。

例2:It was difficult to comprehend.

修正2:It was difficult to understand.

“comprehend”を”understand”に置き換えても意味は変わらない。

洗練されていない表現

例1:Child students’ consciousness for marine education still remains an open research problem for creating a suitable teaching plan.

修正1:Consciousness among young students for marine education still remains an open research problem for creating a suitable teaching plan.

例文では斜体部分が読みづらく、やや明確さに欠けるのに対し、修正後の文では明確になっている。

例2:I came to the realization that the answer is incorrect.

修正2:I realized that the answer is incorrect.

修正により冗長さを避け、情報をよりダイレクトに伝えることができる。

似た意味であるものの不正確な単語

例:When discussing the definition of tuberculosis, we should address that physicians are required to quickly identify patients with risks of infection with pathogens.

修正:When discussing the definition of tuberculosis, we should address that physicians are required to promptly identify patients with risks of infection with pathogens.

“quickly”は「速く/早く、迅速に」、”promptly”は「(対応が)遅滞なく」と、意味としては似ているが、この文においては”promptly”が適切。

ニッチな専門用語

例:The dialectical interface between neo-Platonists and anti-disestablishment Catholics offers an algorithm for deontological thought.

修正:The dialogue between neo-Platonists and certain Catholic thinkers is a model for deontological thought.

すべての読者が”dialectical interface(弁証法的インターフェース)”や”anti-disestablishment(国教廃止条例反対論)”という言葉を読んで理解できるとは思われないので、意味を損なうことなく誰でも理解できるような文章に書き換える。

紋切り型の表現

例:I am as loose as a goose today.

修正:I am very relaxed today.

“loose as a goose(緊張感がなく非常にのんびりしている様子)”を”relaxed”に置き換えることで、よりシンプルで直接的に情報を伝えることができる。アカデミック・ライティングにふさわしくない常套句や単語の使用は、研究の質や信頼性に影響をするため避ける。

冗長な表現

例:I came to the realization that this method won’t work out.

修正:I realized that this method won’t work out.

“come to the realization”を”realized “に置き換えることで、文意を変えずに単語数を減らすことができる。

不明確な言葉

例:Previously, a substantial number of patients with HCAP were defined as having community-acquired pneumonia.

変更:Previously, a substantial number of patients with HCAP were diagnosed as having community-acquired pneumonia.

“defined”は、誤解を招く可能性がある。また、内容の観点からも、ここでは”diagnosed(診断された)”の方が正確である。

 

アカデミック・ライティングにおいて単語を選択する際には、同じ意味であっても、より少ない単語数の簡潔な単語を使うようにします。以下の表に、長い言い回し(Longer phrase)と、それらと同じ意味の簡潔な表現(Concise word)をリストアップします。

論文を執筆する際には、以下のリストに従って言葉の選択を改善するようにしてください。

  • “demure(控えめな)” や“erudite(博識な)”など、あまり一般的ではない単語は、特に注意して意味を見直してから使用する。
  • “a sufficient number of”を”enough”に置き換えるなど、冗長な表現や単語を使わずに簡潔に記す。
  • 副詞や形容詞を多用するのではなく、正確かつはっきりと意味を伝えられる名詞や動詞を使うことで文意を強調する。例えば、”The person danced”を”The ballerina twirled”と書き換えることで、より具体的な情報の伝達が可能になる。
  • 言葉を選択する際、冗長になったり重ね言葉になったりしないように確認する。例えば、”Advance notice”の”advance(事前)”の意味は”notice(予告する=予め通知する)”に含まれているため”notice”のみでも意図を伝えることができる。

まとめ

まとめると、自分の考えを表現するためには、自分に最もしっくりとくるという点だけでなく、読者にとって最もわかりやすく読みやすいという点で言葉を選ぶ必要があるということです。読者の存在や、読者が何を期待するかについて思いを馳せることも、より良い判断をする上で役立つでしょう。特にアカデミック・ライティングは、研究の成果やアイデアを正確に報告するためのものであるため、事実に基づき客観的に書かなければなりません。言葉の選択を誤って、意図しない伝わり方をしたり読者を誤解させたりすれば、研究成果の影響力を制限してしまうことにもなりかねません。文章中に挿入した修飾語句を見直し、自分の言いたいことが正確に伝わるか、読者の理解に影響するような言葉を選択していないかなどを見直してみてください。見直すことが「言葉の選択」を考えるきっかけとなるでしょう。他の研究者や同僚に読んでもらい、意味の曖昧な言葉、繰り返し、紋きり表現の使用などを指摘してもらうことも有効です。ここに挙げた例などを参考に、適切な言葉を選ぶようにしてください。

参考

英文を書く際の言葉の選択についての参考情報をリストしておきますので、こちらも参考にしてみてください。
1. The Writing Center at UNC-Chapel Hill. Word Choice. Retrieved from
http://writingcenter.unc.edu/handouts/word-choice/

2. Word Usage in Scientific Writing. Retrieved from
http://www.chem.ucla.edu/dept/Faculty/merchant/pdf/Word_Usage_Scientific_Writing.pdf

3. Statistics Solutions. 5 Literal Word Choices to Improve Your Writing. Retrieved from
http://www.statisticssolutions.com/5-literal-word-choices-to-improve-your-writing/

 

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