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略語と頭字語について押さえておくべきこと

最近では、日本語にも文章の先頭のローマ字や数字を組み合わせた略語「KY語」が蔓延していますが、分かる人にはすぐ分かるとは言え、分からない人にはまったく意味が伝わりません。そして、略語や頭字語を使いこなすには慣れが必要です。略語(abbreviation)と頭字語(acronym)は、両方とも特定の語の一部を省略あるいは簡略にしたものですが、略語とは、ある語の一部を何らかの方法で省略または簡略したもの。頭字語は、略語の一種で、一連の単語の最初の文字をつなげて作られたものです。すべての頭字語は略語ですが、反対にすべての略語が頭字語とは言えません。

略語や頭字語をうまく使えば、原稿を読みやすく、かつ分かりやすくすることができます。長い名称や特定の語句が繰り返し出てくる場合に略語や頭字語を使えば、読みやすく表記できるだけでなく、文字制限に余裕を持たせることにもつながります。特に、新しく発見・発明した技術や解析方法を紹介しようとするとき、著者はその名称や手法を示す略語で表記することが多々あります。略語にすることによって、読者の目を引き、その技術を認識してもらうチャンスを増やし、浸透していくことができると考えるからです。既に使われている略語としては、Nuclear Overhauser Effect Spectroscopy(NOE(核オーバーバウザー)現象や化学交換を観測するための二次元NMR(核磁気共鳴))の略語であるNOESYや、Correlation Spectroscopy(二次元NMR測定手法)の略語のCOSYなどが挙げられます。これらの例でも見られるように、略語を説明する際にも別の略語が登場することから技術の積み重ねで研究が進んでいると察せられますが、これらの略語を使わずに表記した場合、論文の中でどれほど字数を取るのか……。しかも、毎回スペルアウトされたところで覚えられません。略語は記憶の助けとなります。とはいえ、略語を使いすぎても読みやすさを損なうことになりかねません。特に、関連技術や該当分野の知識を持たない読者にとって、略語の多用は理解の妨げになってしまいます。「この略語の説明、前に出てたはず」とページを行ったり来たりしなければ内容が分からないとなると、なかなか読み進められないものです。また、略語を誤って小文字表記してしまうと、略語なのか何なのか区別が付かなくなってしまったりするので表記上の注意も必要です。

どんなときに略語にするか

論文執筆中、どんなときに略語にするかの判断基準のひとつは、該当語句の頻出度合いです。その言葉が原稿の中に何度も出てくるものでなければ、略語を使う必要はありません。代表的なスタイルガイドである「The Chicago Manual of Style」には、文章中に同じ語句が5回以上出てくるような場合にのみ略語を使用すると書かれています。学術雑誌(ジャーナル)によっては、固有の略語の使い方、導入方法や定義付けの仕方が定められています。省略の仕方にまで言及しているジャーナルもあるので、投稿先ジャーナルの規定を確認しておきましょう。例えば、PLOS ONEは、略語として一般的に知られていないものについては、論文中に最低でも3回出て来なければ略語にすべきではないとしています。また、引用文献をリストする際にジャーナルの名前を書くことがありますが、生物医学分野でよく使われている論文の出典・引用の示し方ガイド「Vancouver referencing style」には、ジャーナルのタイトルの略称表記については、アメリカ国立医学図書館(NLM)のNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)のデータベース「Journals referenced in the NCBI Databases」に準ずるようにと書かれています。

頭字語と頭文字語の違い

頭字語(acronym)と頭文字語(initialism)は、どちらもいくつかの語の最初の文字をつなげて省略した造語です。頭字語はつなげたアルファベットをひとつの単語のよう発音する(例えば、NASA:National Aeronautics and Space Administration)もので、頭文字語はアルファベットを一文字ずつ発音する(例えば、WHO:World Health Organization)といった違いがあります。いずれも元の意味を保ったまま使われ、見慣れていればこれらの頭字語・頭文字語だけで理解できます。略語の浸透度合いは、その語句の専門性や使用される頻度によって異なりますが、具体的な意味がわからなくても通じるようになることもあるのが面白いところです。最近よく耳にするPCR検査のPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)やRNAウイルスのRNA(ribonucleic acid:リボ核酸)などは生物学用語ですが、COVID-19(coronavirus disease)の拡大ですっかり身近になりました。

略語の種類

科学論文には、上述のような頭字語・頭文字語の他にも数多くの略語が使われており、2つに大別することができます。

標準的な略語

測定単位など一般的に通用する略語は、初出の際にもスペルアウトする必要がありません。g(グラム)、m(メートル)、s(秒)などの日常で使われているものだけでなく、化学記号Na(ナトリウム)やCa(カルシウム)などもこれに該当します。

非標準的な略語

著者は、分野独自の略語や一般の読者には認識されていないような語句を省略する場合、論文中に初めて記載するときに説明を書き添える必要があります。特に、専門的な言葉や新しい技術の名称の場合には、きちんと説明を書かなければなりません。ただし、元は専門的な略語であったにも関わらず、説明を付けなくても理解される言葉もあります。例えば、light amplification by stimulated emission of radiationの略であるLASER、radio detection and rangingの略であるRADARは、「レーザー」や「レーダー」として日常でも使われるようになっています。普及度合いによっては一般的な辞書に記載されていることもあるので、語句によって適宜判断してください。

論文での略語表記の目安

略語を使う際には、最初に定義した意味で、最後まで論文全体を通して一貫した表記になるようにします。

すべてのジャーナルは、著者向けのガイドラインに略語についても指示があるので確認しておきます。また、略語が既に存在している場合は、新たな略語を作るのではなく、既存のものを使います。DNA、RNAやANOVA(分散分析)のようによく知られている略語は説明なしでそのまま使えますが、認知度が高くても複数の異なる意味があるような略語もあるので、そのような語句については初出時に解説しておくのが得策です。例えば、「CD」は、一般的に知られているコンパクトディスク(compact disk)の他に、より専門的な意味として、細胞表面に存在する抗原と結合するモノクローナル抗体のグループ/クラスター(cluster of differentiation)、治癒量/線量(curative dose)、円二色性(circular dichroism)といった意味があるので注意が必要です。
他に、学術論文では以下のようなラテン語の略語もよく使われているので、それらについては慣例に従って記載します。語源がラテン語なのでイタリックで書き、省略していることを表す最後の「.」(ピリオド)は省略できません。

  1. e.g. (exempli gratia):文中で「例」を挙げるときに記載。書き方としては括弧書き(e.g. 〜)されることもあります。
  2. etc. (et cetera):その他いろいろ、等など――を記したいときに記載。
  3. i.e. (id est):「すなわち」または「つまり」という意味で、前の文章で記したことをより明確に言い換えるときに記載。書き方としてはe.g.同様に括弧書きされることもあります。
  4. et al. (et alii):その他の人、そのほかの箇所を省略するときに記載。日本語では「ら」と訳されていることもあります。複数名を意味するものなので、著者が2名だけの時は、「et al.」は使えません。

タイトルや要旨、図表のキャプション中に略語を使う場合

要旨の中に同じ語が2回以上記載される場合、非標準的な略語であっても使用を許されるのが一般的です。ただし、その場合には要旨の中で該当する略語の初出時に説明を付けるとともに、本文の初出時にも同様に説明を付ける必要があります。
読者が論文を検索したり閲覧したりする際にはタイトルやキーワードを使うので、これらの中に略語を入れ込むのは避けるように推奨されています。

PLOS ONEのように、タイトルと要旨に略語を使用しないように厳格に指示するジャーナルもありますが、該当論文にとって重要な場合には、略語をタイトルに入れ込むことが許されることもあります。例えば、「CAMP Responsive Element-Binding Protein (CREB): An Important Signalling Molecule in Physiopathology of Epilepsy」というタイトルの場合、CREB(cAMP応答配列結合タンパク)という略語は、この調査研究の鍵であり、読者に該当論文がCREBに関連する内容であると知らせるために重要な役割を担っているので、この略語の挿入は許容されることでしょう。

図表のキャプションや凡例に略語または頭字語を使う場合には、説明を付けておくとよいでしょう。そうすれば、検索で先に図を見つけた読者を本文に誘導することができます。

略語にも不定冠詞を忘れずに

略語の前にも適切な不定冠詞を付けなければなりません。不定冠詞は略語の発音によって異なります。「FACS (Fluorescence-Activated Cell Sorter:蛍光活性化セルソーティング)分析」のように略語が子音で始まるなら‘a’になりますし、「MRI(Magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)スキャン」のように母音で始まるなら‘an’になります。不定冠詞の使い分けについては、AJE Scholarの記事も参考になります。

最近は、書かれた文章だけでなく、SNSのメッセージあるいは日常会話にも略語が浸透しつつあります。とはいえ、論文で略語を多用しすぎて読者に意味が伝わらなければ本末転倒ですし、誤った略語の使い方で論文の評価を下げることになっても不本意です。論文を執筆するときには、既存の用語、書式(スタイル)、略語や頭字語の使い方の慣例についてガイドラインを熟読し、注意深く指示に従って、読者にも分かりやすく、覚えやすい略語の利用を目指してみてください。

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