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論文投稿から掲載までの時間は長くなっている?!

ネイチャー・ニュース』は、ある女性研究者の悪戦苦闘ぶりを伝えています。彼女はカナダの大学院生で、過去3600万年の化石を18カ月かけて調査し、動物の分布の変化を明らかにしようとしていました。結果はその分野では驚くべきもので、指導教官の勧めもあり、2012年10月、彼女は論文の原稿を『サイエンス』に投稿しました。
しかしその原稿はすぐに却下されてしまいました。次に彼女は『PNAS(米国アカデミー紀要)』に投稿したのですが、またもや却下。『エコロジー・レターズ』でも同様でした。2013年5月には『英国王立協会紀要』に投稿したところ、やっと査読されることになりましたが、2カ月後、賛否入りまじった査読結果が返され、結局論文は却下されてしまいました。
彼女は、いわゆるインパクトファクターにこだわるのをやめ、掲載までにかかる時間が早いという評判のあるオープンアクセス・ジャーナル『プロスワン』に、論文原稿を投稿しました。原稿は査読者に送られ、2カ月後、同誌は彼女の論文の掲載を基本的には却下するが、もし大幅な訂正を行なうのではあれば、再査読することを伝えました。2014年3月、彼女は大きく書き直した原稿を再投稿しました。同誌は別の査読者に原稿を送り、2カ月後、彼女にさらなる訂正を求めました。彼女はその結果を受け入れ、2014年6月、同誌に原稿を再々投稿しました。
2014年9月、彼女の論文はようやく『プロスワン』に掲載されました。彼女が最初に原稿を『サイエンス』に投稿してから実に23カ月後のことです。彼女によれば、「投稿と再投稿を繰り返すことで論文の内容はずっとよくなったのだが、結論が変わることはなかった」といいます。評判も上々のようです。
彼女の不満は多くの研究者に共有されているようですが、では本当に、投稿から掲載までにかかる時間は長くなっているのでしょうか? 『ネイチャー・ニュース』は、カリフォルニア大学で計量生物学を研究する大学院生ダニエル・ヒルムスタイン氏と協力して、掲載までにかかる時間(日数)を分析しました。
ヒルムスタイン氏は、1980年から2015年までに、生物医学分野のデータベース「パブメド(Pubmed)」に収載された論文すべての、投稿から採択にかかる日数を調査したところ、ずっと100日前後で、長くなっているという証拠は得られませんでした。(その間、パブメドに収載された論文の数は、4353件から9045件へと倍増しています。)
また、採択から掲載(出版)までにかかる日数は、2000年代には50日を超えていたのですが、2010年代には25日を切るようになっています。これはおそらく、出版にかかわるテクノロジーの進歩のためだと推測されています。この結果は、多くの研究者が感じている実感とは異なるようですが、興味深い傾向もわかりました。投稿から採択までにかかった日数と、それぞれのジャーナルのインパクトファクターとの関係を見てみると、インパクトファクターが低いジャーナルと高いジャーナルではその日数が長く、中程度のジャーナルでは短い傾向があるのです。
また、人気のあるオープンアクセス・ジャーナルや人気のあるテーマの論文では、どんどんと長くなっていることもわかりました。『ネイチャー・ニュース』は下記のように書いています(同誌の記事とヒルムスタイン氏のブログ記事の生データはこちらで公開されています)。

ヒルムスタインの分析では、『ネイチャー』では過去10年間で85日から150日以上に増加し、『プロスワン』ではほぼ同じ10年間で37日から120日に増加した。

この記事によれば、『プロスワン』の編集者は、同誌の出版プロセスは長くなっていることを認めています。その要因は、論文の数が、2006年には年間200本だったが、現在では3万本にも激増していることだとしています。プロス社では、2015年には7万6000人の査読者を採用しており、適切な査読者を見つけて仕事を依頼するのに時間がかかっている、とのことです。
物理学分野では、「プレプリント(preprint)」という習慣が一般化したことにより、研究者たちの「もっと早く掲載しろ」というジャーナルへの圧力は減少したともいわれています。プレプリントとは、査読前の初期段階の原稿をインターネット上のサーバーで公開することをいいます。しかし、このプレプリントには、新しい知見やアイディアが漏れ出てしまうという問題も指摘されており、他分野で一般的になるかどうかは未知数です。
論文の掲載(出版)は、学位や就職、昇進などに影響するため、掲載までにかかる時間は死活問題です。解決が望まれ、そのための努力もなされてもいますが、それを阻む壁も少なくなさそうです。

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