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その研究、私がやろうと思っていたのに!!

研究の主題が決まり、参考文献もそろえ、実験方法も考えがまとまり始め、いよいよ…と思っていたところ、自分がやろうと思っていた研究を芸術的ともいえる実験方法で行い、目を見張るような綺麗な結果を出したことをまとめた論文が、有名な雑誌の最新号に掲載されている! そう、一足遅かったのです。
もうすでに研究を始めていたり、最悪の場合、論文を書き始めていたりする場合もあるでしょう。いままで費やした時間がまったく無駄になると思うと、心臓も止まる思いです。しかし焦りは禁物です。ここは大きく深呼吸して、次の行動をとりましょう。
まず、出版されたその論文で行われた研究を詳細に分析します。被験者の人数や実験方法、分析のさいに使った学説など、まるで自分が行った研究かのように理解できるまで隅から隅まで精読します。
次に、査読者になったつもりで、出版された研究に欠けていることや改善できる要素を考えます。研究者自身が論文内で認めていることも、鵜呑みにすることなく客観的に考えてください。
そして、出版された研究をここまで理解し尽くしたところで、自分の研究と比較してください。研究がまだ計画段階の場合は、査読者として客観的に批評したことを重点的に考え、既存の論文を土台に、次の水準に達する研究を計画することを心がけてください。ここで注意したいことは、研究を発表した研究者が、同じ主題で研究を続けている可能性があることです。つまり、すでにあるデータの見方を変えるとか、小さな追加研究で論じられることなどでは不十分なのです。
自分の研究がすでに進行中だったり、すでに終わったりしている場合には、既存の研究を詳細に分析したように、自分の研究も分析し、そのうえで比較します。相違点が見つかったら、とくに違う点に注目し、その違いが何を意味するかを考えましょう。結果がほぼ同じ場合、その違いを誇張し、研究の違いにかかわらず同じ結果が出た意義を論じればよいでしょう。結果が既存の研究と違う場合は、どうして違う結果となったかを論じればよいのです。
最もしてはならないことは、既存の研究を無視してほかのジャーナルに投稿することです。自分の論文を全面的に書き直すことになっても、既存の研究を参照して議論を進めるように細心の注意を払ってください。既存の研究を無視するようなことは、その分野の最新の見識がないと思われ、研究者としての信頼性を傷つけるだけではなく、最悪の場合は盗作者とみなされて学術界から追放されることとなります。
事態がそこまで大きくならないまでも、査読者が「似た論文が出ていた」という理由で、その違いを深く理解する前に投稿却下と判断する可能性は高いでしょう。仮に掲載されても、後になってから、編集者に「騙されてほかのジャーナルに掲載された論文とそっくりの研究を掲載してしまった」と誤解されかねません。
…以上は一般論ですが学術界の歴史ではほぼ同じ内容の研究結果が同時期に発表されたことがあります。2007年11月20日(アメリカ東部時間。日本では21日)に、専門誌『セル』のオンライン版が京都大学の山中伸弥教授が、ヒトの体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作成することに成功したことを報告したとき、『サイエンス』もウィスコンシン大学の幹細胞研究者ジェームズ・トムソン教授によるiPS細胞の生成に関する研究結果をオンライン版で発表しました。
報道機関によると、本来は23日に発行予定だった『サイエンス』が発表日を3日繰り上げたといわれています。両者の論文投稿から掲載までの舞台裏ではさまざまなドラマがおきたことが予想されますが、オンライン版が普及した現代ならではの例と言えるでしょう。
上記の例はさておき、もし学術雑誌で自身の研究に近い論文を見かけたら慌てず冷静に対応策を考えることからはじめましょう。

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