STEMからSTEAM:文理融合を目指す教育へ
2000年代初頭には、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの分野を横断的に学び、自分で考えて問題を発見し、解決する力を養うことを目指すSTEM教育が主流でした。しかし、AI(人口知能)が浸透し、単純作業などがAIによって効率的に処理されるようになり、スマートフォンが普及している現代に生きる子どもたちには、STEMの教養(科学技術的な知識)とともに、「自分で考える」力が必要となっています。そこで、最近は創造性や表現力を育成しようとの発想から、STEMにArt/Arts(芸術/リベラルアーツ、教養)を加えたSTEAM教育を推進する動きが広がっています。STEMとSTEAMの違い、日本のSTEAM教育の状況などを紹介します。
STEM教育とは
STEMという頭字語は1990年代に使われ始めました。当初は「SMET」と呼ばれていたものが、2001年にアメリカ国立科学財団(National Science Foundation: NSF)が「STEM」と使ったことからSTEMという言葉が広がったと記されています。1990年代から2000年代にかけてのハイテク・ブームの中で国際競争力を高めるには、科学技術の知識とスキルを持った人材の育成が必要だったため、密接に関わっている科学(S)・技術(T)・工学(E)・数学(M)の4つの分野を関連づけて学ぶように「STEM教育」が推奨されたわけです。
アメリカでは2000年代、国を挙げてSTEM教育を推し進めてきました。オバマ大統領(当時)はSTEM教育を国の優先課題と位置づけ、2011年には年間37億ドルの予算を付けました。2015年にはそれまでのSTEM教育プログラムを法的に支援するためにSTEM教育法(STEM Education Act)を制定し、STEMにコンピューターサイエンスを含めるなど、定義を拡張させていきました。ITが社会に浸透し始めたころ、STEM知識を身につけることは、より給与の良い職に就くためのチャンスにつながったのです。NSFによると、2012年の(米国内の)科学・エンジニア職種の労働者の収入の中央値は78,270ドルで、米国の全労働者の中央値(34,750ドル)の2倍以上であったそうです。
STEAM教育とは:STEM+A
STEAM教育とは、STEMに芸術分野のArt/Arts(A)を追加した教育方針ですが、「A」には幅広い分野が含まれています。STEMが科学的概念に重点を置くのに対し、STEAMは創造的・芸術的なプロセスを含めて捉えることを重視しています。
STEAMは、2006年にアメリカの教育者ジョーゼット・ヤークマン氏によって提唱された教育概念です。これからの人材育成には、科学技術への理解に加えて判断力や問題解決力が必要であるとして、芸術性・創造性を育むことを目的に「A」が追加されました。芸術と科学技術とのつながりは分かりにくいかもしれませんが、例えば、彫刻を学ぶ学生が彫刻を彫らずに、3次元モデルをデザインするためにコンピューターのプログラムを学ぶというようなものです。STEAM教育は、5つの分野の知識・技術を関連づけながら総合的な知識、教養を身につけ、科学的専門性だけでなく、独創的かつ創造的な考え方を養うことを目指しています。
文部科学省によるSTEAMの定義
STEAM 教育(Science, Technology, Engineering, Art,
Mathematics 等の各教科での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科
横断的な教育)
出典:第125回 教育課程部会参考資料1「STEAM教育に関係する政府等の主な方針(抜粋)」
STEMからSTEAMへ
STEMとSTEAMは、どちらも教科横断的な学習により習得した知識と技術を問題解決に応用することを目的としている点では同じですが、STEMが国際競争力を高めるための科学技術人材の育成を重視した教育政策として推進されてきたのに対し、STEAMは科学志向の教育にさらなる価値を付加する総合的なアプローチ、いわゆる理系・文系の枠を超えて知識・技術を関連づけることによって、さまざまな領域にまたがる社会的課題を解決できる人材を育成することを目指すものです。
| STEM | STEAM |
| 理数系の分野が中心で、数学や科学の基礎、技術や工学の応用を学び、社会問題への解決や技術革新をもたらす人材を育成する。 | Art/Artsを加えることで、独創性、創造性を育て、AIやIoTなどの急速な技術の進展により社会が激しく変化する中でも技術革新をもたらすことのできる人材を育成する。 |
日本のSTEM/STEAM教育
日本では、2016年1月に日本が目指すべき未来社会の姿として内閣府が提唱した「Society 5.0」が発表されたことを機に、STEM教育への関心が高まりました。Society5.0とは、科学技術を駆使してさまざまな問題を解決し、経済の発展を目指す社会のことで、これを実現するために必要不可欠なものとして、ビッグデータ、AI、ロボットなどの科学技術が挙げられています。
では、この未来に向けた政策と教育がどうつながるのかといえば、Society5.0時代を生きる子どもたちは、変化の激しい時代を生き抜くスキルが必要なので、そのためにさまざまな分野の知識を総合的に活用した教育が重要だとされたわけです。2017年には、プログラミング教育を含むSTEM分野の教育実践を支援することを目的に「日本STEM教育学会」が設立されています。
その後、AIやIT技術の浸透が進む中、教科等横断的な学習を通じてデジタル化の恩恵を享受できる人材育成と社会構築を目指し、STEM教育からSTEAM教育への変革が進みました。2019年5月には、文部科学大臣を含む有識者で構成された教育再生実行会議が「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について (第十一次提言)」を公表し、この中でSTEAM教育を「各教科での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科横断的な教育」と定義し、Society5.0の実現に向けたSTEAM 教育の推進が提言されています。
さらに、社会の急速な変化に柔軟かつ迅速に対応できる人材を育成するために教育課程の見直しを図ることも記されています。文部科学省はプログラミング的な思考や論理的に考える力を育てるという目的で、学習指導要領を改訂し、学校教育にプログラミング教育を取り入れました。2020年度に小学校でのプログラミング教育が必修化された後、中学校や高校でも順次導入が進められています。
なお、文部科学省は、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲で「A」を捉えており、学習したことを実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進することが重要としています。
複雑化・多様化する現代社会では、広い知識と視野を持つこと、主体的に問題を発見し、解決していくことが、学習だけでなく研究、仕事などを行う上で非常に重要となってくるでしょう。
STEAM教育の課題
プログラミングは、一見すると理系の知識を要するものですが、実社会においては問題解決のための手法のひとつです。プログラミングを学ぶことが、他の分野の問題解決につながることを理解していくことが大切です。
先述したように、2020年度に小学校でのプログラミングが必修になったのを皮切りに、プログラミング教育が広がっていますが、自治体によってICT機器(パソコンやスマートフォン、タブレットなど、通信技術を活用してコミュニケーションをとるための機器)の導入(環境の整備)や教員の指導力(人材の確保・育成)などにばらつきがあるのが課題となっています。
ものを調べたり、その結果を発表したり、共有・配信するにはICT機器を使いこなす力が必要です。文部科学省によるGIGAスクール構想(1人1台の情報端末を小中学校に配備し、子どもたちの学びの形をアップデートする構想)で生徒に対する情報端末配備が進められてはいるものの、まだ不十分なところも多く、環境整備は大きな課題です。
また、STEAM教育を教育現場で取り入れていくには、教職員の育成や人材の確保にも注力していくことが不可欠です。ICTを活用した授業ができる教員がいなければ進みませんし、教科を横断して教える際に、既存教科との時間配分も含めたバランスをとることが教員の負担にもなりかねません。しかも、STEAM教育の成果について評価する基準が整備されていないので、教員が学習成果を正当に評価することが困難です。日本の大学の入学試験は理系・文系で分かれているので、この点でもSTEAM教育の成果は見えにくい状況です。
そして何より、STEAM教育の認知度にも問題があります。文部科学省や個々の教育機関での取り組みだけでなく、民間企業による教育支援なども増えてきてはいますが、「STEAM教育」という言葉の認知度自体はまだ低いのが現状です。STEAM教育の普及を目指すサイトを運営するLycoRicoが2023年に子どもと同居する男女100人を対象として行った調査では、「STEAM教育」を知っているとの回答が27%、聞いたことがある(44%)を含めれば過半数を超えるものの、内容については「詳しく知らない・知らない」が全体の73%を占めていました。
STEAM教育の事例
最後に、日本の大学や研究機関などによるSTEAM教育の事例を挙げておきます。
東京大学生産技術研究所に設置されている「次世代育成オフィス(Office for the Next Generation : ONG)」は、工学分野全般にわたる学際的研究を行いつつ、次世代の研究者・技術者を育成して社会貢献することを目的に、中学生や高校生を対象としたキャンパス公開・出張授業などのアウトリーチ活動を行っています。
東京工業大学は、お茶の水女子大学、奈良女子大学と連携し、2024年度から、日本の未来を担う優秀な女子STEAM生徒の発掘・育成を目標とした教育プログラム「女子STEAM生徒の未来チャレンジ」を実施しています。
また、大分大学や埼玉大学のようにSTEAM教育推進センターを設置しているところも出てきており、新しい広がりができています。
最先端の科学技術研究・開発に携わる研究機関も例外ではありません。海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2023年から、調査で得られた映像などを含めた海洋STEAM教材ライブラリーを公開し、海洋人材の育成のための取り組みを進めています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)も同様に、実際の衛星データを活用したゲーム教材を含むSTEAM教育向けのデジタル教材を公開しています。
科学技術振興機構は、国の研究機関などの教材やSTEAM教育に関する取り組みを紹介する「サイエンスティーム(ScienceTEAM)」を公開しており、このサイトには上述のJAMSTECやJAXAを含めたさまざまな研究機関や、STEAM教育に取組んでいる大学などの情報が網羅されていますので、是非参考にしてみてください。
参考
A Brief History of STEM Dottie Rose Foundation
What Is STEAM Education? Arduino Education
内閣府 Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ>
STEAM JAPAN | これからの時代の、新しい教育のカタチ
STEAM LEARN | STEAM教育に役立つ情報発信教育メディア
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