学術出版におけるプレプリントのメリットとデメリット

学術出版は長い間、知識の普及と科学の発展の礎石とみなされてきました。そこに、研究を共有、精査、強化する方法を再構築する新たな学術コミュニケーションツールとしてプレプリントサーバーが登場しました。本記事では、学術出版におけるプレプリントの役割を掘り下げ、そのメリット、デメリット、研究の将来への影響などを探ります。

プレプリントとは?

プレプリントとは、正式な査読を受ける前に一般に公開される原稿(初期原稿)のことです。研究者は、arXiv、bioRxiv、medRxivなどのプレプリント専用のプラットフォームに原稿を公開することにより、グローバルな科学コミュニティと迅速に研究成果を共有することができます。プレプリントは査読付きの論文とは異なるので、査読を経ていないことと公式な精査が行われていないものであることを伝える注意書きが添えられているのをよく見かけます。

プレプリントは、学術雑誌(ジャーナル)で出版する際に必要となる最終的な仕上げ調整や推敲を行う前の段階で公開される原稿です。一方、ジャーナルに出版される「論文」は、ジャーナルの投稿基準を満たすための厳密な査読や編集者による修正が行われてから公開されます。こうした違いを踏まえ、査読を経ていないというリスクを含みつつも、プレプリントはスピーディーな研究成果の公開と、学術コミュニティからのフィードバックを得るツールとしての役割を担っていると言えます。

プレプリントのメリット

  1. スピーディーな研究成果の公開

従来の学術出版では、投稿から出版(公開)までに数か月から数年かかることもあります。プレプリントサーバーは、研究者がほとんど即座に研究結果を共有することを可能にすることで、時間の問題を解決しています。例えば、COVID-19のパンデミックの際には、プレプリントが早々に共有されたことにより科学者間の迅速な協力と対応が可能となり、緊急時におけるプレプリントの重要性が浮き彫りになりました。

  1. 知識へのオープンアクセス

プレプリントサーバーは、インターネットを使える環境にいる人なら誰でも自由に研究にアクセスすることができるようにすることで、幅広い人たちが情報を収集し、知識を共有できるようにします。従来のジャーナルにありがちな購読契約による障壁を取り除くことができるため、発展途上国の研究者や資金が限られている研究機関にとっては非常に有益です。

  1. フィードバックと協力の促進

研究成果を公開することで、研究者は多様な閲覧者から建設的なフィードバックを得ることができます。正式な査読の前、初期段階で他者による精査、フィードバックを受けることは、仮説を洗練させ、方法論を改善し、研究全体の質を高めるのに役立ちます。疫学者ジョン・イオアニディスが指摘しているように、プレプリントは「研究結果をより早い段階でオープンにすることで、より多くの目で結果を精査し、誤りや改善策を見つけることができる」ものなのです。

  1. 露出度と認知度の向上

学術論文の正式な出版前に研究成果をプレプリントで公開することで、自身の業績やその分野への寄与を拡散するのに役立ちます。同じ研究分野の研究者間での認知度向上にもつながるでしょう。

  1. 透明性と再現性を重視

プレプリントは透明性を重視し、他の研究者が予備データを調べ、検証できるようにするものです。また、研究プロセスの永続的な記録としての役割も担っており、未発表の研究結果であっても、学術コミュニティがアクセスできる状態が保たれます。

プレプリントのデメリット-課題と限界

  1. 査読の欠如

プレプリントに対する主な批評のひとつは、学術出版の品質管理において重要な査読を経ずに原稿が公開されることです。査読という精査を経ていないので、誤りや欠陥のある方法論、あるいは誤解を招く解釈が含まれている可能性は捨てきれません。撤回されたプレプリントを追跡しているデータベースWithdrarXivはこの問題を注視しています。14,000本以上の撤回原稿の分析によって、多くのプレプリントは事実誤認や方法論の誤りが原因で撤回されたことが判明しており、査読なしの原稿に関連するリスクがあるのは明らかです。

  1. 誤って解釈される可能性

プレプリントは、科学者(研究者)以外の人々には、査読付き論文と同等のものであると誤解されることがあります。一例としては、COVID-19パンデミックの初期段階で幾つかのプレプリントの内容がメディアによって誤って解釈、拡散されたことが挙げられます。プレプリントの暫定的な性質(査読によって精査されたものではないこと)について、より明確に伝えていくことが必要です。

  1. 不正流用(盗用)と剽窃のリスク

正式な出版前にプレプリントを公開することで、知的窃盗や研究倫理に反する流用、盗用・剽窃の対象となる可能性は捨てきれません。プレプリントサーバーは、投稿にタイムスタンプを付けて先行性を確立していますが、競争の激しい研究コミュニティでは、盗用・剽窃のリスクが依然として懸念されます。

  1. 従来の出版モデルへの影響

プレプリントサーバーの台頭は、従来の出版モデル、特に購読ベースのジャーナルに多大な影響を及ぼしています。オープンアクセスへのシフトは、おおむね肯定的に受け止められていますが、従来の学術出版の財政的な持続可能性や、学術コミュニケーションに対する長期的な影響に関する疑問を投げかけています。

  1. 誤情報の拡散と倫理的懸念

プレプリントに誰もがアクセスできることで、厳密な評価を受ける前に不備のある、あるいは物議を醸すような知見が支持、拡散されてしまうこともあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にHIVタンパク質が挿入されているといったセンセーショナルな誤情報にはプレプリント由来のものもありました*1。こうした誤情報の拡散を完全に止めることは困難であるため、責任を持って科学的知見を伝えるという著者と、情報を収集して一般に伝えるメディア双方の倫理的責任の重要性を強調するものです。

課題への取り組み

プレプリントに関連する課題を緩和するための取り組みが進んでいます。例えば、bioRxivのようなプラットフォームは、注意事項(免責事項)を強調表示したり、原稿の公開後に査読を可能にしたりするなどの機能を実装しています。

また、WithdrarXivは、研究者が投稿前に潜在的に注意すべき点を特定して対処できるようにするため、一般的な撤回理由についての洞察を提供しています。

プレプリントに対する一般および学術界の理解を促進することも極めて重要です。ジャーナリスト、政策立案者、一般の人々を含めた多くの人にプレプリントと査読付き論文の違いを認識してもらうことで、研究成果を誤解し、誤った情報を利用・拡散するのを減らすことができるでしょう。

学術出版におけるプレプリントの未来

プレプリントの普及は、オープンサイエンスと従来型ではない幅広い研究協力へのシフトを反映しています。AIツールなどの技術的進歩により、プレプリントプラットフォームのアクセシビリティとユーザビリティが向上するにつれ、研究環境におけるその役割も拡大していくと見られていますが、今後もプレプリントの急速な普及と厳格な品質管理のバランスをとることは重要です。

関係者は協力して、エラーを自動で検出するツールの開発や、プレプリント投稿のガイドラインの改善、プレプリントをより広範な学術評価の枠組みに組み込むことなどを含めた、プレプリントに関連する倫理的かつ実際的な課題に取り組んでいかなければなりません。Fry、Marshall、Mellins-Cohenなどが指摘するように、「科学はオープンにすることで恩恵を受ける」ことができますが*2、オープンにすることには用心と説明責任を伴うのです。

結論

プレプリントは、学術情報の公開方法に革命をもたらしました。共同研究、透明性、アクセシビリティを向上させ、世界中の研究者と交流する機会を提供してくれているのです。特に、研究のスピードアップと透明性の向上というプレプリントのメリットは注目に値します。査読の欠如や悪用される可能性といったデメリットは依然として残っていますが、プレプリント利用を促進するため、さらにプレプリント利用者の認識を高めるための取り組みは、より包括的で効率的な科学出版の実現につながるでしょう。

研究者がプレプリントを活用する際の倫理的配慮や、ジャーナル規定の確認などの注意は必要ですが、それらのメリットとデメリットを理解した上で、新しい学術コミュニケーションのひとつとして戦略的に活用してみてください。また、プレプリントあるいはジャーナルに 投稿する原稿の準備で学術的な翻訳へのサポートが必要な際には、学術翻訳投稿支援サービスを活用することをお勧めします。研究成果の影響力を高めるためにご活用ください。

脚注

*1 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.01.30.927871v1

*2 https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/micro/10.1099/mic.0.000785

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