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プレプリントの役割-留意点と投稿ステップ

「君の研究は基礎研究を理解するうえで重要な関連性があるから、学術雑誌(ジャーナル)での公開に先だってプレプリントサーバーで発表した方がいいと思うよ。ジャーナルで論文が公開されるまでの従来のプロセスは時間がかかるので、先を越されるリスクが大きいからね。」と、言われたことがありますか?プレプリントに論文を公表したいけれど、どのようなことに注意すればよいのかと悩んだことのある人がいるかもしれません。ここでは、プレプリントを利用する際の留意点と、プレプリントに論文を投稿する際の手順(ステップ)を解説していきます。

プレプリント論文とは?

研究論文がジャーナルに公開されるまでには時間がかかります。一般的には、ジャーナルに投稿された論文は、編集委員(エディター)によるチェックを経てから分野を専門とする研究者に送られて査読(ピアレビュー)が行われるので、時間を要するのです。プレプリントとは、ジャーナルに掲載することを目的に書かれた論文を査読プロセス抜きにサーバーに掲載し、オープンアクセスで誰でも閲覧できるようにしたものです。著者最終版と呼ばれることもありますが、多くの著者はジャーナルに投稿するのと同じ版をプレプリントサーバーに掲載しています。昨今のコロナの治療法などの医学関連や急速に進歩する情報技術など、研究結果の共有が急がれる分野でプレプリントでの公開が進んでいます。論文著者は、信頼性を確保するためとは言っても時間のかかる査読プロセスを経てから公開されるジャーナルの出版を待つことなく、プレプリントサーバーに論文を公開することで、研究成果を共有し、認識してもらうことができるのです。プレプリントの論文は、査読を受けておらず、特定のジャーナルのフォーマットに合わせた体裁になっていない原稿ですが、投稿された論文にはDOIが割り当てられ、ユーザー独自の判断で引用することができるので、貴重な研究が学術コミュニティに素早く共有されることにつながります。

プレプリント論文の役割

プレプリントを利用した学術研究成果の共有が増え、知識の拡散が促進されています。さまざまな分野のプレプリントサーバーが誕生し、利用されることにより、プレプリントは学術研究において以下のような役割を果たしています。

  • 研究成果を迅速に学術コミュニティで共有できる
  • 読者は、プレプリントサーバーに公開された論文を評価することができる
  • 著者は、ジャーナルで出版する前に、誤りを修正したり提案を組み込んだりすることができる
  • 著書が研究の論点を強化するのに役立つ
  • 著名なジャーナルでの論文掲載につながる協力関係の構築にも役立つ

プレプリントサーバーと関連サイト

プレプリントサーバーは、さまざまな学術論文のデータや情報を掲載したオンライン・リポジトリであり、そこに掲載されるのはジャーナルにアクセプト(受理)されていない段階の学術論文です。論文原稿がプレプリントサーバーにアップロードされると、基本的な審査と剽窃・盗用チェックが行われますが、査読は行われません。プレプリントサーバーおよび関連情報としては以下のようなものがあります。

1. BioRxiv

生物化学、医学、生物学分野のプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold Spring Harbor Laboratory, CSHL)が運営している。

2. arXiv

物理学、数学、コンピュータサイエンス、定量生物学、統計学、電子工学、システムサイエンス分野のリポジトリ。プレプリントサーバーの先駆けとなったサイト。現在はコーネル大学図書館が運営している。

3. ChemRxiv

化学分野のプレプリントサーバー。このリポジトリの構築には、アメリカ化学会(ACS)、英国王立化学協会(RSC)、ドイツ化学会(GDCh)、中国化学会(CCS)、日本化学会(CSJ)が関わっている。管理・運営はACSが行っている。

4. The Winnower

出版後査読を導入しているオープンアクセスのオンライン学術出版プラットフォーム。費用対効果と透明性の高い出版を通して学術コミュニケーションの壁を打破することを目指し、研究者が、公開された学術論文についてオープンな議論を行えるようにするもの。

5. PrePubMed

arXiv q-bio、PeerJ Preprints、bioRxiv、F1000Research、preprints.org、The Winnower、Nature Precedings、Wellcome OpenResearchに投稿された2年間分のプレプリント論文にインデックスを付与したプレプリントの検索エンジン。

プレプリント原稿作成時に留意する5つの点

1. 対象読者と自分の論文の内容を把握する

プレプリントサーバーには、さまざまな分野から独自性のある学術研究を発表する論文が公開されています。そうした中には、研究論文/原著論文、総説論文(レビュー論文)、症例報告、会議報告、テクニカルノート(技術注記)、仮説など、が混在しています。プレプリントサーバーが未発表の研究を公開するプラットフォームであることを踏まえれば、ジャーナルや学会のプロシーディング(講演要旨集)に掲載された原稿は、プレプリントサーバーに投稿すべきではありません。プレプリントの論文を公開するにあたって、読ませたい相手が誰なのかを把握しておくことが重要です。そうすることで、論文の論調を決定し、適切なリポジトリを選ぶことができます。

2. インパクトのあるタイトルと摘要を書く

「タイトル」と「アブストラクト(要旨)」は、読者が最初に目にし、最も注目されるものなので、インパクトのあるタイトルと要旨を書くことが大切です。タイトルには必要のない専門用語を使わず、キーワードを入れ込みます。要約は論文の内容を凝縮するものとして、簡潔かつ必要な情報を伝えられるものにします。詳細を書き記すとともに、研究のあらゆる側面を網羅するようにしましょう。偏りなく示すことが非常に重要です。好ましい成果や結果に言及することはもちろんですが、重要ではない、あるいは不利なデータにも言及すべきです。そうすることで、研究における信頼性が得られ、審査プロセスを通りやすくすることができるようになります。

3. 出版倫理を忠実に守る

査読こそされていないものの、研究結果の記載に正確性が求められる学術論文であることに変わりはありません。著者は、出版倫理委員会(COPE)のガイドラインに準じて、研究の意義についての客観的な論考を行うべきです。剽窃・盗用、データの捏造、画像修正は、それが意図的か意図的ではなかったかに関わらず認められないので、それらが疑われる論文は、掲載審査プロセスの段階で却下されます。研究目的を裏付けるために使用しているデータの使用許諾を確認し、プレプリントサーバーに論文を投稿する際には利益相反を開示するようにします。

4. オーサーシップ(著者資格)を明確にし、ORCIDを提示する

論文の作成に寄与した全ての著者が、プレプリントサーバーへの投稿について認識し、同意している必要があります。まず、誰を著者とするか、つまりオーサーシップに関するガイドライン(国際医学編集者会議(ICMJE)の基準あるいは投稿先ジャーナルのガイドライン)に従って明確にした上で、プレプリントでの発表について意見を確認します。さらに、著者は、ORCID(Open Researcher and Contributor ID)に登録し、プレプリントリポジトリに原稿を投稿する際には、各自のORCIDをリンク付けておく必要があります。こうすることで、発表されたプレプリント論文の信頼性を高め、より多くの人に認識、引用されることにつながるのです。

5. 論文の取り下げ方について確認しておく

プレプリントサーバーに投稿した論文は、通常、公開後に取り下げることができませんが、取り下げができる場合もあります。

  • データの捏造および盗用が発覚した場合
  • 原稿の更新では修正することができない科学的誤りがあった場合
  • 著作権の侵害

こうした場合には、プレプリントサーバーの編集者と諮問委員会の判断により投稿論文が取り下げられますが、「Withdrawn」の表示が取り下げの理由と共に示され、内容は削除されても、その原稿の著者名、タイトル、DOIなどの情報はサーバー上に残りますので、取り下げ申請をすることがないように注意を払いましょう

プレプリントサーバーへの投稿ステップ

研究論文の種類により、論文を投稿するリポジトリを選び、そのリポジトリの指示に従って投稿作業を進めます。

  1. プレプリントサーバーにアカウントを作成し、登録する。
  2. プレプリントサーバーで適用されているガイドライン(Submission Guideなど)を確認し、それに従って投稿原稿を提出する。
  3. 簡単な審査プロセスを経て公開となる。審査では、研究内容、著者の履歴、研究倫理遵守などの確認が行われ、問題がなければ公開となる。
  4. リポジトリに公開されると閲覧可能となり、利用者はダウンロード、共有、引用できるようになる。該当論文にコメントを付けたり、研究者間での議論が可能なリポジトリもある。

まとめ

プレプリントサーバーへの論文の掲載は、読者にとっては最新の研究論文がジャーナルの出版を待たずに閲覧でき、著者にとってはジャーナルへの投稿前に専門家や他の研究者からの意見を聞くことができるといったメリットを含め、学術研究の発展に大きく貢献していると考えられています。しかし、その一方で査読前の論文が出回ることへの懸念もあります。プレプリントサーバーへの論文の投稿数と利用者は増しているものの、プレプリントにはメリットとデメリットの両方があることに留意しておくことも必要でしょう。論文著者は、研究成果を得るまでに費やした時間と労力、成果の内容や緊急性などから総合的にどのような公開の仕方が良いかを検討し、賢い選択をすることが求められます。


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