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【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。後編では、英語力の鍛え方についてお話くださいます。

■英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。
日本人の研究者が 英語力 において、実際に必要とするのは読み書きですね。ヒアリングとスピーキングはそれほど現場では使わないので、読み書きを鍛えるにはまず単語量だと思います。
よく言われるのは、ジャパンタイムズだと10000ワードで、ニューヨークタイムズだと20000ワードぐらいの語彙がないと読みこなせないそうです。サイエンスの領域でそこまでの単語量の必要はないと思いますが、英文は単語を見たときに素早く理解できないと、相当に理解が落ちてしまいます。だから、最初は地道にひたすら黙々と単語量を広げ、同時に英文法も学んでいく。最初は、単語力を日々コンスタントに地道に増やしていくしかないのかなと思います。それを突き抜けていくと論文の読み書きができ、論文を読んだときにも深く理解ができます。その上で自分の関連の論文を読んでいく、その繰り返しです。僕の留学時代には英語の先生について頂いて、週に1回、英会話をやっていました。
その先生が、外国語を習得するのはひたすらpatient、patientだと言っていたのが記憶に残っています。
きっと大学院生には1つのテーマを与えられると思いますが、まずそれに関連した論文を読んでいき、広げていきます。その中で、自分の領域のものは『ネイチャー』や『サイエンス』などの論文を全部暗記するぐらいまで覚える。何度も何度も繰り返し読んでいくのです。
一流誌に出るような英文は、非常にきれいで簡潔で理解しやすいので、こうして表現する力を頭の中にたたき込めます。
ただパーキンソン病に関する分子生物学の世界でも、遺伝子とタンパクの機能とでは、使っている言葉が全く違ってきます。同じ領域でも英文の単語の内容が変わってきますから、最初の頃は本当にその内容を1つ1つ地道に調べていき、一流誌でのその内容をたたき込む、その繰り返しです。
それはもう日々、自分でこつこつとやっていくしかないかなと思います。
原著で自分がおもしろいと思う本を読むこともおすすめです。サイエンス系のノンフィクションでは、Richard Dawkins、Jared Diamond、Nessa Carey等は、個人的に好きでよく読みますが、論文以外に、英文を一冊の本としてまとまって読むことも英文表現力を高めるには良い方法と思います。
■留学についてどのようにお考えですか。必ず行ったほうがよいとか。
機会があるなら、絶対に行ったほうがいいです。
僕の経験ですがアメリカに行って初めて、本当に本当に自分は英語ができないと実感しました。それまでは少しはできるかなと勝手に思っていました。それが同じ英語でも地域でアクセントは全然違うし、会話のスピードも速いし、表現も豊かだし、何を言っているかさっぱりわからない。レストランに入っても料理そのものの単語がわからないし、高いチップの欲しいウェイトレスが必死にしゃべればしゃべる程、もっと分からなくなる。ラボでも、世界中からいろいろ留学生が集まっていましたが、これまた国によって英語のアクセントがぜんぜん違う。指導して頂いた先生方も、ブリティッシュ、アイリッシュ、スペイン人で、本当に一人一人アクセントが違いました。これらを通して、本当にできないということを痛感して帰ってきたことが、実は最高にいい経験になりました。
ある日、留学していた町 JacksonvilleのHodges BLVDにあるスターバックスに入ってニューヨーク・タイムズをちらっと見た時、その当時の北朝鮮の問題が何か書いてありました。これが全然わからなかったのですが、この些細な経験がとても印象に残りました。それからは、科学英語だけでなく、政治、経済、時事問題、食材まで、がむしゃらになんでも単語を覚えていきました。
帰国後も英字新聞はコンスタントに読むようにしています。日本にいたらあんな体験はできなかったと思います。これらの経験もまた、今の原動力になっていると思います。
あとは、自分自身が海外で「外国人」の立場になることは、すごくいい経験になると思います。人種、言葉、宗教、社会システム・・・全然異なる世界に1人身を置くことで、日本ではスムーズにいくことがアメリカではそうはいかないことが経験できる。この大変な経験が、後々自分の人生の器を広げてくれたと思います。留学時代に知り合ったすべての方々に、今でも本当に感謝しています。これは日本に戻ってもきっと役立つ経験になると思います。
だからこそ学生さんには是非行ってきてと勧めています。お願いだから行ってきて!と(笑)
ネットで簡単に情報はいくらでも手に入ります。Google earthを見れば、世界中の多くの景色を見ることができます。しかし、実際に自分が生活して経験するということは、まるで別物です。
■大体何年ぐらい行きますか。その際、どのような形になるかお聞かせいただけますか。
だいたい皆さん2年間ぐらいです。原則大学院で学んだ内容で、奨学金を申請します。それを元にグラントが取れれば、自分の専攻分野のトップリーダーというべき先生の研究室に行くことになることになります。
■どのような英語サービスがあれば使ってみたいと思いますか。そしてよい英語論文を書いていくためにエナゴをどのように活用したらよいかをうかがえますか。
エナゴのよいところは、ウェブサイトが非常にわかりやすいのと、値段もそれほど高くないことです。高くないけど質の高い英文が返ってくるのと、そしてリプライが早いです。
だからすごくいいなといつも思って使っています。ネイティブでないとわからない表現はわからないので、こういうサポートは必ず必要になります。こういう努力をひたすら積んできて、ある程度は私なりの型が完成しました。何度も文章を推敲しこれでいいだろうと思って校正の依頼をかけると、ネイティブの視点からはまた「ああしろこうしろ」となります。そのニュアンスの違いというのは個々人の能力を超えるところがあるので、その壁を取り払ってもらうために僕はエナゴを使わせていただいています。冠詞の適切な使い方等は、なかなかsecond languageとして英語を使っている者には分かりづらいものがあります。
とはいえ論文のデータが悪いもの、文章構成そのものが悪いものをいくらエナゴに頼んでも、それはエナゴだってアクセプトレベルにするには無理だと思います。文法や単語、文章は変えられますけど、元の原石の部分は自分で磨かないといけません。レビュアーが見た時に、それはすぐに感づかれます。新規性やデータの重みは、経験を積んでいるサイエンティストなら一読しただけでわかります。なので、原石は自分でちゃんと作りそれを英文校正会社に依頼する。校正会社に依頼して助かる部分は、あくまでもネイティブの人でないとわからない言語のニュアンスなのです。
■ありがとうございます。今後、今の英文添削だけではなく他にどのようなサービスがあればよいかお聞かせいただけますか。
可能であれば、少しずつ値段を下げていっていただきそれでかつクオリティの高い校正サービスがあればいいなと思います。
利用回数が増えれば増えるほど、値段が下がっていく仕組みもよいですね。
ポイント制もいいかもしれないですし、グラントがなくて、例えば臨床の先生が変わった症例を見つけた時に、ぜひ書きたいと思ったとしましょう。その時、個人で支払える金額以上のものであれば、なかなか依頼したいとは思わないのではないでしょうか。
例えば1本のフルペーパーを10000円以内とか、個人の支払いでも気軽に使えるような金額設定があると、日本の臨床医や研究者が世界に論文をもっと出そうとする気持ちになると思います。グーグルに代表されるように、金額を全部フリーにし、一気に人を集めて、そこから広告代を取ったり、ビックデータを使ったりするとか。AIの技術が昨今はやりですが、これらを駆使して無料で英文翻訳をかなり高い精度で完成させるサービスとか。
そこまでにしなくても、金額についてはもうちょっと一工夫欲しいと思うところはあります。もちろんエナゴも企業なので、利益という問題もあると思います。そこの壁を個人ユーザーでも気軽に利用できるような何かがあれば、もっとよくなると思っています。
■今、1つの原稿を新聞の専門家と英語の専門家の2名でチェックをしています。それを1名だけにして金額を下げるのはいかがですか。
期日は少し長くてもよいので金額をもっと安くしたり、個人の方でも使えるものが出てくれば、もっともっと日本から発信できると思います。
例えばフルペーパー20000円ですと言われますと、自費ではちょっとどうしようかなと迷う金額ですね。出したいけれどお金の関係で出せずにあきらめている人たちも相当数いて、その人たちも使ってもらえるためには何かしらの別の方法があってもよいかもしれないですね。
■若手の研究者にこれだけは伝えたいことがあればお聞かせいただけますか。
若手の研究者の方は、日々本当に英語を勉強してほしい。僕が指導している若手の先生にも日々言っています。論文を書くためだけではなく、世界にどんどん出ていくという意味でも、英語の習得は必須です。
今アジアの国々の台頭が著しく、シンガポールや中国も日本を追い抜く勢いです。それ自体は時代の流れとしてよいと思いますが、その中で日本の研究者が埋没しては良くないかと。世界中の研究者が、お互いに切磋琢磨して上のレベルを目指している時代に、日本語だけではいけないと思います。世界の動き、流行りを敏感にキャッチアップする意味でも、まずは英語の読み書きだけでも良いので、ぱっと見た時にすぐに理解して、それをどう研究に持っていくかという判断力が大切です。そのようなことがサイエンスや医学の世界だと、アドバンテージになってきますから、英語は絶対必要ですね。一歩、外側に踏み出してみると、すごい競争社会ですから。その中で生き残るため、そして自分のサイエンスを大きく広げていくために、様々な研究者とリンクしないといけません。
日本に帰ってきた今でも、やはり世界中の研究所といろいろコラボレートしながら仕事を進めています。その協力体制を維持していくのも、もちろん当たり前ですが英語ができないと進められません。大変かもしれないけどそれを乗り越えていくと、またさらに多くの研究者と知り合いになれて、良い刺激が得られます。ぜひ若手の先生方にもこの大変さを乗り越えて、その後にある見晴らしの良い景色を眺めて欲しいと思いいます。
とにかくやらなければいけない(笑)。そういうことです(笑)。


 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 

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