【千葉愛友会記念病院 整形外科】 倉茂 聡徳 先生インタビュー(前編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ25回目です。

外反母趾の診療に詳しい 千葉愛友会記念病院 整形外科の 倉茂聡徳 部長。「足の外科」と聞くとどんな治療を?と思いますが、今や多くの女性が外反母趾に苦しんでいることを思えば、専門のお医者様がいてくれるのは何よりも心強いことです。前半はご専門の「足の外科」についてのお話です。


先生のご専門は「足の外科」ということですが、少しご説明くださいますか。

整形外科と一言で言っても、かなり守備範囲が広く、部位としては、首から下、首、背骨、腰の骨、上肢・下肢が含まれますし、組織としては、関節もあれば靱帯や腱、神経や血管もあります。例えば、外科や内科が、体の部位によって消化器外科や呼吸器内科などに分かれているのに、整形外科は「整形外科」でひとくくりにされています。ですが、首の骨、手とか足というように、全く構造が違うものを全部ひっくるめて極めるというのは、正直言って無理な話です。あらゆる学会に出て、いろいろ研修を全部受けて――とはいきません。となれば、大学病院だけではなく当院のような私立の病院でも、ある程度は得意とする専門分野があったほうがいいと思っています。どの病院でも同じことをやろうとすると、必要な人員や機材を全て揃えておかないといけませんし、実際、無理だと思います。患者さんの取り合いにもなってしまいます。逆に、他の病院がやっていないニッチな分野を極めればいいと。実際、近隣の病院からは、足で困った症例を私のところにご紹介いただいています。
ちなみに、日本では「足」はまだニッチな分野ですが、アメリカなどでは割とメジャーだと思います。整形外科医の中で、サブスペシャリティとして足を専門にしている先生だけでなく、足だけ治療する資格の「足病医」という医療者もいて、その中でも手術をされている方がいるくらいです。

足の疾患はそれほど多いのでしょうか。

多いです。実は、小・中・高、大学でのスポーツ活動中のケガの統計を見ると、ほとんど下肢です。その中でも、足首から先のケガが最も多い。ほとんどが足首の捻挫や足の骨折です。そのわりにあまりメジャーじゃないというのは、おかしな話ではありますよね。
ケガ以外で足の外科への来院が多いのは外反母趾です。外反母趾は基本的に靴を履くことでひどくなる確率が上がります。日本人が毎日靴を履くようになったのは戦後からです。靴の歴史が長い欧米諸国と違って、歩行に向かないハイヒールなどを通勤に使っていたり、
正しい靴文化がまだ根付いていません。今の若い人には、年齢を重ねるにつれて、どんどん外反母趾などの足の疾患が増えてくるはずです。欧米では、女性だけではなく、男性にも多くの外反母趾があります。日本だけでなく、靴文化が始まったばかりのアジアの国々でも、益々足の疾患は増えていくでしょう。

■ 外反母趾に苦しんでいる人が多いとは聞きますが、予防できるものなのですか?

靴が大事です。靴を履く習慣のない地域や時代では、外反母趾は少ないと言われています。靴を履くということ自体、足にはよくないのです。締め付けすぎもよくないけれど、緩すぎて靴の中で足が遊ぶのもよくありません。あと、足の筋肉を鍛えることも予防につながります。外反母趾にならないために備わっている、足でジャンケンのパーをするような筋肉は、靴の生活ではあまり鍛えられません。外反母趾になる筋肉のほうが相対的に強くなってしまいます。

■ 先生のご専門は、整形外科の中でもかなりニッチなことがわかりましたが、このご専門分野をどのように勉強されたのですか。

今は足の外科を専門としていますが、昔からずっと足をやっていたわけではありません。勤務していた病院には足の専門家がいませんでしたが、整形外科をやっているうちに、足のことに興味が沸いてきました。ただ、自分で勉強しようと思っても周りに詳しい方がいなかったので、勉強会や学会に出向いて話を聞いたり、論文を読んだりしました。医局の外の大学の先生や、他の病院の先生方、国内外の論文に助けられて、少しずつ勉強してきたという状況です。
教科書を読んでも詳細がわからない、または教科書にも出ていないような症例にぶつかった時には、まず論文を検索します。日本語の論文が見つからない時でも、英語論文を検索すれば、同じような症例の報告が、たいていは見つかります。英語なら、マイナーな分野でもかなりの件数がありますから。患者さんの診断や治療に、本当に役に立った論文の著者には、面識がなくても、お礼のメールを送るようにしています。さらにわからない時には、国内外の先生に直接質問することも、よくあります。日本では発表されていないことでも、論文を頼りにアメリカや香港の先生にメールをしたら、懇切丁寧に指導してくださったこともありました。その先生の一人と、2~3年後にアメリカの学会で実際にお会いすることができ、非常に感激したことがあります。後に、その先生は私をアメリカ足の外科学会の会員にも推薦してくださいました。

■ 足の外科を専門とする研究者は、他の外科に比べて多いのですか?

大学病院などには足の専門の先生もいますが、日本ではまだ少ないと思います。どの分野でもそうかもしれませんが、研究が進んでいる部分もあれば、遅れている部分もあるでしょう。日本の、特に大学病院の先生方は、かなり緻密な研究をされていると思いますが、海外の研究者の論文も面白いです。ちょっと違う考え方をしていたり、日本では認可されていない機械を使っていたりすることもありますし。同じ疾患でも、異なった見方があることを教えてくれるので、治療や診療のヒントになることもあります。そういった意味でも、日本の学会に出て日本の論文や雑誌を読むだけではなく、海外の学会に出たり論文に触れるのも、非常に刺激になると思います。

先生ご自身、すごい数の論文を発表されていますね。

それほどでもありませんし、ほとんど症例報告です……。国内外どの学会でも、発表すると他の先生方から質疑応答をいっぱい投げかけられるので、それも踏まえて、なるべく世に出せるものは論文にして出そうと思っています。どうせ出すなら英語で出した方が、いろいろな人の目に触れて、それだけ貢献できるので、なるべく英語で書くようにしています。自分が独学でやってきた時、英語の論文にもかなり助けられたので、今度は逆に他の先生たちに面白いと思ってもらえるものを出せたらいいなと思っています。数を発表するのは無理でも、かなり変わった症例報告とかであれば、他の先生方の助けになるかな、と。今まで自分がさまざまな情報に助けられたので、一種の恩返しみたいなところもあります。

論文はいつ書かれるのですか?時間のやり繰りで工夫されていることなどあれば、お教えください。

大きな病院と違って、医師の数もそんなに多くないので、勤務中は当然まとまった時間などありませんから、スキマ時間を使っています。行き帰りの電車の中とか、安全な場所なら歩きながら原稿を手直ししたりすることもありますし、後は仕事の合間とか、寝る前や朝の仕事に出る前の時間とか――そんな感じです。2年ほど前は、1年間この病院の整形外科は私一人でしたし。今は四人体制ですが。かと言って、専門の患者さんばかりを診ているわけでもないし、他に時間を取られることも多々あるので、合間を見つけて書きます。それでも、自分が苦労したり興味深いと思ったことが、後で誰かの役に立てればうれしいですからね。

■ 年に何本ぐらい書かれるのですか。

最近は減って、2本ぐらいです。発表したときにはあまり反響がなくても、何年かして、「自分も同じような経験をしたので話を聞かせてほしい」と連絡をもらったり、英語で書いた論文に対して国内の先生から連絡をいただいたりすることもあるので、やはり書いておいてムダにはならなかったなあと思うこともあります。少しでも他の人の助けになればいいですね。今でも自分が助けてもらっているみたいに。

論文を執筆されるに当たって印象に残っていることやご苦労されたことはありますか。

最初の頃は、見よう見まねで書いていたせいもありますが、リジェクトばかりでした。ただ、厳しくてもレビューで山ほどの疑問を指摘されて、返されるたびに直していくと、どんどん内容が改善するわけです。それで最終的にその雑誌がダメでも、ちょっとランクを落とした別の雑誌に再チャレンジすると、そこに至るまでにかなり手直しが済んでいるものを提出できるので、アクセプトされやすくなります。一番上は無理でも、そこで引っかからなければ次、そこでダメならその次っていう感じですね。なるべく自分がやったことがムダにならないよう、あまりがっかりしないで食い下がる。やはり専門家として面白いと思ったから論文を書いたわけですし、世に出れば何かしら人の役に立つ可能性があると思うので。まあ中には、まったく自分の思い違いでケチョンケチョンに言われたこともありましたけど。通常は事前にいろいろと調べているので、そんなに酷く全否定されることはないですけどね。

お話は後編に続きます。

 

【プロフィール】
倉茂 聡徳(くらしげ としのり)先生
千葉愛友会記念病院
整形外科 部長
平成4年 新潟大学卒
平成4年4月~27年3月 東大の医局に入局し、以来、東大関連病院の整形外科に勤務
平成27年4月 千葉愛友会病院 整形外科に就任し現在に至る
日本整形外科認定整形外科専門医、日本足の外科学会評議員、関東足の外科研究会世話人などとして整形外科に貢献する傍ら、AOFAS(アメリカ足の外科学会)、EFAS(ヨーロッパ足の外科学会)、GRECMIP(国際最小侵襲足の外科学会)など海外の学会にも所属する。
専門は、外反母趾、強剛母趾、リウマチによる足部変形、扁平足障害、アキレス腱症、足関節・踵骨骨折後の変形性関節症など、足の外科全般。

 

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