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【東京成徳大学 応用心理学部】石村郁夫 准教授インタビュー(後編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ24回目の後編です。

イギリスの大学院のポストグラジュエイト・プログラムで「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」という心理療法を勉強された石村先生。後編は、ご自身の英語との向き合い方のお話と、英語を勉強する人に向けた応援メッセージです。


■ 「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」という日本ではまだ馴染みのない分野を英語で勉強するのに苦労はありませんでしたか。

臨床心理学の勉強を始めたのは大学からなのですが、実は大学3年までは英語の教員になりたいと思っていました。教育相談・心理支援もできる教師になりたいと思っていたので、心理学を専攻しながら英語の教職課程を取っていました。筑波大学は教育と心理の両方を学べたので、心理を主専攻にしつつ、英語の教職課程を取っていたわけです。小学6年のときにアメリカ、中学3年のときにイギリスにホームステイした経験もあって、英語で交流するのは面白いと思っていましたし、英語自体は好きでした。大学2年と3年の間にニュージーランドに1年間の留学にも行きました。ところが、留学から帰国したときに、仲のよかった同級生が自殺してしまったのがすごいショックで……。何で助けられなかったのかという思いが強く、困っている人に対して助けになることはできないかと思って、さらに学びを深めるために心理学で大学院に進学しました。英語教員の道には進みませんでしたが、心理学の業界は海外の方が圧倒的に進んでいるので、それまでに学んだ英語がすごく役立っています。好きだという感覚が一番役に立ったと思います。

■ 英語に抵抗がないということであれば、大学院で論文を書くのにもあまり苦労せずに?

英語で書きたいという気持ちはあったので、下手でも書いてみようと、楽な気持ちで取り組んでいました。継続的に勉強して、留学した後に英検準1級も受けています。ただ、僕が大学院の頃の心理学では、日本語で論文を書く院生が多く、トップ研究者になれば英語論文を書くことになるけれど、必ずしも全員が全員、英語で論文を書けという感じにはなっていませんでした。今キャリアを振り返ると、みんなが日本語で論文を書いている中、英語が好きだからと英語で書いていたことがよかったと思います。大学院の最終年度(2009年執筆)、日本の心理学の最高峰とされる日本心理学会に出した最初の英語論文が、当時(2010年)の学会で優秀論文賞をいただけたのはすごく名誉なことでした。なかなか選ばれないものなので、英語をやってきてよかったなと。下手でもいい、出すことに意義があると指導教官に言われたのが後押しになりました。

■ 最近はどのぐらいのペースで論文を書かれていますか。

あまり書けていません。教育に力を入れると研究に使う時間を取るのがなかなか難しく、本当にストイックな気持ちがないと続かないし、書けません。ダービー大学のプログラムを履修中に英語でケースレポートを2本書いたものがあるので、機会があればそれをさらにいいものにして出したいなと思っています。

■ 英語で論文を書くことや発表することなど、英語での失敗はありますか?

失敗はたくさんあります。まず、英語の基本的な表現ができてないから、カンファレンスなどでの質問に対してうまく答えられないというのは、日常茶飯事です。ダービー大学の授業でのディスカッションでも、なかなか自分の言いたい表現ができませんでした。論文を書くことについては、関連分野の研究者と「論文を書いたから読んでくれない?」「コメントくれない?」と言える関係を保っておくことで失敗を防いでいるとも言えます。投稿する前に読んでもらって、意見を求められる関係を築いてあるといいですね。研究者と仲良くなって日本に来てもらうこともあります。今度、11月にもイギリスからデボラ・リー博士を招いてワークショップを開催します。

■ 論文を書くだけではなく、書籍などの翻訳もされていますよね。

英語が好きなので、翻訳するのは好きです。デボラ・リー博士の本も訳しました。英語はコミュニケーションのために役立っています。海外の研究者と仲良くなって会話をして、そこで何か研究の発想が生まれることもあります。翻訳を少しずつやっていること、翻訳することで自分なりの日本語で表現すること、それを継続すること――それが英語の勉強になっています。

■ 他に英語力を鍛えることは何かされていますか?

筑波大学の名誉教授であり臨床心理学科の元学科長の市村操一先生からの助言もあり、定期的に英語の本や論文を読むようにしています。これは僕が教員になったとき(2010年)からずっと続いていることです。他に、登録している研究グループのメーリングリストから届く半端ない量の英語のメールを読んでいます。読むだけでも結構大変ですが、電車の中などで意識して読むようにしています。最先端の研究グループがディスカッションしているのを読むのは、勉強になります。僕は、典型的な日本人というか、遠くから眺めているほうが性に合っているので、自分から積極的にディスカッションには参加せずに反対意見が出て議論になっているのを横目で見ているだけですが、とても役に立っています。

カウンセリング風景をビデオに撮って英訳して、それを海外のスーパーバイザーに見てもらうこともあります。実際の相談者のやりとりをビデオに撮って、自分の関わり方が、ちゃんとしているか、適切かどうかというのを熟達したスーパーバイザーに見てもらいます。この時の指導やディスカッションは英語になるので、これも勉強になります。

他に、外部の研究機関や大学院で学生相談を行う際、留学生向けに英語でのカウンセリングも行っているので、そこでも英語を使う機会が持てています。
形はさまざまですが、折に触れて、楽しみながら継続しています。

■ 学生への英語の指導では、どのようなことをされていますか。

英語が読めない学生さんは確かに多いです。この大学では、学部4年、修士2年で心理士になれますが、心理士の仕事に英語が必要かと言うと微妙かもしれません。心理士として病院や学校で勤務するわけなので、そんなに英語を必要と考えていない学生が多く、英語の論文を読んでも将来の役に立たない――という雰囲気になってしまうのは残念です。それでも博士課程の学生には英語の論文を読むように薦めています。学生がこんな研究をやりたいとテーマを持ってきたときには、専門的に合うと思った本や論文を薦めたりします。私の研究室では、指導教員の研究テーマを研究するのではなく、学生が自分たちの興味のあるトピックをそれぞれ持ってきます。いろいろ出てくるテーマに沿って指導するために、私自身の英語の勉強にもなっています。

■ 先生ご自身が目指すところとは?

患者さんや苦しんでいる人、従来のアプローチでは良くならなかった人をどうにか救いたいという気持ちが強いです。そのために、CFTは有効だと思っていますし、引き続きCFTが一番やりたいことであると感じています。なので、もっと勉強したい、学会などで専門家と交流して、いろいろな人に日本に来てもらって研修会を開催したりしつつ勉強を深めたいと思っています。このアプローチを広めることは患者によいだけでなく、治療者にも好影響をおよぼすことがわかってきているので、患者と治療者両方のメンタルヘルスが改善できるという意味では、一石二鳥のアプローチです。その点もCFTがいいと思う要因です。

■ CFTを広め、対人援助ができる人を増やす目的で学内ベンチャーを立ち上げたそうですが、この会社についてお話くださいますか。

医療従事者や教員などの対人援助の専門職者、経営者、管理職、アスリートなどを対象に最新の心理学実践研究に基づいた地域やスキルを提供することを目的に、2017年1月11日に立ち上げた学内ベンチャーです。海外の専門家を招いて、非常に低価格で講習会を開催するなど、研修会業務をやっています。役員に対する給与や報酬は頂いておりません。海外であれば40-50万するような講習会を5万ぐらいでやっているので、参加者の方から、こんなに安くて大丈夫なんですかと聞かれたりしています。学会などとは異なり、自由にやれる点が大きいです。学校の施設も使えるし、事務・経理処理などいろいろなメリットもあるので、学内ベンチャーの形をとりました。年1回ぐらいのペースでワークショップなどを開催していますが、このぐらいのペースで続けていかれたらと思っています。

■ 海外の専門家の方とつながれるのも英語あってのことだと思いますが、これから英語を学ぼうとする方へのメッセージをお願いできますか。

英語は世界観を広げるコミュニケーションツールみたいなものですので、どんな分野であれ、研究をしていく上では必ず必要になってくると思います。英語が苦手な人はたくさんいるので、無理に英語を学べとはなかなか言えませんが、いろんなやり方があるので自分にあったやり方を探せばよいと思います。ただ、海外の学会などに一度行ってみて、そこで感じたことや、日々の日常の研究活動の中で感じることを大事にしてもらいたいなとは思います。僕の場合のように、どうにもうまくいかず、日本国内では答えが見つからなくて、一生懸命研修会などに出ても納得できなかったけれど、海外に出てみたら答えが見つかったということもあります。世界とつながるツールとして、英語は可能性を広げるのに役立ちます。英語が苦手な人は、まず好きになってもらってから、何故英語を勉強する必要があるのか、何故大事なのかというところに気付けば違ってくるのではないでしょうか。

研究者の中には、コミュニケーションが苦手な人もいますが、独りでも懇親会に出てみれば、声をかけてくれる人とつながりができるかもしれません。海外に行ったら、絶対2、3人と仲良くなるといった目標をたてるなど、人と関わることを恥ずかしがらないということが大事です。人との関わりが増えれば伝えたいという気持ちも強くなるので、勉強しなければとなって、自然とモチベーションが上がるでしょう。

■ 最後に弊社のサービスについてご要望などあればお願いします。

手続きの簡略化ができたらいいなとは思います。メールで送ったら、料金はこれです、はい終わり――とメールでの簡単なやりとりで済むようになると楽ですね。あとは、研究室に来てもらって年間契約のような形を結べたら面白いなと思います。ウェブ経由ではなくちょっとしたやり取りや論文を書く上での気軽な相談ができるものとか、関わっている人が見えるような形、御用があれば伺いますと言ってくれるような担当者の顔が見えるサービスがあったりするといいかなとも思います。

■ いろいろなお話をありがとうございました。


前編はこちらからお読みいただけます。

 

【プロフィール】
石村 郁夫(いしむら いくお)先生
東京成徳大学
応用心理学部 臨床心理学科
准教授 臨床心理士 専門健康心理士
2009年 筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻 発達臨床心理学分野で博士(心理学)を取得
同年、東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科および東京成徳大学大学院心理学研究科助教に着任
2013年より同准教授
2017年1月11日に東京成徳大学学内ベンチャー規定で承認を受け「プラスワンラボ合同会社」を設立。教育と研究、心理士としての臨床実践、さらに会社の運営まで、日々お忙しくご活躍される傍ら、「クリエイティビィティ―フロー体験と創造性の心理学」(世界思想社、2016年)など多数の著書

 

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