14

【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の経験をもとに、英語論文の執筆力向上についてお話くださいます。

■先生の研究室で扱っている専門分野を教えていただけますか。
私の専門分野はパーキンソン病と、関連の遺伝子の研究です。16年間研究をしていて臨床遺伝学がバックグラウンドになっています。それ以外の臨床上の事柄も研究対象です。2008年から2年間、フロリダのメイヨークリニックに留学しており、パーキンソン病と遺伝子の研究をやっていました。
■英語論文の執筆や学会の発表の場等で、英語で苦労した経験をお聞かせいただけますか。
苦労は、もう日々、すべてです(笑)。最初の頃や留学中は先生たちに全部手直ししていただいたので自分の英語の学力の問題が表面に出ることはありませんでした。しかし、帰国して自分が論文を作る立場になった頃から壁を感じ始めました。それまでいかに先生方からサポートしていただいていたかを痛感しました。指導いただいた経験をもとに自分なりのものを出していくことに今なお日々奮闘しています。
■研究室の方々や共同研究者も苦労されていますか。
皆さん、あまり表面には出さない感じはします。
■若手の研究者や学生は英語の執筆力をどのようにして鍛えていくのでしょうか。
若い先生が英語論文を1本を書く。これは相当大変な作業になります。僕は今、3名の大学院生を指導していますが、なぜ自分がその研究をやるのか、論文を出していくのか、そういう動機が不明確のまま大学院に入る学生さんと、明確にできている学生さんとの間には差があると思います。モチベーションが全然違うとなると、論文を作る作業に耐えられるかどうかにも関わってきます。
まずこのモチベーションが第一だと思います。それはなんでもいいと思います。僕の場合ですが、もともとは医学生のころから病理やDNA、RNAといった世界観が単純に好きで、さらに研究がしたい、留学経験を通して世界中の研究者とつながりたいと思っていました。だからがんばってデータを出そう、 論文 を書こうと、大学院生のときはやっていました。やはり最初に明確な動機がないと、いろいろとうまくいかないのかなと思います。ただ箔を付けたいので、大学院に行ってみましただと、なかなか続かないかと思います。
次に英語の基礎学力の大切さはあると思います。TOEICで700点以上、あるいは英字新聞をある程度読める、それぐらいの英語力がないと、基本的なことが理解しにくいし、書くといってもいきなり書けない。そこの壁はあると思います。
医学部受験まではがんばってみんな英語を勉強しますが、いざ大学に入るとあまりやらなくなり、研修医になると余計やらなくなってしまう。結果としてやらない期間が10年ぐらいあった上で、この研究の世界に入って来ます。きっと昔はできていたはずですが、それができなくなって研究に入ってくる。ここでちょっと大きな壁が1つできます。
だから、英語の環境は維持しておかないといけないと思います。苦手だ、無理だと言ってばかりではだめで、英語のサイトを見たり英語のニュースを見たりするなどして、常日頃から英語にふれておく必要はあるかと思います。さあ、サイエンスの世界で英語をやろうとなったときに、実は相当な壁があり、四苦八苦することになります。
最近はヨーロッパやアジアからの留学生が増えていますし、彼ら彼女たちとも積極的に会話することによって、改善されていくとは思います。
■研究室では誰が、どのように英語指導のアドバイスを行っているか、教えていただけますか。
英語のアドバイスは原則、僕がしています。それに大学院生や若手の病棟の先生がついて、やり取りしながら進めていく形にしています。一度、まず自力で書いてもらい、それを添削します。そしてアドバイスや手直しをしてその原稿を返します。
論文を書く作業を、いつもスキーに例えています。スキーの道具を買う。買っただけでは滑れないですよね。道具を買って、滑って、最初は何回も転びますよね。でも転んで嫌だ、とそこでやめたら上達しません。そのうち、何回か滑っているうちに滑れるようになります。滑れるようになったら、そのあと試合などの現場があります。そこで勝つために専門的なトレーニングを積み、ようやく試合で上位に入れるという、その一連の流れと、論文をアクセプトする流れは全部一緒、と、いつも言っています。
何回も何回も繰り返し書いていくうちに、書き方、表現のしかた、文章の出し方を習得できるようになると思います。まず、下手でもいいからとにかく書いてみようと。フリースタイルでいいので、ダイレクトに英語を書くことを繰り返します。
僕の考えでは、ライティングとエディティングは、随分と違うと思います。ライティングはある程度できるようになりますが、その後エディティングの技術はまた必要になります。この2つの作業は別として捉えた方が良いと思います。
慣れてきたら、例えば、僕も使ったエイドリアン・ウォールワークという本を使いながら、実際のエディティングも意識するようにします。よりパブリッシングに向けての専門的な科学英文の書き方や表現の仕方、特殊記号、例えば、コロン、セミコロンの使い方等を詰めてもらう作業です。エディットとしては、だらだら長く書かない、言いたいことを段落内の一番先に書く、とにかく分かりやすく表現する等、いろいろなコツがあります。
ライティングとエディティングは全く別物だとまず伝えたうえで、初心者の方には下手でもいいからとにかくフリーで書いてもらいます。できあがりを少し添削してあげて、返して、また添削、この繰り返しです。
また、ネットで検索すると、いろいろ科学英文の記載の手法について情報が手に入ります。エナゴのサイト等も活用しながら、より専門的にエディティングする力をつけてもらいます。
■論文が何本も出る機会はなかなかない気がしますが何回も英語を書く機会はありますか。
僕は臨床遺伝、遺伝学の分野なので、純粋基礎の先生に比べるとデータは割と早く出せます。なので、比較的英文を記載する機会は多い方かと思います。
臨床の若手の先生には、ケースレポートを書いてもらうようにしています。ケースレポートだと、最初の研究資金もかかりません。ケースレポートを2本、3本と書いていくと、文章の構成の仕方、頻用する文章の書き方を習得できるようになると思います。サブミットした後は、レビュアーのコメントをもらって、それを手直しして・・・という流れの中で、アクセプトまでの流れを手短に経験できます。
オリジナルペーパーだと、大掛かりで予算も時間もかかりますが、ケースレポートであれば、比較的短時間で多くのことを経験できます。これを繰り返していくと、実は臨床能力も大幅に伸びていきます。
一つの症例を徹底的に調べて、考えて、英文にする。これを繰り返すことは、臨床医としての思考トレーニングに最適です。また、大学院に入った後、大きい基礎研究の大型論文をを書くとなった時にも、とても良い下地になると思います。こういう英文記載のトレーニング方法も、若い先生方にはおすすめです。


後編では、英語力の鍛え方について言及いだたきます。

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 

X

今すぐメールニュースに登録して無制限のアクセスを

エナゴ学術英語アカデミーのコンテンツに無制限でアクセスできます。

  • ブログ 560記事以上
  • オンラインセミナー 50講座以上
  • インフォグラフィック 50以上
  • Q&Aフォーラム
  • eBook 10タイトル以上
  • 使えて便利なチェックリスト 10以上

* ご入力いただくメールアドレスは個人情報保護方針に則り厳重に取り扱い、お客様の同意がない限り第三者に開示いたしません。

研究者の投票に参加する

研究・論文執筆におけるAIツールの使用について、大学はどのようなスタンスをとるべきだと考えますか?