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【日本大学】袴田 航 准教授 インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十五回目は、日本大学生物資源科学部 生命化学科の袴田 航先生にお話を伺いました。後編では、今の若い人たちは英語に接する機会がたくさんあるのだから、その機会を生かせば英語もできるようになるとのメッセージをいただきました。


■ 普段はどのように英語に接しているのですか。
論文を読むことをはじめ、研究に関してはほとんど英語なので、英語に触れている、目にしている時間は長いと思います。最近は、SNS上の論文をスマホで読んでいます。
それでも、論文から収集しているのは化学の知識で英語ではありませんから、スラスラ書けるようにはなりません。わからない単語があれば調べます。今はインターネットを使えば、すぐに答えが出てきますよね。調べながら少しずつボキャブラリーが増えていればいいなと思ってはいますが、忘れるほうも多いです。話す機会は少ないですね。
■ 今は英語を日常的に使用されていますが、中学・高校などで英語を学習し始めた頃には、英語に対する抵抗はなかったのですか。
抵抗やトラウマを持ったことはありませんが、当時、英語なんて使わないだろうと思いながら過ごしていたのは事実です。私たちの世代だと、外国人を見たことすらなかったですから。海外に行くなんて想像もできなかった。中学・高校の頃はこんなに国際化するなんて思っていませんでした。研究者になって英語を使う場に放り出されて、おっとーと思いながらやっています。
■ こんな英語の授業があったらよかったのに、というのはありますか。
少し質問の答えとずれますが、うちの学科のカリキュラムだと、1年生2年生には一般教養の英語があって、2年生後期と3年生の前期後期には専門の英語の授業が組み込まれています。その後、研究室に入って研究英語に触れるという流れで、書く能力は鍛えられます。ただ、この上にしゃべる機会を加える必要があると強く思います。
例えばレストランで、水がほしくて「ウォーター」ってカタカナ読みしても、ネイティブには通じない。そういう体験をすれば、やる気になる子は面白がってやってくれるんじゃないですかね。早い段階で実力を知ることが大切です。それにより、英語へのモチベーションが高まるのではないかと思います。
■ 研究者になったご自身が英語の指導を受けることや、逆に学生に英語を指導されることはありますか。
ここに来てからは特に指導を受けたことはありません。ドクターの学生が論文を書いているので、それを見て直すことはありますが、英語の指導というほどではなく、論旨がしっかりしているかどうかというところのみに限っています。論旨さえできていれば、後は業者さんにお任せできるかと。限られたスペースで結果を説明する能力を磨くことが大事かなと思っています。日本語と英語では文法も違いますが、どちらで書いても論旨は大切ですし、日本語で書けば(英語で書くより)スピードが速いというだけだと思う、と教えています。
■ 日本人の研究者が英語力を鍛えていくには論文を実際に書くことが一番かと思いますが、そのほかに文章力と会話力を鍛えていくのによいと思う方法があればお教えください。
……書く数でしょうね。上達したかどうかは分かりにくいですが、日本語のようには書けないなと苦心しながらも続けることが大切かと。
今の若い人は、私が教育を受けていた頃よりしっかり英語をやっていますよ。英語に接する機会も増えていますし。留学しなくても、街中には外国人がいるし、英語を使う機会があるじゃないですか。このあたりでも、留学生(外国人)と話す日本人学生をよく見かけます。
発音も若い人のほうが上手です。国際学会などで私より上の世代の英語を聞くと、発音がすごい(ひどい)ですからね(笑)。我々より年配の方々は、生の英語を聞く機会はほとんどなかったと思います。生まれたときから英語を聞いている今の若手とは大きな違いです。発音もですが、会話は若い世代のほうが断然優れていると思います。
■ 外国人とのディスカッションを円滑に進める秘訣があれば教えてください。
文化的な違いを理解することではないでしょうか。同じアジアの国々と比べても、気質というか文化的な違いはあります。留学先や学会で多くの韓国人や中国人に会いますが、彼らは口数が多い。でも、たくさんしゃべって会話を成立させることとディスカッションを成立させることは別です。ラボでのディスカッションで自分の主張だけを繰り返しても、まとまらないですから。日本人は黙って人の話を聞く力があります。最後まで聞いた上で、自分の主張を展開する。割り込んできたら、日本語でもいいから「違う違う」と主張する。そうすれば止まってくれます。そうして折り合いを付ける必要があります。
■ なかなか勇気がいることですが、それでも1度踏み込んでみることが大事ということでしょうか。
はい(笑)。私も当初はなかなかできませんでした。留学も自分では決められなかった。でも、英語を話さざるを得ない状況に身を置いたのがよかった。英語とは死ぬまでの付き合いでしょうね。
学生は日常会話から始めてみるとよいと思います。発音が悪いと、どんなにすばらしいことを頭の中で描いても何にも伝わらない(笑)。話す機会をつかむ。これが大事です。

【プロフィール】
袴田 航(はかまた わたる)
日本大学 生物資源科学部 生命化学科 生物化学研究室 准教授

1995年 日本大学 農獣医学部 農芸化学科 卒業
2000年 日本大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 博士後期課程 修了 博士(農学)取得
2000年4月-2001年12月 理化学研究所 動物・細胞システム研究室 基礎科学特別研究員
2002年1月-2005年3月 厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 研究官
2005年4月-2007年3月 厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 主任研究官
2007年4月 日本大学 生物資源科学部 農芸化学科 生物有機化学研究室 専任講師
2009年7月-2010年7月 スクリプス研究所(サンディエゴ)・分子生物学および化学部門・Carlos Barbas III 研究室・客員研究員
2012年4月-現在 日本大学 生物資源科学部 生命化学科 生物化学研究室 准教授

 

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