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【日本大学】袴田 航 准教授 インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十五回目は、日本大学生物資源科学部 生命化学科の袴田 航先生にお話を伺いました。前編では、最初の論文発表で苦労された経験、留学して気づいたこと、英語との向き合い方などを語っていただきました。


■ 最初に先生の専門分野を教えてください。
専門分野は、生物有機化学、ケミカルバイオロジー、メディシナルケミストリーといった内容です。研究分野の名前は異なっていますが、実際の研究内容はかなりオーバーラップしていると思います。ケミカルバイオロジーは日本語だと化学生物学となり、少し馴染みがないかもしれません。研究の内容で一般の方にも身近な話としては、抗ウイルス剤の研究などが一番わかりやすいかと思います。
■ 英語の勉強を始めたのはいつごろですか。
必要になったときに始めたという感じです。学生の時にも英語をやりましたが、厚生労働省に入って1年目の時、「国際学会で口頭発表をしてみないか」と言われ嫌でもやらざるを得なくなった。これがスタートです。
■ そのときのご心境はいかがでしたか。
「ゔ〜〜〜ん」という感じでした。英語で話したことなどなかったので、そこから練習です。その時の国際学会は日本国内で開催される国際学会だったので、今思えば相当気を遣ってそこから始めさせてくれたのかもしれませんが、私にとっては高いハードルでした。発表に向けて練習をする以前に、そもそも英語ができないことが問題で、思っていた以上に書けない、話せない、聞き取れない……。今も変わっていませんけど(笑)。
■ どのくらい前から発表の準備をされたのですか。
学会発表の場合、6か月くらい前に英文の要旨を提出するので、その時に要旨を先生に直してもらうところから始めました。発表の練習は後からチョコチョコと。他の先生方に実際に見てもらったり、ゼミで練習したりしていました。思い出すだけで緊張してきます……。
国際学会とはいえ日本での開催だったので、ほとんどの聴衆は日本人でしたが、200~300人くらい参加者がいるように見えましたから、かなり緊張しました。その後は、年1回、2回、3回と発表の機会が増えるにつれ、徐々に慣れていったという感じでしょうか。やはり数をこなせばコツをつかめると言うか、場数を踏んで何とかなったような、ならないような……。
■ 英語での発表の準備をする中で、自分に合った対策法は見つかりましたか?
背伸びをしないことでしょうか。かっこ悪くても簡単な英単語を正しい順番に一つずつ積み上げていくという説明方法に落ち着きました。自分をよく見せようと思っても、発音が悪いから伝わらない。論文なら複雑な表現など何を書いてもよいのですが、口頭発表では発音が悪いのに難しくて長い単語を使うと、とても伝わらないということに気がつきました。当たり前かもしれませんが、無理にかっこいい表現を使わず、簡単に伝えるのが最善です。
■ 英語の論文発表で特に印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。
7-8年前に1年間、アメリカのカリフォルニア州にあるスクリプス研究所に留学しました。そのときラボのミーティングで発表しろ、と言われ、初めてアメリカの研究室で英語の発表をすることになったのですが、その最中に、ボスがスマホでゲームをしていたのを見た時は衝撃でした……。聞くに堪えなくて遊んでいたのでしょう(笑)。我ながら「そりゃ、そうだな」と思いました。
内容に加えて、発音も拍車をかけたのでしょう。発表に限らず、アメリカに入国してからアパートの手続きをするときとか、ラボで契約をするときとか、通じないことばっかりだったので。
■ アメリカ留学はご自身の希望ですか。
いや、行けと言われて。子供もいたのでためらっていたら、前任の教授に「英語の勉強も含めて行って来い」と。今となれば本当に感謝していますが、最初は大変でした。子供が小学生だったので向こうの学校に入れるのかが心配でしたし、英語が話せない子供が現地の小学校で過ごせるか、とても不安でした。
ただ子供にとっては、海外と日本の違い(ハードル)が無くなったのではないでしょうか。日本で外国の人を見ても、そんなに不思議そうにしていない。日本に戻ってきても、ネイティブの発音は忘れずにいるのは良かったです。ただ、日本の小学校の英語の授業で正しいネイティブの発音ができるといじめられるということがあって、もったいないなと。日本人ってそういうところがありますが、みんなでつぶし合ってどうするんだろうと思います。
■ 今でもアメリカには行かれるのですか。
大学に赴任してきてからはなかなか行けないので、年1回外国へ行って学会発表できればいいというくらいです。去年はドクターの学生を1人連れて発表に行ってきました。やはり英語圏ということで、アメリカを中心に選んでいます。アメリカでの研究が進んでいるというのもありますが、生の英語に触れることが刺激になるというか、英語の本場で発表することで気持ちを高めています。
■ 英語で発表することも含め、英語に対する感触が変わったと感じたのは、どんな瞬間ですか。
発表しているときに英語を聞いて回答が日本語で出てきたときには、ちょっとは分かるようになったかな、と思いました。緊張感がなくなったかなと。英語で何て言えばいいんだろうと考えなくなって、日本語で「そうですねー」と言ってから英語が出る。英語をしゃべることに対するハードルのようなものがなくなって、日本語でもよいんだと思えるようになったというか、そんなときは、だいぶリラックスしてやれていると思えますね。できない自分を受け入れられるようになったんです。できる範囲、わかる範囲で最大限やろうと。
■ 発表はリラックスしてできるようになっても、質疑応答では突拍子もない質問が飛んでくることがあると思いますが、そんな時はいかがですか。冷静に対処できるものでしょうか。
対処できていないと思います。何とかなっているのか、なってないのかわかりませんが、とりあえず空白ができないように、わからない場合でも質問者と簡単な英語で擦り合わせます。全部答えきれているとは思えませんが、答えたいという気持ちが伝わるように気をつけています。
■ 英語に慣れてらっしゃるという感触を抱きましたが、やはり留学の経験が大きいのでしょうか?
慣れてませんよ。英語への接し方の転機を挙げろと言われれば、やはり最初の発表と留学ですね。ただ、決して克服できたわけではなく、あきらめですね。英語が母国語じゃない人と母国語の人が対等に話すのはやっぱり無理なんだな、という一種のあきらめとともに受け入れられるようになって、そこからですね。上達しようというか、少しずつ改善していけばいいんだと思えたのは。一足飛びにこのレベルまで行かなくちゃというプレッシャーはなくなりました。死ぬまでにちょっとでもうまくなればいいかなと。

【プロフィール】
袴田 航(はかまた わたる)
日本大学 生物資源科学部 生命化学科 生物化学研究室 准教授

1995年 日本大学 農獣医学部 農芸化学科 卒業
2000年 日本大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 博士後期課程 修了 博士(農学)取得
2000年4月-2001年12月 理化学研究所 動物・細胞システム研究室 基礎科学特別研究員
2002年1月-2005年3月 厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 研究官
2005年4月-2007年3月 厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 主任研究官
2007年4月 日本大学 生物資源科学部 農芸化学科 生物有機化学研究室 専任講師
2009年7月-2010年7月 スクリプス研究所(サンディエゴ)・分子生物学および化学部門・Carlos Barbas III 研究室・客員研究員
2012年4月-現在 日本大学 生物資源科学部 生命化学科 生物化学研究室 准教授

 

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