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日本の研究費に関する事情と未来

研究に欠かせないのは資金です。研究費なくしては学術研究を続けることはできません。研究費の獲得は個人研究者にとっても、大学・研究機関にとっても常に頭を悩ませることでしょう。日本の研究費を取り巻く状況といくつかの研究資金を助成する公募情報を紹介します。

国の研究費事情

2021年1月、世界レベルの研究基盤を構築するための大学ファンドの創設費用5000億円を含む令和2年度(20年度)の第3次補正予算が成立しました。そして、3月5日には、2016~20年度の科学技術関係予算が総額28.6兆円(グリーンイノベーション基金事業および「10億円規模の大学ファンド」を含む額)に達し、この5年間の政府研究開発投資額を26兆円と定めていた第5期科学技術基本計画の目標を達成したと内閣府が発表しました。第6期基本計画(21~25年度)では30兆円を目標に掲げています。引き続き重要な分野や効果の高い施策への重点的な資源配分を図るとともに、官民の研究開発投資の拡充を目指すとしており、この数字だけ見れば日本の研究資金は潤沢なように見えますが、研究者に十分な研究費が届いているのでしょうか。

日本の科学技術関係予算は少なくないと言われても……

科学技術基本計画で目標としていた科学技術イノベーション関連予算の対GDP比1%(第5期科学技術基本計画においては約26兆円に相当)の目標は達成したものの、米中をはじめとする諸外国の投資額の伸びには追いついていない状況です。実際、世界の研究開発費の国別ランキング・推移(UNESCO統計、2018年データの比較)を見ると、トップ3は米国(581,553百万米ドル)、中国(465,162百万米ドル)、日本(171,294百万米ドル)となっており、2位の中国の金額とに大きな開きがあります(集計値については統計の仕方と思われるが文科省が提示している「科学技術指標2020」に示された額と若干の差がある)。同じ統計にある研究者1人当たりの研究開発費ランキングになると、日本の順位は一気に下がって16位。ここでは中国が17位と日本より下回っていますが、近年、中国政府が科学技術推進に力を入れていることを考えると2019年以降のデータでは入れ替わりがあるかもしれません。問題はこの予算がどのように配分されているのか、研究者がいくら使えるのか、という点です。現実問題として「研究予算は厳しい」と考えている大学や研究機関などが多々あります。さらに、研究の生産性は研究費だけでなく、研究インフラ・雇用環境にも左右されます。研究者が大学内の事務手続や、研究費の申請などの事務手続に時間を取られていることが指摘されており、それを裏付ける数字として、大学教員の総職務時間に占める研究時間割合が、2002年から2013年の間に46.5%から35%に減少していたことが示されています。資金に加えて研究時間も不足してしまったのでは研究は立ちゆかなくなってしまいます。政府は、「競争的研究費制度」に関する事務手続のルールが省庁間で異なることが研究者への負担増の一因であるとの指摘を受け、研究者の研究環境の改善等に向けて事務負担を軽減することを目指し、研究費のルールを統一化することを表明しました。この試みが、研究者が研究に集中できる環境の整備につながることを期待します。

研究資金源の多様化

長い時間を要する基礎研究では研究助成金の獲得が難しいため、成果が出やすい研究、社会的なインパクトが大きいと期待されている研究、実用化しやすい研究などの応用研究を選択する研究者もいるでしょう。研究開発への投資額が全体として増えていても、競争を勝ち抜かなければ研究費を獲得できず、しかもすべての研究者が必要十分な研究費を獲得できるわけでもありません。とはいえ、明るい話題もあります。近年は、研究費の獲得方法も多様化が進み、行政機関からの資金だけでなく、大学や研究機関による独自の基金や、財団や団体・企業による研究助成も増えています。寄付による基金の設立や、クラウドファンディングで研究費を獲得することもひとつの手段として受け入れられつつあり、学術系クラウドファンディング「academist(アカデミスト)」には成功を収めた数々のプロジェクトが掲載されています。関心のある人が少しずつでも資金を提供することで研究を支援するというスタイルが、日本でも広がってきています。初めから科研費のような大型の研究助成金に挑むのではなく、民間助成基金やクラウドファンディングを利用して小規模な研究から始め、その研究成果をもってより大型の助成金に応募し、研究を拡大していくことも可能となってきているのです。どのような研究費を獲得し、どのように研究を広げていくか、中長期的な研究費獲得戦略を考えていくことが必要となっています。

研究費獲得のチャンスを探す

一口に研究費といってもさまざまです。政府資金に基づく科学研究費助成事業(科研費)は、人文学、社会科学、自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を発展させることを目的とした「競争的研究資金」です。他にも団体・機関や民間企業が研究助成金の公募を行っているので、大学病院医療情報ネットワークセンター(UMIN)のFIND(研究助成等)公益財団法人 助成財団センターの助成情報(助成金募集ニュースや助成金情報データ検索)のような公募情報サイトを確認しておくと研究費獲得のチャンスを広げることができるでしょう。

2020年はCOVID-19感染拡大により、国境を超えた移動が制限されたり、大学・研究機関が閉鎖されたりするなどに加えて、研究助成金の応募休止など、研究活動を妨げる出来事が重なりました。それでも、ASEAN諸国を中心に助成・フェローシッププログラムを展開する国際交流基金アジアセンターが、コロナ禍に対応した国境を越えた人の移動を伴わない交流事業への支援に特化したプログラムの実施を表明したり、公益財団法人 トヨタ財団2021年4月に新助成テーマによる公募開始を予定したりしているなど、少しずつですが動き出しています。チャンスを逃さないように注意が必要です。

自分に必要なプログラムを見つける

若手研究者の中には、研究活動そのものを継続するための資金援助が必要という人もいることでしょう。研究費全体を支援するもの以外にも、(現時点では国外渡航しての学会参加などは制限されているものの)国際的なシンポジウム・セミナーなどに参加する費用を支援するものや、奨学金のような財政援助などもあるので、自分に必要なプログラムを見つけて応募するとよいでしょう。幾つか挙げてみます。

  • JAPAN-IMF スカラシップ・プログラム(JIST):日本政府が資金を提供する海外でマクロ経済学博士号を取得しIMFエコノミストを目指す日本人を対象とした2年間の奨学金制度。大学院におけるマクロ経済学の勉強に必要な2年間の経費を支援するプログラム。
  • 世界銀行奨学金プログラム(World Bank Scholarships Program):世界銀行が、日本政府による世界銀行への拠出に基づき運営する日本/世界銀行共同大学院奨学金制度(JJ/WBGSP)。主として開発途上国の人々を対象としているが、一部に世界銀行などの開発金融機関での活躍を目指す日本人のための枠が設けられている。日本人向け特別枠の募集期間は2021年4月1日~5月1日。
  • ドコモ奨学金:社会的養護出身者とアジア諸国からの留学生に対する奨学金支給等の経済的支援事業。大学(4年制)・短期大学・専門学校に入学を予定している社会的養護出資者への支援を行う公募による返済不要の奨学金事業、およびアジア諸国からの私費留学生に対し経済的援助を行う事業。

これらは一例に過ぎません。国際的な研究活動を支援する事業には、国際共同研究(国外の研究者との共同研究)への支援、国際的なシンポジウム・セミナーの開催または参加の支援、国外での研究活動の支援、外国人研究者を日本に招聘するための支援(ex.外国人特別研究員)、若手研究者に国際的な経験を積ませるための支援(ex.若手研究者海外挑戦プログラム)など、多種多様な支援があり、ここに全てを網羅することはできません。さらに、大学を国際化するための支援(ex.大学の世界展開力強化事業)や研究拠点を形成するための支援(ex. 世界トップレベル研究拠点プログラム)まであります。

大学の研究や若手の育成を支援する最大10兆円規模のファンド(基金)の創設が決定したことを踏まえ、今後、学術研究への支援がどのように強化されるのか、実質的な日本の研究力強化につながるのか注視されていくことでしょう。

最後に、補足として日本が国外の若手研究者向けに提供しているプログラムも参考までに2つ紹介しておきます。

  • 文部科学省 ヤング・リーダーズ・プログラム(Young Leaders’ Program): アジア諸国等の指導者として活躍が期待される行政官、経済人等の若手指導者を、日本の大学院等に招へいし、1年程度の短期間で学位を授与する新たな留学プログラム。さまざまな大学がこのプログラムのもとで留学生を受け入れている。
  • 国連大学フェローシップ:特に開発途上国出身の若手研究者や政策立案者を対象に、ポスドクフェローシップを提供するプログラム。現在は、海外の研究者を対象とした 「日本学術振興会(JSPS)と国連大学によるポスドクプログラム」を実施中。

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