14

大学コンソーシアムVS出版社 オープンアクセス紛争

学術雑誌のオープンアクセス化に向けた利用者(研究者、大学など)と出版社との論争は、既に何度も記事にしている通りです。しかしここ数か月の間に、ヨーロッパの大学やコンソーシアムと出版社の紛争に、いくつかの進展が見られました。出版社と納得のいく契約を結べたコンソーシアムがある一方、交渉が膠着状態に陥っているところもあります。学術界の懸念事項である、オープンアクセスにまつわる紛争の状況について見ていきましょう。

■ アクセスを確保したフィンランドと韓国

2018年1月17日、フィンランドの大学・研究機関・公共図書館からなるコンソーシアムFinELibが大手出版社エルゼビアと、3年間にわたり1850誌へのアクセスを可能とする契約を締結したと発表しました。FinFLibに登録している13の大学、11の研究機関、11の応用大学が、世界最大の論文データベースScience Directに収録されている1850誌に、3年間アクセスできるとする内容です。さらに、この契約にはフィンランドの研究者が、エルゼビアの学術雑誌に研究成果をオープンアクセスで公表する際のAPC(論文処理加工料)を半額にすることも含まれています。

また、2日違いの1月15日、韓国の大学コンソーシアムも長期交渉の末、エルゼビアと契約を締結するに至ったと報道されました。韓国の大学コンソーシアムは、最終的に契約料金の値上げで合意したと書かれており、Science Directへのアクセスが遮断される直前に、かけこみ合意で難を逃れたようです。

■ オランダでの契約合意はオープンアクセスを加速させるか

2018年3月には、オランダの14の大学からなるコンソーシアム、オランダ大学協会(VSNU)とシュプリンガー・ネイチャーオックスフォード大学出版局(Oxford Universities Press,OUP)ワイリーなどの大手出版社との間で、購読およびオープンアクセス出版に関する契約の延長が合意されました。シュプリンガー・ネイチャーとの契約には、オランダの大学の研究者が研究成果をオープンアクセスで公表する際の出版費用(APC)を3年間(2018-2021年)無料(論文数で年間2080本分)とすることと、250誌以上の学術雑誌の購読を無料とすることが含まれています。年間発表数は、これまでの実績から割り出したとしていますが、この契約によって出版費用の負担が軽減されることから、オランダの研究者はより多くの論文をオープンアクセスで発表できるようになりました。

大手出版社によっては、コンソーシアムが支払う料金次第で、ジャーナルの100%のオープンアクセス化にも同意するとしています。VSUNが出版社と結んだ購読およびオープンアクセス出版に関する契約は、オープンアクセスの流れに一石を投じたとも言えそうです。

実際、シュプリンガー・ネイチャーとの契約は、2014年に結ばれたものの延長であり、2014年から2017年の間に同社の雑誌にオープンアクセスで公開されたオランダの論文の割合は、2014年の34%から2017年の84%に上昇したことも示されています。このことからも、今回の延長期間にも、オープンアクセスでの論文公開が増加することが期待できます。

■ フランスでは契約打ち切りで紛争継続

他方、フランスでは雲行きが怪しくなっています。3月30日、フランスの250の学術機関からなるコンソーシアムCouperin.orgは、シュプリンガー・ネイチャーとの同社の学術雑誌購読に関する2018年の契約を打ち切りました。Couperinは、オープンアクセス論文の増加にともなうAPCの支払いが増加したことから、購読料とAPCの二重支払の解消、および購読料の減額を13か月にわたって交渉してきましたが、合意に至りませんでした。Couperin.orgが算出したところによると、購読料の値上げを譲らなかったシュプリンガー・ネイチャーは、これによって600万ドルの損失を被るとのことです。

シュプリンガー・ネイチャーは、今回の契約打ち切りは、同社の総2900以上の雑誌のうちの1185雑誌に過ぎないことなどをあげ、交渉を続ける姿勢を表明しています。また、 Couperin.orgには250の大学・研究機関が登録しているものの、今回の同社との契約に関与しているのは100であるとも述べています。今のところ、フランスの大学の研究者たちは同社の記事にもアクセスすることができますが、今後、購読料の値上げが果たしてなされるのか、記事へのアクセスが遮断されるのか、それとも……。成り行きを見守る必要がありそうです。

■ 論争は続く

オープンアクセス出版が増加の一途をたどる一方、大手出版社のジャーナルの購読料も値上がりしていることが、学術機関の予算に大きく影響しており、各地で紛争が勃発する事態を招いています。学術界は、高額な出版費用および購読料に対して抗議していますが、出版社は経営上、不可避な決断であると述べており、両者の間には壁が立ちはだかっている状況です。

それでも、公的資金による研究の成果は誰でも無料で見ることができるようにするべき、との声は後を絶ちません。今後は他の国の大学や研究機関も、ヨーロッパなどの事例を見ながらオープンアクセス合意を目指し、交渉を始めることが予測されます。出版社が今後、どのような対応をしていくのか。引き続き注目していきます。

 

こんな記事もどうぞ
エナゴ学術英語アカデミー:エルゼビアが浮き彫りにした学術誌出版のコスト問題
エナゴ学術英語アカデミー:「エルゼビア紛争」は続く

参考記事
Enago academy: Elsevier and the Finnish Consortium Collaborate on the Open Access Agreement 
Enago academy: The Future of Open Access Publishing: An Interview with ScholarlyHub

X

今すぐメールニュースに登録して無制限のアクセスを

エナゴ学術英語アカデミーのコンテンツに無制限でアクセスできます。

  • ブログ 560記事以上
  • オンラインセミナー 50講座以上
  • インフォグラフィック 50以上
  • Q&Aフォーラム
  • eBook 10タイトル以上
  • 使えて便利なチェックリスト 10以上

* ご入力いただくメールアドレスは個人情報保護方針に則り厳重に取り扱い、お客様の同意がない限り第三者に開示いたしません。

研究者の投票に参加する

研究・論文執筆におけるAIツールの使用について、大学はどのようなスタンスをとるべきだと考えますか?