構文とは?アカデミック・ライティングでよくあるミスと修正方法
論文を始めとするアカデミック・ライティングでは、自分の考え、発見したことを含めた研究の成果などをいかにうまく伝えるかが重要です。アカデミック・ライティングでは全体的な文章構成も重要な要素ですが、文章自体が不完全だったり冗長である、つまり構文にミスがあると、文章の明瞭さと流れが損なわれてしまいます。特に、学術文章は内容自体が複雑なので、一般的な文章よりも理解するのが難しくなりがちです。読みやすく、わかりやすい文章を書くため、アカデミック・ライティングでありがちな構文ミスと修正方法を確認してみましょう。
アカデミック・ライティングの構文に求められること
構文とは、ある言語の文法ルールに則って単語や区を配置する基本的な文型や一文の構造のことを指します。
非常に基本的なことですが、アカデミック・ライティングの構文には、正確さと明瞭さが求められます。裏付けのない仮定、断片的な文章や逆にダラダラとつながるRun-on Sentences(ラン・オン・センテンス)、不適切な位置に挿入された修飾語などのよくあるミスは、読者を混乱させ、内容の理解を阻みます。
アカデミック・ライティングの構文には、読者に内容が伝わるように分かりやすい文章であること、主張を裏付ける根拠を正確に提示する科学的な文章であることの2つが求められることを覚えておき、この特徴を踏まえて書くことを心掛けてください。では、アカデミック・ライティングの構文でよくあるミスを見ていきます。
アカデミック・ライティングの構文でよくあるミス
Incomplete Sentences(不完全な文章)
不完全な文章はアカデミック・ライティングでよく見られる構文ミスです。全ての文には主語と動詞が必要であり、不完全な構文は読者に混乱を招きます。従属節や句だけでは完全な文章になりません。学術文章としての信頼性にも影響するので、基本的なことですが、十分に注意するようにしてください。
構文ミスの例:While working on the project.
修正例:While working on the project, the team encountered several challenges.
各文に主語と動詞が含まれていることを確認します。
Fragments(文章の断片化)
断片化した文章とは、主語や動詞が欠落しているか、意味のつながらない単語が並んでいる状態です。不完全な構文と同様、従属節やフレーズだけでは文章として成立しません。主語と動詞を追加する必要があります。
構文ミスの例:People seek counselling. When they are experiencing difficulty coping with aspects of their lives.
修正例:People seek counselling when they are experiencing difficulty coping with aspects of their lives.
ただし、文が断片的になるのを避けるあまり、ひとつの文章に内容を入れ込みすぎるとダラダラした印象になるだけでなく、主旨が伝わりにくくなってしまいますので、冗長な文章になるのは避け、簡潔に伝えるようにしましょう。(下段Run-on or fused sentences参照)
Subject-verb Disagreement(主語と動詞の不一致)
文の主動詞は主語と一致していなければなりません。主語と動詞の不一致は、単数/複数が一致しない場合に生じるので、不一致を修正するには、動詞を主語の数に合わせる必要があります。特に主語が不可算名詞(non-count noun)の場合には注意が必要です。
構文ミスの例1:The cloak of many colors are mesmerizing.
修正例1:The cloak of many colors is mesmerizing.
構文ミスの例2:The news this morning were more depressing than ever.→ニュースは単数です。
修正例2:The news this morning was more depressing than ever.
相関接続詞(both A and B、either A or B、neither A nor B、not only A but also B)が含まれている場合にも注意が必要です。either…or/neither…norで繋げられた文章の一方の主語が単数形、もう一方が複数形の場合には、動詞は近い方に合わせます。
構文ミスの例3:Neither John nor Fred have been invited to the wedding.
修正例3:Neither John nor Fred has been invited to the wedding.
構文ミスの例4:Neither Luke nor his sisters has been invited to the dinner.
修正例4:Neither Luke nor his sisters have been invited to the dinner.
不特定の人や物などを漠然と指す不定代名詞(everyone, anything, eachなど)が含まれている場合にも構文ミスをおかしがちです。
構文ミスの例5:Everything have their place. →Everythingは単数扱いです。
修正例5:Everything has its place.
Run-on or fused sentences(ラン・オン・センテンス、無終止文)
Run-On Sentences(ラン・オン・センテンス)とは、2つ以上の文章が、接続詞もないままに不適切につながっているような文章です。英文ライティングが得意な人でもミスをすることが多く、英文校正ツールでもよくチェックが付くものです。Run-Onセンテンスには長いものも短いものもありますが、2つ以上の独立した節のつなぎにコンマやピリオド、セミコロン、接続詞などを適切に挿入することで改善できます。
適切な位置に句読点を付けないと、Run-onセンテンスや無終止文になってしまいます。Run-onセンテンスは、文法的に正しくないだけでなく、読みにくくなる上に、間違った解釈をされる恐れもあるので、注意が必要です。
構文ミスの例1:Henri bought the Christmas tree Louis put it up and decorated it.
修正例1:Henri bought the Christmas tree; Louis put it up and decorated it.
構文ミスの例2:I first became interested in biology when I was 10, I want to be a biology professor at a university.
修正例2-1:I first became interested in biology when I was 10. I want to be a biologist at a research university. →独立節を別々の文に分けます。
修正例2-2:I first became interested in biology when I was 10, and I want to be a biologist at a research university. →コンマを付け、その後に調整接続詞(for, and, nor, but, or, yet, soなど)を挿入します。
修正例2-3:I first became interested in biology when I was 10, and I want to be a biologist at a research university. →セミコロン(;)を挿入して文章を分けます。
Inappropriate use of pronouns(代名詞の不適切な使用)
代名詞の不適節な使用のひとつに、代名詞が参照する名詞との不一致が挙げられます。代名詞はその先行詞(代名詞が指す名詞)が明確になっていること、先行詞と数が一致していることに注意します。
構文ミスの例1:Beatrice’s mother let her take her new camera on the trip. →この文では新しいカメラはBeatriceのものか彼女の母のものか不明確です。
修正例1:Beatrice was allowed to take her mother’s new camera on the trip.
直前の節や文を指すために“this”, “that”, “which”などが使われている場合にも不一致が生じないようにします。
構文ミスの例2:The orchestra rose to its feet and the conductor twirled her baton, which delighted the audience.→whichがオーケストラの動きなのか、指揮者の動きなのか不明確です。
修正例2:The orchestra rose to its feet, and the audience was delighted when the conductor twirled her baton.
Punctuation misuse (句読点の不適切あるいは過剰な使用)
コンマ、ピリオドなどの句読点は、単語、フレーズ、節を区切るため等に使われ、読者が文章を理解するのを助けます。また、疑問符や感嘆符は、話し手(書き手)の感情を示すのにも役立ちます。句読点の使い方でよく見られるミスは、ピリオドで区切る代わりにコンマで独立した文章を繋ぐコンマの過剰使用です。
Run-onセンテンスにもつながりますが、複数の独立節をコンマだけで繋ぐのは誤りです。コンマの過剰使用を修正するには、2つの独立した節をピリオド、セミコロン、または接続詞を使用して分離します。
また、コロン(:)とセミコロン(;)の使い方もミスしやすいものですが、ともに文章を区切るために使われます。コロンは前の文の定義、説明または具体的な例を示す際に使用されます。セミコロンは、コロンと同じように文中で接続詞のような役割を担いますが、コロンよりも少し区切り感が弱く、両者の関連(因果関係や対比)があることを示します。
構文ミスの例1:The government made drastic cuts to education and social programs, however, it did not raise corporate taxes. →コンマは2つの独立した文章をつなぐことはできません。
修正例1:The government made drastic cuts to education and social programs; however, it did not raise corporate taxes.
構文ミスの例2:Maria avoided the limelight, her privacy was of paramount importance to her.
修正例2:Maria avoided the limelight: her privacy was of paramount importance to her.→コロンは2つの独立した文章をつなぐことができます。
Misplaced parts/modifier reference(誤った修飾語の挿入)
どの名詞や代名詞を修飾するか明確になっていない修飾語を挿入すると、読者の混乱あるいは誤解を招く恐れがあります。修飾語は的確な位置に挿入する必要があり、挿入位置を誤ると意味が伝わらなくなってしまいます。
構文ミスの例1: After finishing my homework, the TV turned on.→TVが主語のように見えてしまうため、TVが宿題を終えたかのようにも見えてしまいます。
修正例1:After finishing my homework, I turned on the TV.
副詞(actually, even, almost, onlyなど)によっては書き手が修飾したい単語の直前に置くべきものもあるので注意しましょう。
構文ミスの例2:He only left ten minutes ago.→これだと「彼が去っただけ」となってしまい時間については関係ありません。
修正例2:He left only ten minutes ago.→onlyが10分という時間を強調しています。
また、フレーズを不適切な位置に挿入して文章を分割することは避けます。
構文ミスの例3:Miriam had, according to Angelo, already reported the incident to the Occupational Health and Safety officer.
修正例3:According to Angelo, Miriam had already reported the incident to the Occupational Health and Safety officer.
それぞれの文に応じて、主語を追加したり、修飾語を含む句やフレーズの配置を変えたりすることで何を修飾するかを明確にします。
Parallelism(平行性のミス)
平行性のミスとは、文やリストで列記した項目(同じ順位や価値の思考など)が文法的に平行に示されていないか、パターンや構造に準じていないものです。平行構造にするためには、名詞には名詞、不定詞には不定詞、前置詞句には前置詞句のように形式をそろえる必要があります。
構文ミスの例1:He likes to read and playing hockey.
修正例1:He likes to read and to play hockey.→同じ形式に揃えます。
比較のthanやasでつながっている場合も同様です。
構文ミスの例2:A labourer’s salary is as difficult to earn as a lawyer.
修正例2:A labourer’s salary is as difficult to earn as a lawyer’s.
構文ミスの例3:I have observed that a child’s perceptions of the world are sometimes more astute than an adult.
修正例3:I have observed that a child’s perceptions of the world are sometimes more astute than an adult’s.
さらに、主語と動詞の不一致でも指摘しましたが、相関接続詞(either . . . or, neither . . . nor, both . . . and, not only . . . but alsoなど)で文章がつながっている時には、主語・動詞だけでなく、それぞれの文章中の項目が平行になっているかにも注意します。
構文ミスの例4:Neither wringing your hands nor if you pull your hair will solve the problem.
修正例4:Neither wringing your hands nor pulling your hair will solve the problem.
Omissions(単語の省略や抜け落ち)
フォーマルではないライティングやスピーチでは単語の省略がよく用いられますが、フォーマルなライティングでは不必要な省略は避けます。重要な情報の欠如はもちろん不完全な情報は誤解を招く要因となるため注意が必要です。
Illogical Subordination(非論理的な従属関係)
従属関係は、文中のアイデア間の論理的な関係を伝えるために重要です。書き手が従属関係を使うのは、最も重要な考えを表す独立節(主節)と、関連はあるがそれほど重要でない考えを表す従属節を強調する場合です。従属関係に関する注意はさまざまですが、従属接続詞を誤って使用することで文章の関係が非論理的になっていても、なかなか書き手はミスに気づきにくいので注意しましょう。
構文ミスの例:When she spent many hours studying, she needed high marks to get the scholarship.→注目すべきなのは時間ではなく、奨学金を受けるために必要なのは好成績であるべきです(因果関係)。
修正例:She needed high marks to get the scholarship, so she spent many hours studying.
Inappropriate Comparison(不適切な比較)
比較は2つ以上のものの関係を伝えるものなので、2つの考えやアイデアの比較は両方に言及すると共に、文法的にも注意しなければなりません。
構文ミスの例1:Many people eat margarine because they think it’s healthier.
修正例1:Many people eat margarine because they think it’s healthier than butter.
構文ミスの例2:Earning a decent living is more difficult these days than you could twenty years ago.→この文例だと「できることよりも難しい」となってしまい比較として論理的ではありません。
修正例2:Earning a decent living is more difficult these days than it was twenty years ago.
構文ミスの例3:The Trans-Canada Highway is longer than any Canadian highway.→カナダの特定の高速道路と他の高速道路の比較なので”any other” または“other”を挿入する必要があります。
修正例3:The Trans-Canada Highway is longer than any other Canadian highway.
Wrong use of direct or indirect speech(誤った直接話法/間接話法)
報告書や創作文、特定のビジネスコミュニケーションなどの文章中で誰かの発言を示すには、直接話法と間接話法を使い分けます。直接話法の際には「“”」の挿入を忘れないようにします。過去の出来事に言及するために直接話法を過去形で導入する場合には、間接話法の動詞も対応する過去形に変更されることがありますが、言葉の意味が真実である場合、時制は変わりません。
ひとつ重要なことは、アカデミック・ライティングでは、直接話法を間接話法に変えただけでは引用していることに変わりはないので、剽窃・盗用にならないように注意が必要です。
直接話法の例:”I always walk to work,” she said.
間接話法の例:She said that she always walks to work.
過去の出来事の報告を直接話法から間接話法にするとき、動詞の時制に応じて時間に関する他の言及も変える必要があるので注意します。
直接話法の例:”Tomorrow will be a better day,” he had promised.
間接話法の例:He had promised that the next day would be better.
まとめ
最後に、ここまで挙げてきた構文ミスに注意することに加え、主語と動詞、時制、単数と複数、文調、直接話法/間接話法の使い分けなどの細部にも気を配り、文書の一貫性を保つことが大切です。さらに、アカデミック・ライティングには簡潔さも必要です。簡潔で説得力のある文章は、読者にとって読みやすく、記憶に残りやすいものです。必要のない余分な言葉やフレーズを避けましょう。
アカデミック・ライティングは、厳密な調査・研究の結果を、学術雑誌(ジャーナル)のガイドラインなどに則って論じる必要があります。質の高いジャーナルでの論文掲載を狙うには、内容はもちろん、誤字脱字、文法ミスなど基本的な項目と同様に、構成や証拠・参考文献の提示、適切な表現などにも注意が必要です。
ここで挙げたよくある構文ミスと修正例は一例ですが、基本的なミスを減らすのに役立てば幸いです。
例文参照元
Common sentence errors | Write Site | Athabasca University
その他にも参考となるコンテンツ
Run-On Sentences and Sentence Fragments – Writing – Academic Guides at Walden University
Common Errors in Academic Writing
Common Mistakes ~ Avoid Errors In Academic Writing
Twelve Common Errors – The Writing Center – UW–Madison
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