ICMJE Recommendations:2024年更新ではAI使用における透明性の確保を強調

世界の主要な医学雑誌の編集者や出版社の集まりである医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors, ICMJE)の「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」(ICMJE勧告、またはICMJE統一投稿規定)とは、医学雑誌で発表する医学研究論文を書く際に順守すべき事項を規定したものです。ICMJE Recommentationsは、生物医学分野における学術出版に関わる人々(著者、編集者、査読者など)が、医学論文の正確性、明瞭性、再現性、公平性を確保するためのガイドラインと位置づけられています。

近年、学術出版業界でもAIの利用が増加する中で、AIの利用に関するガイダンスの提供も含め、2024年1月にICMJE Recommendationsが更新されました。

更新された勧告には、著者以外の研究に貢献した人の役割といったオーサーシップ(Authorship)の問題、医学・健康研究における人工知能(AI)の利用と開示、医学ジャーナルの出版における財務・非財務の情報開示について広範に定義しています。

目次

  1. ICMJE勧告の更新目的
  2. 2024年更新のポイント
  3. 勧告への準拠

ICMJE Recommendationsの更新目的

ICMJE Recommendations(邦題:医学雑誌における学術研究の実施、報告、編集および出版のための勧告)は、医学雑誌で公表される研究や資料の質を向上させることを目的として書かれたものです。この勧告は、著者が厳格な倫理基準を保ちつつ論文を作成できるように導くと同時に、編集者や査読者など医学生物分野の出版に従事するすべての利害関係者が、正確かつ明瞭で再現可能な、偏りのない論文を作成・公開できるように支援するものです。

さらに、この勧告は、重複出版、重複投稿、プレプリントをめぐる問題に対処することにも考慮し、科学文献の完全性を維持し、出版プロセス全体を通じて透明性を確保することの重要性も強調しています。

2024年更新のポイント

ここでは、医学出版におけるAIツールの使用に関するものを含めた、新しい推奨事項が追加されたICMJE Recommendations 2024年1月の更新のポイントを紹介します。

1. 論文出版において特定の研究者の貢献を除外する慣行への注意

論文の著者、研究貢献者となること(Authorship)は研究者にとって重要な意味があるので、編集者は、低・中所得国(Low and Middle Income Countries, LMICs)の現地研究者を著者から除外する慣行、言い換えればLMICs研究者が著者に正当に含まれているかについて注意する必要がある。研究に貢献したLMICs現地研究者は、研究報告の公平性を保つためにも著者に含まれているべきである。現地研究者が除外されている場合(研究に貢献したにもかかわらず著者に含まれていない場合)には疑問を呈するべきであり、現地研究者の著者あるいは研究貢献者としての役割が謝辞などに適正に記載されていない場合には、原稿が不採択(リジェクト)となる原因にも成り得る。

2. AI利用の報告

研究や原稿執筆、画像生成のどの側面であっても、投稿原稿の作成にAI支援技術(大規模言語モデル、チャットボット、画像生成ツールなど)を利用した場合には、AIをどのように使用したかを報告するよう求めるべきである。原稿の執筆にAI技術を使用した場合は謝辞欄で報告し、他の用途に使用した場合にはカバーレターと原稿本文の適切なセクションに、どのようにAI技術を使用したのか説明してもらうようにする。

AIをデータ収集や分析などに使用した場合は、他の手法を使用したのと同様に、他者が作業を再現できるものである必要がある点にも注意しなければならない。AIは研究の正確性、公平性などにおいて責任を負うことはできないので、著者には成り得ない。AI支援技術を使用したことも含めたすべての責任は、著者が負うことが求められるので、AIが作成した文章や画像を含め、すべてにつき必ず人(研究者)が確認する必要がある

3. 潜在的な利益相反の開示

研究論文の出版プロセスにおける透明性は、研究の信頼性や論文の信憑性に影響する重要な要素である。著者や研究者と資金提供者などとの関係や活動が利益相反に該当するかどうかは、判断が分かれる可能性は捨てきれない。しかし、利益相反と認識された場合には、研究自体の信頼性を損なう恐れがある。利益相反として金銭的関係は最も簡単に識別できるが、個人的な関係による利益も利益相反と見なされることもある。読者が利益相反を判断できるようにするためには、情報開示が必要であることから、研究論文を発表する場所や情報開示に干渉するような守秘義務契約を結ぶことは避けるべきである。

また、潜在的な利益相反の情報開示をする際には、研究に対する直接的支援と間接的支援を区別する。つまり、資金提供に関する声明には、研究に対する直接的支援のみを含め、個人の貢献への支援は別途報告する。研究時間に対する組織からの一般的な支援は、直接的な資金提供とは区別され、間接支援とみなされる。

4. 編集者によるAIの使用の制限

編集者は、投稿された原稿の処理にAI技術を使用することが、機密保持違反となる可能性があることを認識しておく必要がある。また、編集者は査読者に対し、原稿および関連資料に記載されている情報を極秘扱いとすることを明確に示しておく必要があり、査読規定にAIの使用に関するガイダンスを含めることが推奨される。

5. 査読におけるAIの使用

査読者が査読プロセスにAIを使用する場合においても原稿の機密を保持しなければならないことから、機密保持が保証できないソフトウェアやAI技術に原稿をアップロードすることは禁じられる可能性がある。査読者が査読プロセスを円滑に進めるためにAI技術を使用する場合は、事前にジャーナルに許可を求めるよう指示する。AIの作成する文章は、不正確・不完全であったり、バイアスが含まれている可能性があるということを認識しておく必要がある。

6. ジャーナル所有者との関係の明確化

医学ジャーナルの所有者と編集者の立場の違いが対立につながることもある。医学ジャーナルに対し、そのガバナンスやジャーナル所有者(例:出版社や学会など)と編集者との関係を明確に示すよう求めることで、透明性を確保する。

7. 世界的な脅威となる気候変動への取り組み

医学ジャーナルの出版が、世界的な脅威となる気候変動の悪化につながる二酸化炭素の排出の一因であることを踏まえ、ジャーナルの出版に関わる関係者は、二酸化炭素排出量の削減につき協力して取り組むべきである。

8. 臨床試験の登録と参加者の個人データの共有に関する方針

ICMJEは、臨床試験の実施にあたり、著者が公的な臨床試験登録システムに登録することを論文掲載の審査条件として求めており、それを求めるよう全ての医学ジャーナルの編集者に勧告するとともに、掲載論文の要約の末尾で試験登録番号を公表するようにも勧告している。

また、ICMJE加盟誌に臨床試験成績の報告原稿を投稿する場合には、臨床試験の結果を報告し、データ共有計画を含めた声明を記載しなければならない。試験登録後に共有計画に変更が生じた場合には、データ共有声明に反映させるとともに、登録内容を更新すべきである。データ共有声明に表示すべき内容には、匿名化済みの参加者個人データの共有の可否、データの共有方法などを含めた閲覧基準などの要件が挙げられている。

2024年の更新は、学術研究および出版業界でもAIの利用が増加し、医学ジャーナルの出版においても詳細なガイダンスの提供が急務となったことを受け、AIの利用に関する新しい推奨事項を追加したものです。既存のガイドラインの強化だけでなく、研究における倫理的行動のさらなる促進となるでしょう。

ICMJE Recommendationsへの準拠

ICMJE Recommendationsは、主に論文をICMJE加盟誌に投稿する可能性のある著者を対象としています。本勧告に準拠するジャーナルは、自誌の投稿ガイドラインにICMJEの勧告内容を盛り込み、ICMJEの勧告に準拠していることを明記することが望ましいとされています。ICMJEのウェブサイト上で勧告の準拠誌として公表されることを希望するジャーナルは、ICMJE事務局に連絡する必要があります。一方、ICMJE勧告に準拠していないジャーナルは、リストからの削除を依頼する必要があると記されています。

ICMJE勧告は、医学ジャーナルの出版慣行を改善し、医学研究の普及における完全性と明確性を確保する上で、極めて重要な役割を果たしています。医学ジャーナルに公表される研究の実施や報告などに関するベストプラクティスと倫理基準を示すことで、著者、編集者、査読者など学術出版の関係者が、研究の完全性を維持し、正確で明瞭、再現可能で、偏りのない論文を発表できるようにすることを目的としたものなので、新たな必要性が生じた場合にはその度に勧告を改訂しています。責任ある出版慣例に関する最新の情報を確認し、出版倫理に準ずるためにも、必ずICMJEウェブサイトで公式の最新版を参照してください。

2024年の更新ではAIの利用について言及していますが、ICMJEはAI支援技術の利用を禁止しているわけではありません。研究論文と学術出版の透明性を維持すべく、AIがどのように使用されたかを報告することを求めています。査読においても、プロセス上でAIツールを使用する場合には、守秘義務に反する可能性があることを認識すべきと注意した上で、事前にジャーナル編集者の許可を得ることが必要であると述べています。AI技術は慎重に使用することが必須であると心に留めておいてください。

参照

Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals

Updated January 2024(PDF

ICMJE統一投稿規定(2024年改訂版)

医学雑誌掲載のための学術研究の実施、報告、編集、および出版に関する勧告(翻訳センターによる和訳

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