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ICMJE 医学論文投稿・査読・出版の世界的ルール

新型コロナウイルス感染拡大が世界に大きな影響を与えている状況下において、医学研究の重要性は改めて痛感されるところです。そこで、医学研究成果の信頼性を確保していく基盤でもある医学論文執筆における世界標準とされるICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)投稿規定について再確認するとともに、改訂に向けた動きを紹介します。

ICMJE(医学雑誌編集社国際委員会)とは

ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)は、世界の主要な医学雑誌(ジャーナル)の編集者の集まりです。世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors: WAME)をはじめ、世界の主要な医学雑誌(ジャーナル)および出版社など14の組織・団体で構成されています。ICMJEが策定したRecommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals(略称:ICMJE Recommendations、邦題:医学雑誌における学術研究の実施、報告、編集、および出版のための勧告)は、医学研究の透明性、研究倫理を保ちつつ成果発表の品質向上を目的として書かれています。

ICMJEの活動の端緒は1979年に「生物医学雑誌への統一投稿規定(Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals)」という投稿原稿の作成方法に関するガイドラインの発表に遡ります。それ以来、投稿規定の枠組みを越えて改訂を重ね、2013年にICMJE Recommendationsと名称を変更しました。本勧告はウェブサイトで公開されておりダウンロードが可能です。また、この勧告を遵守する立場を表明する多数の学術ジャーナルの一覧も提示されています。

ICMJE Recommendationsの内容

医学ジャーナルに投稿される研究の成果とその報告は、ベスト・プラクティス(模範的な活動)と倫理基準に従わなければなりません。ICMJE Recommendations(ICMJE勧告)は、医学研究論文の著者が遵守すべき事項を規定しており、学術ジャーナルにおける発表の品質を維持するための標準的なルールとなっています。ICMJE勧告は大きく3つの項目で構成されていますが、その中のいくつかを以下に示します。

項目
1. Roles and Responsibilities
著者、査読社、編集社らの役割と責務。著者の資格、利益相反など。
2. Publishing and Editorial Issues
医学雑誌への掲載、出版と編集に関すること。主に、研究不正、著作権、臨床試験登録など。
3. Manuscript Preparation
論文の作成および投稿に関すること。原稿の作成、医学ジャーナルへの投稿方法など。

オーサーシップ

大多数の論文が共著となっている現状では、オーサーシップ(著者資格)の判断が問題として指摘されることも増えています。著者として名前を挙げる場合、全員がガイドラインに示される著者資格の基準を満たしていること、各著者の貢献を明示することが求められます。

捕食ジャーナル(ハゲタカジャーナル)

捕食ジャーナルとは、高額な論文掲載料さえ払えば査読なしに投稿された論文すべてを出版する学術雑誌のことです。著者はこのような似非(えせ)ジャーナルを識別し、投稿しないように注意しなければなりません。著者にはジャーナルの品位と評判を評価する責任があるのです。また、論文作成の際、捕食ジャーナルからの引用もすべきではありません。

利益相反

利益相反に結び付く可能性がある関係や行為については、透明性をもって明示しなければなりません(後段でまた触れます)。

論文出版

著者は投稿規定と査読ガイドラインに従うことが求められます。公開に先立って論文の内容を漏洩することは著者の不利益となる可能性があるため、編集者と査読者には投稿された論文を扱うにあたり守秘義務が課せられます。出版社にとって、論文を偏りなく、独立した立場で、タイムリーに評価することが、とりわけ重要です。

正確性

誠実な誤りはつきものですが、このような誤りを見つけた場合には訂正通知を公表し、公開済の電子版については所定の方法で修正内容を掲示するとともに改訂しなければなりません。

不正行為

データの捏造、画像の改ざん、利益相反の可能性がある関係や行為の不開示、盗用・剽窃などは不正にあたります。臨床試験結果の不開示も不正になる場合があります。研究不正については個々に応じ、関連する手続きに沿って対処する必要があります。

著作権

著作権に関する取り決めは明確にしておくべきです。

広告

医学ジャーナルへの広告掲載は厳格なガイドラインに従う必要があり、編集上の決定に影響が及んではなりません。また、健康に深刻な害をもたらす商品の広告を掲載することや、編集記事に商品の宣伝を掲載することはしてはいけません。

臨床試験登録

臨床試験を行う際は、患者登録時以前に公的な臨床試験登録システムに登録を行い、登録番号を論文中で示すことが求められます。

原稿の作成

原稿作成については詳細が示されています。タイトルページや著者の情報の書き方、要旨、方法、結果、議論・考察などのセクションの構成、表、図表、参考文献の挿入方法まで、細かい形式が投稿規定またはスタイルガイドに定められています。

利益相反について

医学研究は人々の健康に大きな影響を及ぼすものであり、それだけに利益相反に関する規定は最も重要な項目のひとつでしょう。一義的な利益(研究の妥当性など)の判断が、二義的な利益(金銭授受など)に影響される可能性がある場合、利益相反の問題が生じます。研究の発表において利益相反問題につながりうる可能性を有する利害関係者は多数存在します。研究資金の提供者は潜在的に研究に影響を与えるでしょうし、自分の研究を自分が関わるジャーナルで出版したいと望む編集者など……読者は、発表された研究成果が信頼できるかを判断するために、利益相反について知りたいと思うものです。

ICMJE利益相反開示フォーム

ICMJEは、利益相反につながる可能性がある事項について開示するための「利益相反開示フォーム(Form for the Disclosure of Potential Conflicts of Interest)」を作成して研究の透明性の促進を図っています。これは、研究における金銭上の利害関係の有無や、研究に影響を及ぼす行為につき透明性を確保するための策です。ICMJEに加盟しているジャーナルは投稿論文の著者に対してこのフォームの使用を求めており、研究に関連する事柄については公開されています。例えば、医薬品に関する研究で、著者の中に医薬品審査の委員会メンバーが含まれている場合、その事実をフォームで開示することが求められます。研究助成金を受けていることや、諮問委員会のメンバーになっていることが必ずしも研究に影響を及ぼすわけではありませんが、そうした事実を開示することは読者に対して透明性を保証することにつながります。

開示フォーム改訂の動き

ICMJEは2020年1月に開示フォームの改訂案を公開し、同年4月末までに意見を求めています。研究に関わるすべての関係が利益相反であるとは限りませんが、それらをすべて開示することが透明性と信頼性の向上につながるのであり、そうした方向を強化することを狙った改訂です。主な改訂点は以下です。

  1. フォームのタイトルを「ICMJE Form for the Disclosure of Potential Conflicts of Interest」から「The ICMJE Disclosure Form」に変更(現時点で公開されているのはドラフトです)。
  2. 読者が利益相反の有無を判断できるように、著者にすべての関係の開示を求める
  3. 研究に関連するすべての関係や活動を開示しやすくするため、チェックリストを準備

この新フォームは、著者が情報を正しく漏れなく開示するために役立つでしょう。これまで読者は、情報開示が行われていた場合、その関係や行為が該当研究に何らかの影響を及ぼしていると受け止めていました。新フォームではすべての関係と行為を開示することとなり、タイトルから「利益相反に関係する可能性(of Potential Conflict of Interest)」という語句を削除することも相まって、読者の判断におけるバイアスを回避する助けとなるでしょう。チェックリストは、意図しない開示漏れを防ぐのに役立ちます。

上に述べたようにICMJEはフォームの改訂について意見やコメントを募集しています。提出期限が2020年4月30日と迫っていますが、ご意見のある方は投稿してはいかがでしょうか。


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