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学術出版にゴースト(幽霊)出没?!

学術出版において「ゴーストオーサー(幽霊著者)」が増えていると言われています。ゴーストオーサーとは、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない研究者のことです。研究論文の執筆において重要な貢献をしたにも関わらず、著者としては除外される「姿が見えない」研究者がゴースト(幽霊)になります。オーサーシップについては、国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)および学術出版社/学術雑誌(ジャーナル)がガイドラインを設けており、発表論文には研究に関わった研究者全員、オーサーシップを有しているすべての人を著者として記載しなければならないと定めています。ガイドラインでは著者の責任を明確にしており、発表する論文の内容、データの完全性・正確性について責任を持つように求めているのです。

■学術界に出没するゴースト

どんな場合にゴーストオーサーが出没するのかを見てみます。一例としては、研究に貢献した研究者の名前を著者として掲載しなかったケース。平成28年に北里大学の講師が「当該研究のデータ取得段階で実験に参加するとともに指導的役割を果たした者を当該論文の共著者としなかった」ことで不正行為に関与したと認定されました。これはゴーストオーサーに該当します。より深刻なのは、利益相反(Conflicts of Interest: COI)を意図的に隠すために名前を掲載しないケース。例えば、製薬会社のような企業に所属する研究者が研究に貢献しても、企業に都合のよいように論文が書かれたと思われることを避けるため、あるいは都合のよいように論文を書いたことを隠すため、該当する研究者の名前を意図的に書かない――これもゴーストオーサーとなります。臨床研究に関与した企業の研究員の名前を著者として名前を出さないだけでなく、謝辞(acknowledge)にすら書かないとすれば、隠蔽または利益相反が疑われても仕方ありません。このような場合、論文の信頼性が問題となるだけでなく、研究の対象となる薬剤または治療の効果にも疑問が持たれることになりかねません。また、外部のメディカルライターなどが執筆した論文を自分が書いたように発表したケースも、論文の捏造が疑われる上、実際に執筆した人の名前が掲載されなければゴーストオーサーとなります。


どのぐらいゴーストオーサーが出没しているのかも気になります。ネイチャーのニュース記事によると、関連業界から資金援助を受けた臨床試験において、論文著者の約21%が、資金提供者またはその企業と契約関係のある社員が、どのような形であれ研究デザイン、分析または報告に関与したにも関わらず、彼らの名前は論文に記されなかったと述べています。また、医学ジャーナルBMJの編集委員が投稿した論文には、2008年にインパクトの高い医学ジャーナルに発表された論文約900本の著者を対象に行った調査で、ほぼ8%が少なくとも一人のゴーストオーサーの関与を認めたことが記されています。

■なぜゴーストオーサーが存在するのか

先に述べたようにオーサーシップを有する限り論文に名前を記載する必要があり、記載しなければ不正となります。にもかかわらず、なぜ不正となる危険を冒すのか?なぜゴーストオーサーが存在するのか?その理由のひとつには、研究者が多忙だということもあるでしょう。研究をデザインし、データを収集し、解析を行い、論文を起草、内容の確認まで行うには、労力と時間が必要です。1本でも多くの論文を作成するのに、メディカルライターなどが執筆を肩代わりしてくれるのであれば頼みたいと思うかもしれません。発表論文数は研究者の実績として重要であり、昇進や研究資金獲得に影響するからです。また、臨床試験などの論文執筆に製薬会社の研究員や社員が関わるようなケースでは、会社がメリットを得られこともあるでしょう。自社製品に有利な結果を示したり、副作用を過小評価したりすることができれば、製品の販売に大きな影響を与えることができるからです。

■ゴーストオーサーと研究の信頼性

大規模な臨床試験でゴーストオーサーが主要な役割を担っていたとすると、その研究の透明性と信頼性に疑いが生じかねません。さらに利益相反が疑われれば、臨床試験そのものの信頼性が危ぶまれることにもなります。研究に貢献した人は著者として名前を、学術雑誌の求める著者としての条件に適合していない人は謝辞(acknowledge)に名前を記されなければならないとされる理由はここにあります。発表論文に名前を記すことは著者の責任なのです。再現性の危機(reproducibility crisis)が問題視されている現在、いっそう著者の責任の重さが増しています。特に、医療従事者や医療関係者が公表されたデータに頼らざるを得ない臨床試験では、信頼性と透明性および、再現性はその薬剤または医療の効果を評価するにあたって不可欠です。

■ゴーストオーサー対策

2010年に国際製薬団体連合会(IFPMA)は「臨床試験結果の医学雑誌における論文公表に関する共同指針」を発効しました。この共同指針は「企業が依頼する臨床試験の公表論文の著者資格及び謝辞は、医学雑誌編集者国際委員会統一投稿規定(ICMJE Uniform Requirements for Manuscripts)に準じていなければならない」と明示するとともに、著者資格の基準を満たさない人がいた場合には適切に謝意を表し、利害関係を記載するように求めています。ICMJEの統一投稿規定ではゴーストオーサーのようなオーサーシップに関する問題の対処に不十分とする見解もありましたが、著者の定義を改訂し、著者は「研究のあらゆる部分の正確性または公正性に関する疑義が適切に調査・解決されることを保障し、すべての部分における説明責任を負うことに同意する」との基準を追加することで、オーサーシップをより明確に定義しています。この基準に該当するすべての研究参加者の名前は論文に掲載されなければなりません。

また、学術出版における指針を発表している出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)は、ウェブサイトに不正行為の対処方法を掲載しており、そのひとつ「What to do if you suspect ghost, guest or gift authorship」で、ゴーストオーサーを含めたオーサーシップに疑いがある場合の対処法を提案しています。フローチャートで示されているので参考にしてみてください。

繰り返しになりますが、ゴーストオーサーは、研究の信頼性に影響を及ぼします。記述およびデータが正確なものであっても、著者として名前が記されないことは、論文として不適切であり、倫理違反が行われたと疑われても仕方ないのです。著者基準、ガイドラインをしっかりと確認し、ゴーストオーサーを出没させないように注意しましょう。

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