エムダッシュとエンダッシュの違い
文章を書くときには、さまざまな句読点を使いますが、そのすべてに異なる機能と目的があります。よりよい文章を書くためには句読点の違いを理解し、使いこなす必要があります。句読点は、文意を正確に伝え、文章の明瞭さを高め、一貫性を確保する上で重要な役割を果たすものです。さらに、思考を構造化し、読者を誘導し、意図したメッセージを正確に伝えるための一連のツールとしても有用なものです。
この記事では、英文で用いられる句読点の中でも区別が付きにくいダッシュ記号に焦点を当て、エムダッシュ(emダッシュ)とエンダッシュ(enダッシュ)の違いを説明します。ダッシュ記号は、文章を強調する、明瞭さやインパクトを加えるといった際に使われますが、効果的な使い方を理解することで、文章をより洗練させることができます。
ダッシュとハイフンはいずれも横棒に似た記号ですが、それぞれ異なる機能を持っています。一貫性なく使われていることも多いようですが、ダッシュ記号は重要なポイントの強調から、範囲やつながりの提示まで、さまざまな重要な役割を果たす記号です。ダッシュを使いこなしてインパクトのある魅力的な文章を作成してください。
ダッシュとは
ダッシュは、文章中の区切り、中断、または前の文章とのつながりを示すために使用される長音記号に似た(でもそれより短い)横線型の句読点です。ダッシュには、長めのエムダッシュ(emダッシュ)と短めのエンダッシュ(enダッシュ、エヌダッシュとも言います)の2種類があります。一見区別しにくいのですが、エムダッシュは大文字のMと同じ幅(長い)、エヌダッシュはNと同じ幅(短い)程度であると覚えておくと二つの長さの違いがわかりやすいと思います。
この2種類のダッシュと、もう1つの一般的な句読点であるハイフンが混同されることがよくありますが、長さではハイフンが一番短く、次にエンダッシュ、最も長いのがエムダッシュとなります。エンダッシュは、単語や数字など前後をつなげ、エムダッシュは逆に前後を切り離したり文中に間を作ったりと、文章を書く上でさまざまな役割を果たします。
ライティングにおけるダッシュの重要性は過小評価されがちですが、どちらのダッシュを使うかは文脈によって異なるので注意が必要です。ダッシュの重要性について詳しく見ていきましょう。
1. 強調と中断
ダッシュは、文中の特定のフレーズやアイデアを強調するための強力なツールです。エムダッシュは、主節から一部を切り離す場合に使われることで、流れを中断させたり、特定のテキストを目立たせて強調したりすることができます。コンマ(,)でも同様の効果を出すことができますが、エムダッシュを使うことで、切り離した部分のテキストをより強調することができます。エムダッシュを使うことで、より主節を強調する効果が生まれ、魅力的でインパクトのある文章にすることができるのです。
2. 明瞭性と情報追加
ダッシュを使って複雑な考えを伝えたり、情報を追加したりすることで、文章の明瞭性と一貫性を向上させることができます。エムダッシュを使って説明や補足事項などを挿入することで、思考の転換を示したり、関連してはいても異なる要素を紹介したりすることができます。説明や明確なフレーズを入れ込むことで、読者の理解を深め、メッセージを効果的に伝わるようにするのです。
3. 接続と範囲の提示
エンダッシュは、文章中の要素を繋げたり関係性を示したりするのに使われます。日本語では波ダッシュ(~)が使われることが多い、数字、日付、時間などの範囲を簡潔に示すことに使われ、文の流れを妨げることなくつながりを示し、スムーズで首尾一貫した文章を書くのに役立ちます。また、複合語を作るときにハイフンではなく、エンダッシュが使われることもあります。
4. スタイルおよび視覚的な効果
ダッシュを挿入することで、文章にスタイルおよび視覚的な面白みを与え、よりダイナミックで魅力的なものにすることができます。長い文章を区切り、自然な間を作り、ページ上に視覚的な区切りを作ります。さらに、ダッシュはより多様な文章構造を可能にし、特徴的なライティングスタイルを確立するのにも役立ちます。
5. 的確さと正確さ
エムダッシュやエンダッシュを適切に使用することによって、文章の細部に注意を払い、明確なメッセージを伝えようとする姿勢を示すことができます。また、文章を正確に書くことで曖昧さをなくし、読者の誤解を防ぐことができます。その結果、研究者としての意識の高さをアピールし、仕事の信頼性を高めることにもつながります。
エムダッシュとエンダッシュにはそれぞれ異なる使い方があり、適材適所で使いこなすことで、文章の明瞭性、強調度合い、スタイルを大幅に向上させることができます。ダッシュの違いと役割を理解できれば、正確に使い分けることができるようになるでしょう。
エムダッシュ(emダッシュ):文章の流れを変える
エムダッシュ(emダッシュ)は、ハイフンやエンダッシュよりも長く、その名前はアルファベットの M とほぼ同じ幅であることに由来します。文章や思考を中断させ、文章の流れを変えたり、一部を強調したりするのに使われます。スポットライトのような役割を果たし、エムダッシュで挟んだ文章に注意を向けさせ、元の思考に戻る前に一瞬の気晴らしを提供します。エムダッシュを効果的に使うことで文章にメリハリが付けば、読者は立ち止まって、熟考し、書かれた文章の微妙なリズムを味わうことができるようになります。
エムダッシュの使い方
エムダッシュの一般的な使い方を紹介します。
1. 単語やフレーズを強調する
エムダッシュを使えば、特定の単語やフレーズに注意を向けさせ、文中で強調することができます。
“The research findings revealed a substantial improvement in patient outcomes — reduced hospital readmissions and improved quality of life.”
(研究結果では、患者の転帰、再入院が減り、生活の質が向上するとの大幅な改善が見られた。)
2. 挿入句/節を区切る
文中の挿入句や節、保護や付加的な情報をエムダッシュで挟むことで、明確にしたり、ポイントを強調したりします。コンマやコロン、括弧のように機能しますが、他の句読点よりも強力な区切りとして機能します。
“The questionnaire included questions related to participants’ demographics — age, gender, and educational background—to ensure a representative sample.”
(アンケートには、代表的なサンプルを確保するために、参加者のデモグラフィック(年齢、性別、学歴)に関する質問が含まれていた。)
3. 同格な情報を提供または説明する
同格(apposition)の関係にある語句や節は、名詞または名詞句に関連する付加的な情報または説明を提供します。エムダッシュを使用して、同格の語句と、すでに内部で句読点が打たれている文の残りの部分を明確に区別します。
“The participants — students from different disciplines, including biology, psychology, and sociology — completed the questionnaire.”
(参加者(生物学、心理学、社会学などさまざまな分野の学生たち)がアンケートに答えた。)
4. リストに焦点をあてる
文が独立節で始まり、リストで終わる場合にはコロンで節とリストをつなぐことができますが、リストが文頭にある場合にはダッシュを使って文節とつなげたほうが効果的です。ダッシュをうまく使うことで、バラバラになりがちな要素を1つのアイデアにまとめることができ、読者の読みやすさと理解度を高めることができます。
“The conference featured renowned speakers, interactive workshops, networking opportunities — all designed to enrich the attendee’s professional development.”
(この会議では、著名人の講演、インタラクティブなワークショップ、ネットワーキングの機会など、参加者の専門的な活動を発展させるためのあらゆるコンテンツが準備されていた。)
エンダッシュ(enダッシュ):項目をつなげる
エンダッシュ(enダッシュ)は短く、アルファベットの N とほぼ同じ長さです。エムダッシュが強調や中断に使われるのに対し、エンダッシュは2つの要素をつなげたり、数字の範囲や日付の期間などの範囲を示したりと、つながりを表現するのに使われます。複合語をつなぐのに使われることもあり、文章にまとまりを与えるのに役立ちます。
エンダッシュの使い方
エンダッシュの一般的な使い方を示します。
1. 範囲を提示する
エンダッシュの主な機能の1つに、数値、日付、時刻の範囲を示すことが挙げられます。数値の範囲を表す際にハイフンが使われていることもよくありますが、本来はエンダッシュを使うべきです。範囲を表わすエンダッシュは、期間、年齢、ページ数のほか、様々な局面で使われています。
“The conference will take place on October 10 – 12, 2023.”
(会議は2023年10月10日~12日に開催される。)
2. “versus “の置き換え(対比)
“versus”もしくは略したvsは対比を示す際に使われますが、文中で異なる変数、グループ、概念の対比を簡潔に強調するにはエンダッシュを使います。
“The qualitative – quantitative research approaches yielded distinct perspectives on participants’ experiences.”
(質的調査対量的調査のアプローチは、参加者の経験について異なる視点をもたらす。)
3. 方向、関係、または得点などを記述する
数値の範囲を超えて、さまざまな文脈で「to」や「and」の意味を伝えるためにエンダッシュを使用することがあります。
“The Boston – Washington train departs at 6 p.m.”
(ボストンからワシントンに向かう列車は午後6時に出発する。)“The article discussed the benefits of a mentor – mentee relationship in academic settings.”
(その記事は、学問の場におけるメンター(指導者)とメンティー(指導を受けている人)の関係の利点について論じるものである。)
4. 複雑な複合形容詞をつなぐ
要素の1つが2語で構成されている複合形容詞では、ハイフンの代わりにエンダッシュを使用すると明瞭度が増し、曖昧さが回避されます。
“The post – World War II era was marked by significant changes.”
(第二次世界大戦後の時代、大きな変化がありました。)
ダッシュの使い方によくある間違い
1. ダッシュの使いすぎ
ダッシュは効果的ですが、使いすぎないことが重要です。むしろ、強調や明確化のためには、控えめに戦略的に使うべきです。ダッシュを多用すると、文章が乱雑になり、流れが乱れてしまいます。
2. 他の句読点をおろそかにする
安易に他の句読点の代わりにダッシュを使うべきではありません。コンマ、コロン、セミコロンの方が適切な場合は、ダッシュを使わないようにします。句読点にはそれぞれ目的があるので、適切な句読点を正しく使い分けましょう。
3. 一貫性を無視する
ダッシュを使う際には一貫性を保ちます。文章全体でスタイルを一貫させるようにしましょう。例えば、APスタイルブック(Associated Press Stylebook)のガイドラインによると、エムダッシュの前後にはスペースを入れることが推奨されています。このルールは、APスタイルに準拠している新聞やその他の出版物でよく見られますが、ダッシュの前後のスペースに関する具体的な指示については、所属する組織・団体、投稿先ジャーナルのスタイルガイドを参照してください。
4. ダッシュを単語の代用にする
ダッシュを使うべきかどうかは、文の構成によります。例えば、”from “という単語を使っている場合、その後に続くのは “to “であるべきで、エンダッシュを使うべきではありません。例えば、”The experiment is conducted from June to August”(実験は6月から8月まで行われる)または “The experiment is conducted June – August”(ダッシュ利用)とするところを”The experiment is conducted from June – August”(from とダッシュの混在)とすべきではありません。
文章中の句読点をチェックし、改善するための便利な文法チェッカーを使用するのも良いでしょう。ただし、ツールは役に立ちますが、確実ではありません。正確さと文脈に応じた句読点の使い方を確認するためには、常に自分の文章を手作業で見直し、確認することが不可欠です。
エムダッシュとエンダッシュ入力のショートカット
エムダッシュとエンダッシュの使い方と重要性を理解するだけでなく、正しく入力するスキルを習得することで、ライティングの習熟度をさらに高めることができます。ここでは、エムダッシュとエンダッシュを簡単に入力するためのショートカットをご紹介します。
まとめ
エムダッシュとエンダッシュの正しい使い方を習得することで、ライティングの幅が広がり、コミュニケーションスキルが向上します。これらの句読点には明確な目的があり、いつ、どのように使うかを理解することで、文章に明瞭さ、強調、まとまりをもたらすことができます。エムダッシュは、その多用途性により、文章を中断したり、特定の語句や節を強調したり、同格な情報の提供または説明したり、節をつなげたりすることができます。一方、エンダッシュは、範囲、接続、選択肢を示すときに有用です。
ダッシュの違いが見えてきたでしょうか。ダッシュを適切に使うことで、文章の明確さや正確さを向上させてください。こうした句読点の使い分けに慣れておけば、正式な文章を書くときには役立つはずです。ただし、使い方にこだわり過ぎて多用してしまったり、一貫性がなくなってしまうことのないように注意してください。
よくある質問
2つの事柄のつながり、対比などを示すために使われます。大まかではありますが、基本的にはエムダッシュは文や考えなどを区切るもの、エンダッシュは物事の範囲を表すものと覚えておくと、他の使い方も頭に入りやすいかもしれません。
日付:"The event will take place from June 1 – 5."(イベントは6月1~5日に開催されます。)
ページ:"Please refer to pages 10 – 15 for more information."(詳細については10~15ページを参照してください。)
得点: "The final score was 2 – 1 in favor of the home team."(最終スコアは2-1でホームチームの勝ちです。)
つながり: "The London – Paris flight was delayed due to bad weather."(ロンドンからパリへの便は悪天候のために遅れました。)
1. ハイフン: 長さ:ハイフンは3つの句読点の中で最も短い。 使い方:ハイフンは主に単語をつなぐために使われ、複合語を作る際や、接頭辞や接尾辞を単語につないだり、電話番号などの数字をつないだりする時に使われます。また、文末で文章を折り返す際に、単語の区切りを示すときにも用いられます。
2.エンダッシュ 長さ:ハイフンよりは長いが、エムダッシュよりは短い。 使い方:エンダッシュは主に、日付、時間、得点、ページなどの数字の範囲やつながりを示すために使われます。区切られた要素間の長さ、距離といった範囲や関係を表します。
3.エムダッシュ 長さ:エムダッシュは3つの句読点の中で最も長い。 使い方:エムダッシュは多様な使い方ができる。文章の中断を示したり、要素を強調したり、付加的な情報や説明を導入したり、コロンやセミコロンを置き換えたり、文の流れに区切りをつけたりするのに使われます。ダッシュ記号で挟んだ情報を強調したり、その情報に注意を向けさせたりできます。
1. エムダッシュ 長さ:長い 使い方:エムダッシュは、文章の中断を示したり、要素を強調したり、付加的な情報や説明を導入したり、コロンやセミコロンを置き換えたり、文の流れに区切りをつけたりするのに使われます。ダッシュ記号で挟んだ情報を強調したり、その情報に注意を向けさせたりできます。
2. エンダッシュ 長さ:短い、ただしハイフンよりは長い 使い方:エンダッシュは日付、時間、得点、ページなどの数字の範囲やつながり、対比を示すために使用されます。 エムダッシュとエンダッシュにはそれぞれ明確な機能と使い方があり、文章を分かりやすくし、効果的に意味を伝えることが出来るように、それぞれの機能を理解し、正しいタイミングで使えるようにすることが大切です。
参考
Merriam-Webster : How to Use Em Dashes (—), En Dashes (–) , and Hyphens (-)
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