ハゲタカジャーナルとは?―その悪影響について考える
ハゲタカジャーナルの横行や論文撤回数の急増により、研究インテグリティ(研究の健全性と公正性)と研究に対する社会的信頼の維持がますます困難になってきています。
学術雑誌(ジャーナル)で出版した研究論文を取り下げる「撤回」が近年顕著に増加している理由はさまざまで、エラーや不正行為(意図しないものも意図してのものも含む)についての意識が高まったこと、研究不正を検出する能力が高まったことなどが挙げられますが、品質確保のための査読の改善と研究慣行における根本的な課題の両方を反映していると言えます。
しかし同時に、低品質または不正な研究論文を、適切な査読なしに公開するハゲタカジャーナルも大きな問題となっています。
ハゲタカジャーナルとは?
ハゲタカジャーナルとは、適切な査読を含む正当な編集・出版プロセスなしに投稿論文を掲載、公開するジャーナルのことです。著者に法外な論文掲載料(APC)を請求し、多くはオープンアクセスモデルを悪用して論文を公開しています。
厳格な学術的基準を設けている高評価のオープンアクセスジャーナルとは異なり、ハゲタカジャーナルは研究の質よりも金銭的利益を優先するため、掲載料さえ支払えば論文を掲載します。適切な査読や学術的なフィルターを経ることなく受理・公開される論文が出回ることは、学術研究の信頼性を損なう危険性があるので、学術ジャーナルや大学などは注意喚起を行っていますが、オープンアクセス出版の増加にともない、ハゲタカジャーナルの出版社の数も、2011年の18社から、2015年の11,800社、2023年の15,059社、2024年には18,000社と急激に増加しています。
もはやオープンアクセスを悪用し著者から論文掲載料を搾取して収益を上げるビジネスモデルが確立されてしまっているのです。ハゲタカジャーナルには以下のような特徴があります。
- 査読や品質管理をほとんど、あるいはまったく行わず、論文を迅速に受理する
- 適格性、受理基準/プロセス、論文掲載料(APC)を明らかにしていない
- 偽論文(フェイク論文)を含む低品質な論文を出版している
- 論文を受理するまで、論文掲載料を明示しないジャーナルもある(事前に通知されていても掲載料が異常に高額なこともある)
- 投稿論文を募るため、あるいは編集者を勧誘するために積極的なプロモーションを行っている
- 実在しない研究者・学術関係者、または該当資格のない研究者を編集委員としたり、時には実在する研究者本人の同意なしに編集委員として名前を掲載したりする
- インパクトが高く、定評のある学術ジャーナルの名前やウェブサイトのデザインを似せる
- インデックスや標準的な識別子について虚偽の主張を行う
- 適切な連絡先の詳細が書かれていない
ハゲタカジャーナルの急増は、ICMJE(2024年11月)やAPAME(2024年8月)の会合での主要議題としても取り上げられており、学術出版関係者の間でも懸念が高まっていることが浮き彫りになっています。
ハゲタカジャーナルの増加と論文撤回への影響
ハゲタカ出版社(predatory publishers)とは、自分の利益のために他者を喰い物にする、高額な投稿料を著者から徴収する出版社です。
学術出版のデジタル化とオープンアクセスの普及が進む中、2000年初頭にハゲタカジャーナルが登場しました。ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)氏が、2010年初めに20誌ほどの悪徳学術ジャーナルをリストしたBeall’s List of Predatory Journals and Publishers(通称Beall’s List)が有名です。このリストに掲載されたハゲタカジャーナルは、2014年初めまでに700に増え、ハゲタカジャーナルに掲載された論文は2010年の53,000から2014年には420,000以上に急増しました。さらに、CABELLSの2022年の報告によれば、ハゲタカジャーナルの数はなんと15,000を超えるまでに増えているのです。
- 偽研究の増加、査読プロセスの欠如あるいは不適正な査読・偽査読を経た論文の公開に起因する論文撤回が増加
- 撤回・訂正通知の扱いが不適切であることが理由で、誤りや不正行為が確認された場合に、科学的記録を訂正することが困難
- ハゲタカジャーナルには標準的な撤回方針がなく、撤回された論文の特定が困難
- 撤回の遅れにより、撤回論文の引用が野放しとなり、信頼できないデータの拡散につながる
Retraction Watchデータベースの2023年から現在までのデータによると、ハゲタカ出版による撤回が全体の14.6%を占めていました。ハゲタカジャーナルは訂正や撤回をタイムリーに処理しないため、撤回が遅れることがあります。そうなるとミスのある研究が後続の研究に影響を与えたり、誤った情報が連鎖してしまったり、さらには科学の発展を阻害するような連鎖反応を引き起こす可能性すらあるため、問題です。
ハゲタカジャーナルは訂正依頼と撤回をどう扱うか
ある調査によると、Beall’s Listに掲載されている1,511誌のジャーナルのうち、論文を撤回したことのあるジャーナルはWeb of Scienceのコレクションに含まれている18誌を含む46誌のみであり、2022年時点では合計645本の論文が撤回されていました。
ハゲタカジャーナルは、撤回方針の文書化を十分に行っておらず、撤回文書の可用性や可視性は低く、撤回通知に関する情報も不十分であると判明しています。ハゲタカジャーナルが訂正や撤回にどのように対応しているか、いくつのパターンを紹介しておきます。
1. 撤回要請を無視または拒否
- ほとんどのハゲタカジャーナルは、深刻な倫理違反が指摘された場合であっても、訂正や撤回の要請に応じない。
- 問題があった際の対応について明確な方針を持っているCOPE加盟ジャーナルとは異なり、ハゲタカ出版社は撤回ガイドラインを持っていないところが多い。
2. 撤回費用を請求
- ハゲタカ出版社の中には、掲載された論文を撤回するために追加費用を要求し、研究者から金銭を搾り取ろうとする会社もある。
- ジャーナルの非倫理的な行為は、著者が欠陥のある研究を撤回する意欲をなくし、誤った情報を流し続けることにつながる。
3. 通知なしに掲載論文を削除(Silent Retraction)
- ハゲタカジャーナルの中には、正式な撤回通知を出さず、説明もなしにウェブサイトから掲載論文を削除するものもある。
- こうした透明性の欠如は、他の研究者が該当の研究論文の撤回理由(倫理的な懸念から削除されたのかどうか)を知ることを難しくする。
4. 撤回論文を他誌に再掲載
- 一部のハゲタカ出版社は、撤回論文に(多くの場合は)わずかな編集を行った上で、系列の別のジャーナルに再掲載する。
- それらのジャーナルが主要なデータベースでインデックス(索引)付けされることはほとんどないため、重複出版を検出することが困難になる。
5. 誤解を招く、あるいは不完全な撤回通知を出す
- 論文が撤回された場合、ハゲタカジャーナルは適切な理由を示さないことが多いため、論文が不正行為、誤り、倫理違反など、どのような理由で撤回されたのかを把握できない。
- ジャーナルによっては、査読や編集上の管理における自らの失敗を認める代わりに、著者を非難する。
ハゲタカジャーナルは、訂正や撤回を扱う際の説明責任を欠いており、研究インテグリティを損なうものです。こうした事態を避けるため、研究者はハゲタカジャーナルに論文を投稿しないようにし、大学や研究機関は信頼性の低い出版物を追跡し、フラグを立てるための方針を強化する必要があります。
ハゲタカジャーナルを避けるためのチェックポイント
研究者が論文の撤回を防ぎ、研究成果を守るためのベストプラクティスを5つ示します。
1. ジャーナルの正当性を確認する
投稿を検討しているジャーナルが、Scopus、Web of Science、DOAJ、PubMed、MEDLINE(生物医学系データベース)などの信頼できるデータベースにインデックスされているかどうかをチェックしておきます。さらに、Retraction Watch データベースやPubPeer(研究者らが出版された論文に対して出版後査読を行うオンラインプラットフォーム)で、そのジャーナルに関連する過去の撤回も検索しておきましょう。
2. 投稿ガイドラインと査読プロセスを評価する
査読の透明性、オープンアクセス方針、倫理基準について、ジャーナルの投稿ガイドラインを確認します。編集委員の所属や過去の出版物をチェックし、編集委員の信頼性を確認します。そのジャーナルが、単に論文掲載料を得るために論文を受理するのではなく、しっかりとした査読システム(一重盲検、二重盲検、または公開査読)に沿って査読を行っていることを確認しましょう。
3. 注意すべき点をチェックする
詳細な査読を行わず、受理までの時間が異常に早い(例:数日または1週間以内に受理される)、明確な説明や低所得国に対する免除などのない高額な論文掲載料、査読基準や決定スケジュールが明記されていない、査読の説明が一般的または曖昧で査読の評価基準が特定されていない、迅速な掲載を約束する強引な勧誘メールなどがある、といったジャーナルには注意が必要です。
4. ブラックリストとホワイトリストを利用する
Beall’s Listのようなハゲタカジャーナルの実証リストを参照し、学術機関に助言を求める。DOAJ、COPE加盟ジャーナル、大学が推奨するジャーナルなど、信頼できるホワイトリストを活用し、「Think. Check. Submitチェックリスト」で出版社の正当性を確認します。
5. ハゲタカジャーナルとその影響力を理解する
ハゲタカジャーナルの手口について常に最新情報を入手しておき、さまざまなタイプのハゲタカジャーナルとそれらに対して警戒すべきことを理解しておくことが重要です。
研究インテグリティを守るためには、ハゲタカジャーナルおよびハゲタカ出版社に対処するための厳格な規制、積極的な監視、技術の進歩を組み合わせた多層的なアプローチが必要です。研究者は、自身の論文投稿先として信頼できるジャーナルを選択する際には、慎重に検討し、大学・研究機関や政策立案者は、より厳格なガイドラインを施行し、学術出版の透明性を促進する必要があります。
さらに、AIを活用した検出システムとグローバルな連携は、非倫理的な出版慣行を特定し、排除する上で重要な役割を果たすことができます。倫理的な研究、説明責任、意識の文化を醸成することで、学術界は科学文献の信頼性を維持し、研究が世界の知識に有意義に貢献することを保証することができるのです。
参考
nature Predatory journals recruit fake editor
ICMJE “Fake,” “Predatory,” and “Pseudo” Journals: Charlatans Threatening Trust in Science
Malaysian Orthopaedic Journal 2024 Vol 18 No 3 APAME 2024 – Sydney Declaration on Predatory or
Pseudo Journals and Publishers
Beall’s List of Predatory Journals and Publishers
Inside Higher Education ‘Predatory’ Publishing Up


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