学術雑誌の電子化において検討すべきこと

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学術雑誌の新設や、既存の雑誌の拡張を計画するとき、インターネット上でも読めるようにするかどうか、多方面から考える必要があります。電子化といえば、読者層を広げられ、査読・編集過程もスピードアップし、ビデオ・データやハイパーリンクなど、従来の印刷形式ではできなかったサービスを提供でき、費用も削減でき……と何もかもバラ色のように思われがちですが、本当でしょうか? ここでは考えられる問題点をいくつか見ていきましょう。 

1. 読者や査読者が電子化についてこれるか?
動画や音声データの添付など機能が多様化すればするほど、読者や査読者側のコンピュータにもそれらの特殊データを読み取るソフトウェアが必要となります。そのため論文の形式を含めてどのようなフォーマットの資料を受け付けるのか、編集部だけではなく一般読者の便宜も考慮しなくてはなりません。とくに既存の学術雑誌を電子化するさいには、今まで定期購読してきた読者にアンケートで意見を聞くなど気配りが必要となるでしょう。

2. ウェブサイトの作成と管理
論文を表示するだけのウェブサイトならまだしも、より効率のよい検索機能を内蔵させたり、読者間での意見交換を目的としたブログやフォーラム機能を加えたりして、ウェブサイトの機能を充実させればさせるほど、その作成と管理に時間がかかります。またこれらの作業は、今までの編集部の人員では手に負えないことが多く、専門のプログラマーを追加雇用する必要が生じる可能性もでてきます。このように電子化には人員の削減だけでなく、人員の追加もありえますので、気をつけてください。

3. ホストを選ぶ
自分の論文を自分のウェブサイトで公表する場合と違い、学術雑誌のウェブサイトを作成する場合、多くの人が一度にアクセスしても対応できるホストを選ぶ必要があります。ホストにはさまざまな種類があり、Ingentaのような一般企業によるものもあれば、HighWireなど大学に付属しているものもあります。また、技術的にどのようなサポートをしてくれるのか、どの程度のトラフィック(情報伝達量)に対応できるのかなど、値段とともに技術面も考慮して選ぶ必要があります。インターネットのホストに詳しくない人は、学術雑誌の出版量や予想される読者の人数などビジネスモデルを考えた上で、専門家にアドバイスを求めることをお勧めします。

4. データの管理
とくに印刷物を発行しない場合、過去に掲載された論文を、いつでも、そしていつまでも検索ができるように、出版社側で保管・管理する必要が生じてきます。万が一のためのバックアップやソフトウェアのアップデートなど、思わぬところで人件費がかかりますので、長期的な予算を組む必要があるでしょう。専属の技術者を雇用できない場合は、JSTORのようにデータ管理やアーカイブを専門とした会社もありますし、大学の図書館が援助してくれるケースもあります。編集部だけで対応しようとせず、周囲にどのようなサービスがあるか探してみるのもよいでしょう。

5. マーケティング
ウェブサイトをつくったら自動的に、グーグルなどの検索エンジンで名前が検索できるようになるというわけではありません。そのため、新しい読者の開拓とウェブサイトのアクセスを上げるためのマーケティングが必要となります。

6. 査読の過程および編集部の改革
従来の学術雑誌は、論文の数が揃わなければ出版できませんでしたが、電子化することによってその待ち時間を解消することができます。その代わり、どの論文をどのようなタイミングでどこに発行するか、また、査読は誰がいつするかなど、タイミングの管理が多様化していきます。編集過程がスピードアップする中、論文の査読過程や掲載のタイミングを管理する新しいプログラムを導入するなど、編集部内での情報交換の方法を、何らかの形で変える必要が出て来ると思われます。

7. 何をいつオープンにするか?
前述の編集部の改革にも関係しますが、どのような情報をいつ公開するか(または公開しないのか)、マーケティングの仕方や読者の満足度も考慮した上で、多方面から検討する必要があります。また、投稿者や読者にも、編集部の姿勢を理解してもらう必要があります。オープンの度合いに関しては、以前本ブログで紹介した「オープン・アクセス雑誌の種類とは」をご参照ください。

8. 引用方法
意外と問題になるのが「電子化された学術雑誌に掲載された論文を引用するとき、文献註にはどう記述するか?」ということです。とくに、印刷版も電子版も出版している場合、その区別をつけるのか、つけるのならばどうつけるのか、編集部側の立場をはっきりさせる必要があります。

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