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オープンアクセスの動向と課題

オープンサイエンスが進展し、国際的にも広がるにつれ、研究の専門家に限らずあらゆる人が学術研究の成果や研究に関連する情報にアクセスできるようになってきていますが、同時に研究スタイルやデータ共有などに影響がおよんでいます。今回は、オープンサイエンスとは切っても切れないオープンアクセス(OA)の動向と課題について振り返ってみます。

オープンアクセスウィーク

毎年10月に、オープンアクセスに関連するイベント「オープンアクセスウィーク」が世界各地で開催されており、2019年は10月21日から27日に行われました。このイベントは、2008年に学術・研究図書館の国際連合であるSPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)と学生コミュニティが立ち上げたもので、以降、毎年開催されています。2019年のテーマは「Open for Whom? Equity in Open Knowledge(誰のためのオープン化?オープンな知識における平等を考えよう)」で、まさに研究活動を進める上での本質的な問題を突いているものでした。この質問を投げかけることで、既存のシステムがもたらしているとされる不平等性をオープンアクセスが解消できるかを議論しています。オープンアクセスウィークの詳細情報はwww.openaccessweek.orgで公開されているので、掲載されているブログなどを読んでみると興味深い見解を知ることができるでしょう。

学術出版の多様化

研究をオープンにすることにより、認知度を高め、研究を発展させ、さらに研究の成果を社会に役立てることが可能になります。かつて、出版とは研究者が研究成果を発信し、読者に届けるための唯一の手段でした。ところが、デジタル時代の到来により電子ジャーナル、電子書籍、データベースといった新たな手段が登場する一方で、従来の学術雑誌(ジャーナル)の購読料が高騰したことを背景に学術界から反発が生まれ、オープンアクセスに向けての動きが一気に加速してきました。

2019年1月、学術出版社ワイリーは、DEALプロジェクト(ドイツの大学図書館と研究機関のコンソーシアム)とパートナーシップ契約を結び、新たな出版モデルを試行すると発表しました。これにより、ドイツの約700の機関は、契約期間である3年間、ワイリーのジャーナルへのアクセスと同社の全ジャーナルへのOA出版が可能となりました。この前年、DEALプロジェクトと学術出版社エルゼビアとの電子ジャーナルのライセンス契約交渉が中断し、エルゼビアがドイツ国内の未契約機関に対して最新号へのアクセス遮断を実施していたのとは対照的です。エルゼビアは2019年8月にはDEALプロジェクトと同社との購読契約中止に伴うドイツ研究コミュニティへの影響に関する委託調査の結果を公開しています。このような学術コミュニティと出版社間の混乱は、論文へのアクセスおよび研究発表の機会における不平等性を生む要因となっており、各地の学術コミュニティと出版社の交渉が難航することで顕在化してきています。

オープンアクセスウィークでは、OA推進のための新しい試みも紹介されました。「Subscribe to Open(S20)」と称する試験的モデルは、電子ジャーナルをオープンアクセス出版に移行するための取り組みであり、年間購読収入が維持される限り、該当ジャーナルをOAで公開するものです。つまり、出版社側から見ればOA出版費用を既存の年間購読契約とその収入に委ねるもので、図書館や大学側から見れば年間購読契約を継続していれば、インセンティブが提供され、該当ジャーナルのOA利用が可能になるというプログラムです。これを開発した米国の非営利学術出版社Annual Reviewsは、2020年に5誌を対象としてパイロットプログラムを開始し、うまくいけば対象を拡大し、逆に購読料金が想定レベルを満たさなかった場合には引き続き電子ジャーナル閲覧の年間購読契約を求めるとしています。この試みは学術関係者には好意的に受け止められているようです。

とはいえ、従来のモデルを継続している出版社も多く、中には契約内容や金額における透明性や平等性に疑問がもたれているケースもあるようです。高エネルギー物理学分野のジャーナルをOA化させることを目的とした国際連携プロジェクトであるSCOAP3(Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics)によると、ドイツ国内の大学や研究機関のうち20%がOAジャーナルの出版費用を支払っていないとしています。通常、OAジャーナルへの投稿費用は著者が負担するため、研究費が限られる研究者にとっては財政的負担が大きくなり、取得した研究費の大きさによって発表論文数に差が生じるという不平等を生じさせてしまいます。また、大学・研究機関が費用を負担する場合でも、費用と論文生産数が比例するとも限らないため、不公平感が生まれる可能性もあります。このような理由から、ドイツ国内では先述のワイリーとDEALプロジェクトのような出版社との交渉のような新しい動きに対して批判的な意見も見られるようです。パートナーシップ契約が発表されても、契約期間内および契約期間終了後のハイブリッドジャーナルから完全OAジャーナルへの移行プロセスについては、移行コスト同様に課題として残されています。

また、シュプリンガー・ネイチャーも2019年8月に変革的オープンアクセス契約に関する合意をDEALプロジェクトと締結し、最終的な契約締結を目指しています。この合意締結により、シュプリンガー・ネイチャーはOAへの移行実現に向けた取り組みを前進させることになります。ドイツの研究者にとっては、アクセスできるコンテンツが増えるだけでなく、完全OAのもとで研究成果を出版する機会が増え、自分の論文の認知度を上げ、世界の研究者に読んでもらう機会を増やすことにもつながります。DEALプロジェクトのような団体や、大学、研究組織などが、ここに挙げたような契約や交渉を進めることで、オープンサイエンスに向けた流れが動き続けていくと予想されます。

研究データの共有

OAが進むにつれ、学術情報の共有における研究者、研究支援者(助成金提供者)、図書館らの役割と責任が変わってきていますが、研究者が出版プロセスの大規模な変化の先端にいるのではなく、末尾にいるという位置づけや、公的な研究資金を受けて研究を行った場合には助成金の規定に従って研究成果を発表しなければならないという義務も変わりません。それでも、OA化は学術コミュニティに大きなメリットをもたらすと考えられています。

とはいえ、研究者が成果をオープンにするにはさまざまな注意が必要です。成果の公開にはデータまで含まれることも注意すべきことのひとつです。研究データは、Findable(見つけやすく)、Accessible(アクセスしやすく)、Interoperable(相互運用を可能に)、Re-usable(再利用を可能に)であるようにと提唱された「FAIR 原則(FAIR Data Principles)」に基づく公開が求められます。日本でも研究によっては「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」に基づき、データマネジメントプラン(DMP)を提出するように求められており、データも含めた研究成果の共有が広がっています。同時に、大手出版社の論文データベースが有料でデータの利用が制限されていることから、データ共有を含めたOAインフラ構築の必要性についても議論されています。

オープンサイエンスの課題

オープンサイエンス推進の方向性は、世界中で議論されています。研究者および大学・研究機関等は、公的研究資金を受けて実施された研究の成果の公開、研究データの共有・保存、研究不正への対応といった責務に対応していかなければなりません。オープンサイエンスを進める上で平等性は重要なひとつの課題であり、また、データマネジメントとともに、研究データの信頼性および透明性の確保に向けた仕組みの構築が必要です。今後も、学術成果の公開、成果の共有、産学の連携、さらに学術コミュニメーションのオープン化に対する要求が顕在化していくことでしょう。オープンサイエンスの拡大にともない、出版形態も多様化しています。さまざまな課題に対し、どのような策がとられていくのか――研究者ならずとも興味は尽きません。

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