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論文を投稿するジャーナルの選び方

どんなに一生懸命研究し続けても、その結果が論文として学術誌に掲載されなければ意味はありません。そうかといって、ただやみくもに『ネイチャー』や『サイエンス』のようなトップジャーナルに投稿し続けても、徒労に終わるだけですよね。自分の分野や目的に適したジャーナルを選ぶ必要があるのです。エナゴ英語エディターのウィリアム・スティーブンソンの協力のもと、ジャーナル選びのコツを紹介します。

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論文の発表は、多くの場合、その研究にかけた努力が頂点に達したことを意味します。現在、論文の適切な投稿先を選ぶというプロセスはいっそう複雑になっています。ジャーナルが激増してきたこと、専門分野が細分化されてきたこと、そして複数分野にまたがる研究トピックが増えてきたことなどがその理由です。論文の著者は、こうした各種の基準や制約を考慮して最適な投稿先を検討し、そのうえで初めて投稿先を決定することになります。その際にどのような要因を考え、どのようなアプローチを取ればよいのか、例を示したものが図です。
最初のステップは、検討中の論文の目的を明確にすることです。それが決まったら、その目的の達成に関連する各種情報を収集し、自分の置かれた状況の中でどのようなタイプの論文やジャーナルがベストなのか、実情をわきまえたうえで判断を下します。
こうした意思決定のプロセスにも各段階があります。それらを以下に要約します。
選択肢を見極める: 該当する分野で利用できる各種のジャーナルについて、包括的に情報を把握しておくことが不可欠です。そのためには、同じ分野の研究者たちの意見を聞く、オンラインのジャーナル・リストを調べる、専門家の団体に問い合わせる、などの手段があります。日本国内のジャーナルでしたら、たとえば国立情報学研究所の刊行物リストや日本学術会議の団体リストなどが役に立つでしょう。
 影響力を見極める: いうまでもなく各ジャーナルの認知度は重要で、よく考慮する必要があります。「Impact Factor」や「SJR(SCImago Journal Rank)」、「Article Influence」、「H-index」といった量的な指標が利用されています(たとえばImpact Factorの調べ方は、トムソン・ロイターのウェブサイト*を参照するといいでしょう)。こうした指標は一般的に、そのジャーナルに掲載された論文の引用率に関連しますが、こうした指標の価値と実際の引用件数はどちらもよく検討する必要があります。たとえば近年ではImpact Factorに対してはその信頼性について疑問視する声もあります。また、「Altmetrics」や「EigenFactor」といった新しい指標も登場しています。

*2016年10月に、トムソン・ロイターのIP & Science事業がオネックスとベアリング・アジアによって買収されたことを受け、トムソン・ロイターはクラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics )へと変更となった。クラリベイト・アナリティクスによる 「インパクトファクターの調べ方」はこちら

 ジャーナルの分野と方針: 各ジャーナルがどういった分野の論文を掲載しているのか、掲載論文の種類はどのようなものかを確認します。これにより、自分の想定する読者に的を絞りやすくなります。さらに編集方針や現状も調べ、投稿から査読に至るプロセスでどのような問題が発生するのかも予想しておきます。
 ジャーナルの投稿要件と流通形態: 大半のジャーナルでは、所定の形式と掲載のための要件を指定しています。そうした要件に論文が合致しているかどうか、必ず確認してください。そのジャーナルの流通形態(印刷物か、オンラインか)および購読者数に応じて、そのジャーナルの守備範囲がわかります。オープンアクセス方式のジャーナルの場合、誰でも論文内容を見ることができるので、典型的な読者数を調べておくとよいでしょう(たとえば前述の日本情報学研究所の刊行物リストなどが役立つでしょう)。
 査読に関する要因: 各ジャーナルでの査読に関する現状を探ります。これには、査読者の地位や客観性、スケジュールなども含まれます。各ジャーナルのウェブサイトなど各種の情報源からこうした情報を集めてください。リジェクト(掲載拒否)の割合の実数値や推計値も確認します。
 発表の緊急性と掲載コスト: 論文の投稿から掲載までの間には、いくらかの時間差があります。その時間差は編集プロセスのスケジュール、査読にかかる時間、制作および出版の周期によって決まります。タイムリーな研究発表のためには、この時間差を検討に入れる必要があります。さらに掲載に要する経費(ページ数に応じた費用なのか、査読に対する費用なのか)も、自分の研究予算に応じて検討事項となるでしょう。新創刊のジャーナルの場合、今後存続できそうか否かも検討します。
上記の事項を検討し、各種ステップを踏むことによって、認知度や質という意味で最善のジャーナルを選択できるようになり、各種の制約がある中で研究成果を出版して世に知らせることができるのです。

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