論文を書くためのお勧め参考図書2冊

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、教授自身が学生の時に助けられたという書籍を2冊紹介してくれています。是非、英語論文を執筆する際の参考にしてみてください。


私は2006年にメルボルン大学の博士課程に入り、2009年に修了しました。この間、学部の最優秀論文に贈られるJohn Grice Award賞を受賞し、大学では2位(残念!)を受賞するなど、上々の成績を収めました。この成功は2冊の「ハウツー本」のおかげだと思っているので、ここで紹介します。その2冊とは、David EvansとPaul Grubaによる『How to Write a Better Thesis』と、Pat KamlerとBarbara Thomsonによる『Helping Doctoral Students Write』です。How to Write – は第3版が、Helping Doctoral – は第2版が出版されています(2024年1月現在)。

私はこの2冊を学生に論文の書き方を指導する際に使っていますし、ブログの記事でもよく紹介しています。私の古い本(両方とも)はコピーしすぎてボロボロになりかけていたので、新品の本を手に入れました。どちらも大幅に改訂されていたので、きちんと見直しをするのに良い機会だったと思います。

ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)キャンパス内の書店で『How to Write a Better Thesis』を見つけたのは、2004年6月、最初の卒論を書いている途中、ひどく落ち込んでいた時期でした。私は当時、RMITでクリエイティブ・プラクティス(Creative practice)の修士課程を専攻していました。創るのは楽しかったのですが、書くのは苦痛だったのです。

私の気の毒な指導教官は、草稿を何度も何度も修正するために最善を尽くしてくれましたが、私は修正が苦手でした。建築の勉強をしてきた中で、長い論文はおろか、きちんとした小論文を書くための準備を何もしてこなかったので、どうやって論文を書けばいいのかさえ見当がつかなかったのです。どんな項目立てにすればいいのか、それぞれの項目に何を書くべきなのか・・・・・・自暴自棄になって訪れた書店で『How to Write a Bette Thesis』との運命的な出会いを果たしたのです。

当時は21.95ドルと学生に優しい値段でしたが、現在は30ドル前後に値上がりしているようです。平均的な学生にとっては少し高い気もしますが、価格に見合う内容が詰まっているので、大いに役立てることができるでしょう。

この本の著者であるDavid Evansは残念ながら数年前に亡くなってしまいましたが、Justin ZobelがEvansの後を見事に引き継ぎ、改訂版が刊行されました。この本について私がいつも最良だと評価しているのは、「標準的な論文」を序論、文献レビュー、方法といった構成要素に分解し、それぞれの問題点を個別に取り上げている点です。これにより、本書を使って論文の問題点を「抜き打ちチェック」することができます。

改訂版の内容は基本的には変っていませんが、現代の複雑な卒論事情をよりよく反映し、いくつかの有益な追加が行われ、論文を書く上でのより広範な困難を認識し、学生が陥りやすい様々な罠を説明する実例が掲載されています。

数週間前、私はZobelとGrubaの新しい共同著書『How to Write a Better Minor Thesis』の草稿コピーを送ってもらいました。この本は、15,000から30,000ワード(語)の長さの論文を書かなければならない修士課程の学生や優等学位プログラム(Honours)課程の学生向けに特別に書かれたものです。私の知る限り、このような学生向けの本はこれまであまりなかったので、素晴らしい本だと思います。大部分はPhDに関連した内容となっており、大学出版社からでもKindleからでも電子版が購入可能です。是非、参考にしてみてください。

もうひとつの本、Barbara KamlerとPat Thomsonによる『Helping Doctoral Students to Write: Pedagogies for Supervision』との出会いは、まったく異なるものでした。当時の同僚であったRobyn Barnacle博士からこの本を紹介されたのは、私が博士課程1年目の時でした。その頃には、だいぶ自信を持って文章を書けるようになっていたので、この本に書かれた、より複雑な文章を書く準備ができていました。『Helping Doctoral Students to Write』では、名詞化、(言語学上の)モダリティ、them/rheme分析など、複雑な問題が分かりやすく説明されています。私は、この本に記されている多数の実践的な練習問題や提案をワークショップで活用しています。(例として、「ゾンビ論文」の扱いに関するスライド”Treating the Zombie thesis” を参照してみてください。)。

本書は、前述の『How to Write a Better Thesis』より人文科学の側面が強い内容となっていますが、論文の書き方に関する幅広い問題を、飽きることもイライラすることもなく読めるように軽妙なタッチで解説してくれています。論文とは分野の命題であると主張しているだけあって(驚くほど力強い洞察です!)、文法の章はまさに秀逸です。

本書を紹介してあげたエンジニア、建築家、生物学者、音楽学者の全員が「役に立った」と言ってくれましたが、論文執筆に初めて手を付ける初心者はこの本の「modality: the goldilocks dilemma(モダリティ:ゴルディロックスのジレンマ)」といった小見出しに恐れをなしてしまうようです。だから私は通常、学生が高学年になってからこの本を勧めるようにしています。自分の書いた文章について指導教官からダメ出しされて、何が問題か理由が分からないと言うときにこそ、この本に書かれていることは有用です。

『Helping Doctoral Students to Write』は、博士課程学生(著者は博士課程学生の途中でした)のために書かれたものではありません。新版は多くの点で旧版より改善されており、すでに持っている人でも買い直す価値があると思います。この本は、腕まくりをして真剣に論文執筆に取り組む覚悟のある上級者向けの素晴らしい本です。論文執筆にガッツリ取り組むことは、見返り―私の受賞歴のような―をもたらすだけでなく、最も一般的でありながら説明するのが難しいライティングの問題のいくつかを診断し、治療することができるようになるという点で、後にあなた自身が指導教官になった際にも有用でしょう。

お気づきの方がいるかもしれませんが、この本の著者であるPat Thomsonは、人気ブログ『Patter』の執筆者です。彼女の知恵が満載のブログには無料でアクセスすることができます。多くのブロガー同様に、Patと私はツイッターで知り合い、コラボレーションを始めました。パットの知識、経験、そしてユーモアには今でも畏敬の念を抱いています。私は時々、私たちが友人になれたのは夢ではないかと思って自分をつねって確認したりするのですが、新しい書籍の章のひとつで私のブログ(The Thesis Whisperer)に言及してくれた理由が、友人だからというだけではないことを願っています。

私はPatに会う前から彼女の本を知っていましたが、もし知らなかったら、学生向けの論文執筆を扱う本を執筆する者として競合することになったかもしれません。だとしても、私はこの本を勧めることでしょう。PatとBarbaraはもう一冊、実に素晴らしい本『Writing for Peer Reviewed Journals: Strategies for getting published』を書いていますが、そちらの紹介はまた別の機会にします。

 

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