たとえば、クリーニングに出した洋服が汚れて戻ってきたり、修理したばかりの屋根が雨漏りしたりすると、特段の理由でもない限り、ほとんどの人は「ひどい」仕事だと思うでしょう。
しかし、英語を母語としない人が自分の英文原稿をネイティブに校正してもらい、戻ってきた原稿を見て「ひどい」、あるいは「素晴らしい」という感想を持てるかというと、そうとは限りません。
そもそも英語のネイティブではないがゆえに英文校正を依頼しているのですから、校正・校閲によってどのような違いが生まれたかを語感レベルまで掘り下げて理解するのが難しいからです。
しかし、英語論文の校正の場合、自ら英語で書いた原稿の英文校正を見て落胆する研究者も少なくありません。そこには、研究論文特有の事情があります。
英文校正が「ひどい」と感じるのはなぜ?よくある原因

学術論文などのアカデミックな文書を英文校正に出した著者が、英語が第二言語や第三言語であったとしても、仕上がりを見て「ひどい」と感じてしまうことがあるのはなぜでしょうか。
これには、著者自身が、文書の専門的な内容に精通していることや、同じ分野の英語論文に普段から触れていることなど、複数の要因が考えられます。そして「どのようにひどいのか」にも、いくつかのパターンがあるでしょう。
専門用語が正しく扱われていない
まず、専門用語が不適切に改変されるケースが考えられます。同じような言葉であっても、語法や指し示す対象などは、しばしば学術領域によって異なります。
学術を専門としない校正者は言うに及ばずですが、学術校正者であっても、その分野の知識がなければ、研究成果の正確性を損なってしまう可能性があります。
文法・スペルミスが残っている
最低限の文法やスペルチェックすら行われていないという、さらにひどいケースもあるかもしれません。
それが英文校正会社による校正であれば、校正者の採用やスキルチェックの体制に問題がある、あるいは、そもそもサービスに関するモラルの欠如した企業体制自体に問題がある可能性もあるでしょう。
表現が不自然または一貫性がない
著者自身が意識的に統一した用語や表現の一部が改変されることで、明確な意味が失われることもあるでしょう。
一般的な文章において同じ単語やフレーズの繰り返しは、修辞上の意図がなければあまり推奨されませんが、科学的な文章では明確さが大切です。複数の解釈を許すような表現は、文意を探る作業を困難にするだけで歓迎されないのです。
論文の論理構成が考慮されていない
例えば前段を受けて何かが述べられている場合に、その前段自体が校正で改変されると、ロジックが破綻してしまうことがあります。
精緻に議論が積み重ねられていく学術論文の校正作業では、常に全体を意識しながら部分に手を入れることが求められます。そのような論文の作法を無視した英文校正を見て「ひどい」と感じる研究者もいるはずです。
校正後の英文を自分で見極める方法

非英語圏の人間にとって、英文校正の質を自分で見極めることは容易ではありません。
しかし、いくつかのチェックポイントで校正原稿をスクリーニングすることで、ひどい校正である可能性を浮かび上がらせることができるでしょう。
ここでは、前述のひどい校正のパターンに基づくスクリーニングのポイントを挙げてみます。
専門用語が適切に使われているか確認する
研究分野の専門用語が正しく維持されているかを確認することは、チェックの最初のステップとしておすすめです。
専門知識のない英文校正者であれば、誤って手を入れ一般的な表現などに置き換えてしまいがちな部分であるからです。冒頭から一文ずつ読み進めるのではなく、専門用語の含まれる部分を重点的に確認していきます。
元の意図が変わっていないか確認する
こちらは、すこしハードルが上がります。しかし、各段落の論旨の中核となるような文に的を絞って確認することで、文意が捻じ曲げられていないかを効率的にスクリーニングすることもできるでしょう。
校正の前後で意味が変わっているかどうか不安な場合は、同僚や共著者に確認してもらうとよいでしょう。
不自然な言い回しがないか確認する
不自然な言い回しがないかもチェックしておきます。英語がネイティブでない人は、文法チェックツールなども積極的に取り入れるとよいでしょう。
学術的な表現としての適切さをチェックするには、学術に特化した文法チェックツールが有用です。また、校正サービスを利用する場合、校正者に質問ができるかも重要になってきます。
ひどい英文校正は論文の採択にどう影響するか

校正者や校正サービスから返ってきた原稿が論文の著者本人や第三者の目に「ひどい」と映る場合、どのような影響が論文や著者に及ぶでしょうか。
まず、校正サービスが言語の質を保証していたとして、再校正を依頼するにはその校正がひどいということを伝えなければなりません。良心的なサービスであれば、「Quality」が「Terrible」、「Very Bad」などとメッセージすれば調査して再校正してくれるでしょうが、校正のひどさを言語化するには、英語のネイティブであってもある程度の労力が必要で、ネイティブでない著者にとっては大仕事です。
また、著者が校正のひどさに気づくことができなかった場合、そのまま原稿を投稿してしまえば、デスクリジェクトのリスクや、査読者に内容を正しく評価されないリスクがあり、仮に出版できたとしても伝わりにくい英文では国際的な研究者ネットワークでの印象にネガティブな影響をもたらしかねません。
さらに、ジャーナルから言語の質を理由にリジェクトされた場合、再校正の依頼と再投稿に、余計な時間とエネルギーが必要になってしまい、出版のスケジュールに遅れも生じます。
ひどい英文校正を避けるサービス選びの3つの基準
ここまで見てきたように、ひどい英文校正は論文の評価や出版に影響を及ぼしかねません。そうした失敗を避けるには、信頼できるサービスを見極めることが大切です。
サービス選びで特に重要な3つの基準を、まず下の表で整理しました。
| 選定基準 | 確認するポイント |
| 校正者の専門性と質 | ネイティブ・資格の有無 研究分野への対応 校正証明書の発行 |
| サポート体制と品質保証 | 再校正の有無 返金保証の有無 アフターサービスの有無 |
| AI校正と人間校正の使い分け | AIと人間の使い分け プロに依頼すべき文書かの見極め |
より詳しい選び方については「最適な英文校正会社の選び方」もあわせてご覧ください。
校正者の専門性と質
リスクを避け、質の高い英文校正を受けるため、担当する校正者の経歴や専門性、実績などを軸にサービスを選ぶことが重要です。
具体的には、以下の3つのポイントを確認するとよいでしょう。
1.ネイティブ・スピーカーまたは資格を持つプロフェッショナルか
まず、英文校正ですから、校正者に求められるのは英語のネイティブ・スピーカーであることです。また、特定の資格や校正の経験を持ち専門的な作業を熟知していることも重要です。
知人や同僚に該当する人物がいればその人に見てもらうのも一案ですが、有料サービスを利用する場合、これらの条件を校正者の採用基準にしているかを確認することが推奨されます。
2.自分の研究分野がカバーされているか
その論文の分野を専門とする校正者が在籍しているかも大切なポイントです。
医学系、工学系、物理系、などといった大まかな区分ではなく、より細かい専門性に分野を分割されていて、原稿がしかるべき校正者の手で校正される体制が整っているか、自分のニッチな分野がカバーされているサービスであるかを確認しましょう。
3.校正証明書の発行があるか
ジャーナルへの論文投稿時には、英文校正証明書が必要になることや、プロセスの迅速化につながることがあります。
投稿規程において、ネイティブによる校正の証明書の提出が求められている場合、利用を検討している英文校正サービスで証明書が発行されるか、また発行手数料が掛かるかなど確認しておきましょう。
サポート体制と品質保証
英文校正サービスを利用する場合、校正者の経験や能力だけでなく、その会社のサポート体制や品質保証制度も重要になります。特に校正原稿が納品された後のフォローアップ体制が整っているかを確認することが肝要です。
1.再校正・アフターサポートがあるか
校正サービスの利用後にアフターサポートを受ける可能性は、家電製品などの購入後にアフターサポートを受ける可能性より高いと考えておいた方がよいでしょう。
疑問などがあった場合に、校正者に対して直接あるいは間接的に質問をできるか、また納得のいかない修正箇所を指摘して再校正を依頼できるかなど、事前のチェックは必須です。
2.返金保証があるか
品質に問題があった場合の返金保証制度も確認しましょう。信頼のおける英文校正会社ほど、返金についての明確な制度を設けているものです。
返金保証制度の有無の確認は、金銭的なリスクを避けるという意味合いもありますが、その会社がサービスの品質をどれだけ真剣に考えているか把握するためでもあります。
AI校正と人間校正の使い分け
生成AIの精度・性能が進化した今では、執筆した英文の文法チェックやスペルチェック、表現の改善などを行う上で、AIツールを利用する人も多いでしょう。
AIと人間、それぞれの強みを理解し、適切に使い分けることにより、ひどい原稿にしてしまうリスクを減らせます。
1.AIチェッカーと人間の校正者の違いを理解する
AIツールは、文法のチェックや、ボリュームのある文書の中の表記ゆれや用語統一のチェックなどについては非常に優秀です。
しかし文脈やニュアンス、曖昧に表現されてしまっている書き手の意図を読み解くことに長けているのは人間の校正者でしょう。AIチェッカーと人間の校正者の違いを踏まえた上で、両者を使い分ける必要があります。
2.重要な文書ではプロの校正者を選ぶ
上述のような特性から、学術論文などの専門性の高い文書に関してはプロの校正者の判断が不可欠です。AIツールによる予備的な修正を自身で行った後に、プロの英文校正サービスに依頼する方法も選択肢のひとつです。
逆に、校正者の仕事が「ひどい」かもしれない場合に、校正済み原稿を再度AIでチェックするという方法もあるかもしれません。
英文校正後に査読者から英語を指摘された場合の対処法
英文校正を経て投稿した原稿であっても、英語の質の問題を指摘されることはあります。
校正者の仕事の質に起因する場合もありますが、校正の質とは直接関係のない理由、たとえば査読者自身の英語力の問題や、主観的な表現の好みが影響する場合もあります。そのようなケースでは、ジャーナル側で義務付けられていなかったとしても、英文校正証明書を添付することで、その原稿の英語の質に一定の信頼性を持たせることができます。
査読の結果次第では、査読コメントを受けての原稿の修正や査読コメントに対する返答レターの作成など煩雑な作業が生じます。改訂した原稿の再校正や、返答レターの作成に対応するサービスは、こうした作業の負荷を大幅に軽減してくれるでしょう。
英文校正証明書を活用する
繰り返しになりますが、投稿から査読のプロセスにおいて、英語の質をジャーナル側に示すものが英文校正証明書です。
専門性を持つ第三者による査読を経た英文であることの証明は、デスクリジェクトを回避し、査読者のバイアスを取り除く上で重要な役割を果たしうるのです。
様々なサービスが証明書を発行しており、サービス利用者に無条件、無料で発行する会社・サービスもあります。
まとめ
ひどいと感じられる学術論文の英文校正の要素には、専門用語の誤用や、文法・スペルミス、表現のゆらぎ、論理の破綻などがあります。
校正原稿を自分で確認する際には、こうしたポイントを重点的にチェックすることで、適切な校正が行われているかの見当をつけることができる場合もあるでしょう。
また、校正サービスを利用する場合には、事前にその会社の体制を確認しておくことが大切です。


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