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査読を論文執筆のスキルUPに生かす

※この記事は「査読は、論文執筆の練習になりますか?」というタイトルで2015年6月18日に公開した記事ですが、リライトにあたり情報を追記、修正して2021年6月2日に再度公開しました。

論文執筆のスキルを上達させたければ、出版された一流の論文を読んで、洗練された英語表現と頻繁に接することが必要不可欠です。しかし、単に読者として読むだけで終わってしまっては、なかなか論文執筆のスキルUPにはつながりません。

そこで、査読者の目線で他者、そして自分自身が書いた論文を読んでみることをお勧めします。査読とは、投稿された論文をその学問分野の専門家である査読者が評価・検証して学術雑誌(ジャーナル)への掲載可否を判断するものであり、研究分野の進展に寄与することを目的として実施されるものです。したがって、当該分野でそれなりの実績が認められていなければ、実際の査読の依頼がくることはありません。

しかし、一度書かれた論文を「査読者」の視点から熟読することで、単なる「読者」として論文を読むのとは異なる気付きを得ることができます。読者として他者の論文を読むと、どうしても「自分の研究に役立つ情報があるか?」とか「自分の興味を惹くか?」といった目線のみで論文を評価しがちです。また、自分自身で書いた論文を著者として読み返してみても、論理の欠点や研究デザインの瑕疵に気づくことはそう簡単ではありません。

ところが、査読者の視点を意識して論文を読めば、「その論文には十分な信頼性があるか?」とか、「読者に説得力を持って主張をアピールできているか?」というような点にも注目し、より客観的に論文を評価する目線が自然と生じてくるのです。

また、査読者の視点で論文を精査することは、より良い論文を書くための糧にもなります。というのは、査読とは対象論文の内容を評価するだけでなく、その論文が執筆ルールに準じて書かれているかを審査する作業でもあるからです。既に公開されている論文を熟読することで執筆スキルの向上につながると同時に、執筆ルールを含めた査読者のチェックポイントを踏まえて論文を執筆できるようになれば、アクセプトされやすい論文を書くことができるようになります。

査読者として論文を読む

査読者の役割と責務を明確に定めている学会などもありますが、基本的には査読者に求められるのは、投稿論文をジャーナルに掲載する是非を判断するための専門家としての意見(コメント)です。投稿論文に不十分な箇所や倫理的な問題などがある場合には、論文を良くするための助言や指摘も必要です。以下に大まかな査読の手順とそこで注意すべき点を示しますので、これらを念頭に置いて論文を読んでみてください。

1. 論文全体をつかむ

最初から細かく読んでコメントを書こうとすると、全体を見失います。まずは論文全体の構成に目を通し、わかりやすくまとまっているか、提示された研究目的がすべて論じられているかなどを確認しながら、一通り読み通して全体をつかみます。自分なりに論文の要約をしてみるのも論文全体を把握するのに役立つでしょう。

2.構成の内容や論旨の流れを見る

論文の構成要素が具体的に書かれているかを確認します。例えば、論文を理解するために必要な基礎知識や背景はきちんと説明されているか、研究デザインや研究方法は適切で十分か、裏付けとなる情報(エビデンス、データなど)は正確に示されているか、提示されたデータに信憑性はあるか、結果に裏付けられた結論となっているかなど、各項目に適切な情報が記載されているかを見ます。さらに、全体の流れはわかりやすく書かれているか、論文の構造も確認します。研究の意義、新規性、当該研究分野への貢献度を確認しておくことも重要です。

3. 投稿規程に沿っているか確認する

論文原稿が、ジャーナルの投稿規程に沿って書かれているかを確認します。字数制限、タイトルや見出しの書き方、引用・参考文献の書き方、図や表などの挿入方法や図表タイトル/凡例の付け方などの各規定に注意を払うことは、自分で論文を執筆する際にも必須です。

4. 細部を読み込む

全体に目を通したら、次は細かく読み込んでいきます。
表やグラフの数字も本文で論じられているところだけでなく、全体の整合性を確認してください。誤字脱字がないか、引用は適切に記されているか、わかりにくい文はないか、論理が通っているか、論旨に食い違いは見られないか、書き漏らしはないか、脚注の番号と参考文献の番号にズレはないかなど、細かな点も見逃さないように気をつけます。
引用表記の不備は、剽窃・盗用といった研究倫理違反につながりかねないので十分注意します。また、あまり古い論文を参照している場合には、どうしてもその文献を参照しなければならないか、他にもっと新しい文献がないかも確認しましょう。
なお英文校正は査読者の責任ではないものの、英文の意味が不明瞭な場合や言語の改善が望まれると判断した場合には、査読レポートで指摘します。

5.査読レポートを書いてみる

実際に査読を依頼された場合には、ジャーナルの編集委員に査読レポートを提出することが求められます。査読者の役割は、編集委員が掲載可否についての最終判断を下せるように、専門知識に裏付けられた建設的で公平な評価・判定を行い、その結果を報告することです。したがって査読レポートには、対象とする論文の総合評価、掲載可否を判定するコメント、その理由、加筆修正が必要な場合の理由と不明点(要修正箇所)の指摘・提案などを具体的に書き記します。学会やジャーナルによっては査読要領を定めているのでぜひ一度確認してみてください。
査読対象論文をアクセプトするか、リジェクトにするか–論文著者である研究者の人生を左右する判断の一端を担う査読の責任は重大で、論文をしっかり読み込み、明確な理由とともに査読レポートは書かれるべきです。であるからこそ、査読者の目線で論文を読み、査読レポートを書いてみることは、自分の論文執筆スキルの向上にも役立つのです。

査読は学術研究にとって重要なプロセスであることは不変ですが、時とともに変わってきている部分もあります。論文とともに査読結果(査読レポート)が公開されるオープン査読を採用するジャーナルも増えてきており、公開されている査読者のコメントを読むと、査読者がどのように論文を読み込んだのかが分かります。

一例ですが、オープンアクセス誌”eLife”では、掲載論文のページ左枠リストにあるDecision LetterからAcceptance summaryや査読者のコメントを、Author responseからは著者からのコメントや反論(Rebuttal letter)を読むことができるようになっています。査読レポートの書き方を学ぶのに有用ですので参考にしてみてください。

査読のやり方について具体的な指導を受ける機会は限られているかもしれませんが、論文執筆のスキルを向上させる上で査読は素晴らしい教材と言えます。ジャーナルによっては査読コメントを書き込むための書式を査読者に提供しているので、それらの形式に合わせて査読レポートを書いてみるのも良いでしょう。

昨今では査読前の論文を即時出版するプレプリントが増加しており、査読の在り方も議論されていますが、専門知識のある研究者による査読が行われる査読付きジャーナルで出版された論文に高い信頼性がつくことに変わりはありません。査読の依頼が来る日まで、査読者の視点で論文を読み客観的に見直すことを習慣にし、よりよい論文の執筆に役立ててください。


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