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オーサーシップにまでジェンダー格差が!?

学術雑誌(ジャーナル)には、オーサーシップについての倫理的な問題が常に存在しつづけています。特に、論文著者が複数の場合には、論文著作者が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」問題が顕著です。さらに、女性研究者を著者に加えないなどの不平等も問題視されています。これは、学術界において女性の科学者の人数が少ないことにも起因していますが、学術界にマイナスの影響を与える可能性があります。さらには、こうした状況によって科学の道に進もうとする女子学生の将来を閉ざすことになりかねません。

学術界にはびこるジェンダー格差

アメリカ国立科学財団(NSF)のフランス・A・コルドヴァ(France Córdova)や、アメリカ科学振興協会(AAAS)のマーガレット・ハンバーグ(Margaret Hamburg)のように研究機関のトップを務めるような注目すべき女性がいることも事実です。とはいえ、このような地位にいる女性は少数であり、やはりジェンダー格差はいまだに存在しています。Royal Society of Edinburghがスコットランドにおける科学・技術・工学・数学(STEM)分野の研究者について調査を行った『Tapping All Our Talents』によれば、STEM分野で学術研究に従事する女性研究者は2012年の27%から、2017年の30%に増加したものの、その伸びは芳しいとは言えません。Natureに紹介されているPLoS Biologyに掲載された論文からも、STEM分野の女性の苦しい立場が見て取れます。女性研究者の数は、物理学、コンピューター科学、数学の分野で特に少ないのが現状です。

ジェンダー間の不平等に関する複数の研究によって、学術出版の貢献度にもジェンダー格差があることが明らかになっています。ある研究では、査読プロセスにおいて格差があることが示唆されており、同じ分野内で比較した場合に、男性の論文掲載率のほうが女性より圧倒的に高いことが示されていました。

ジェンダー格差はオーサーシップや出版という限定された範囲にとどまらず、学術界全体に蔓延している問題だと言えます。

ジェンダー格差の研究が明らかにしたこと

eLIFEに投稿されたジェンダー不平等に関する論文に記された研究では、オーサーシップとジェンダー格差について詳細に検証しています。研究では、2名以上の共著論文における特徴について、以下の重要な3点が明らかにされています。

  • 論文の共著において圧倒的によく見られる組み合わせは、男性2名、もしくは、男性のみの複数名による共著
  • 2名による共著(2349本)のうち、両名とも男性なのは1377本、残りの972本は男女混合。そのうち、男性が第一著者なのは548本(56.38%)、女性が第一著者なのは424本(43.62%)と、ここでも男性優位な数字となっていた
  • 第一著者として名を連ねることに対する不平等は、業績の認知や助成金の獲得、キャリアの構築、学術界での地位といった点でのジェンダー格差を生む要因になっている可能性がある

研究では、共著論文の場合のクレジットの在り方について、現状よりも透明性を高めていく必要があることを示しています。

ジェンダー格差の打開策

ジェンダー格差の是正に向けた動きは遅い、というよりもむしろ停滞していますが、その一方で、このテーマを扱った研究が増えてきていることで問題への認知は高まり、提言される解決策の数も増えてきています。

具体的には、それぞれの立場により以下のような解決策が考えられます。

  • 大学は、科学分野での女性の採用に注力する、キャリア開発のためのメンター制度を整える、同時に女性による研究活動を推進する、など。
  • 科学研究に従事する女性研究者は、女性研究者同士で研究グループを作成し、コミュニケーションを図る。国外の大学にある既存の女性コミュニケーションサイトは参考になる。例えば、Women in Science at Yale(WISAY)やBU Women in Economics Organization(WEorg)など。
  • 学術雑誌は、オーサーシップにおけるジェンダーの倫理的な問題についての監視を強める。
  • 学術界全体は、STEM分野での男女平等を推進しているWomen in Science and Engineering campaign(WISE)のような、この問題についての認知拡大と平等を実現するための運動を推進する。

このように解決に向けては、各方面から取り組めることがあります。不平等なオーサーシップ、特にSETM分野におけるジェンダーの問題は日本でも深刻であり、対策が必要とされています。社会的な影響も無視できないとはいえ、女性研究者の研究成果やキャリアが公正に評価されないという状況は、もっと積極的に議論され、解決されていくべきでしょう。

オーサーシップの性別に関らず、重要な研究が公平に評価され、学術界が前進していくために多くの行動がとられることが望まれます。


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