オーサーシップが論文撤回を引き起こす?

オーサーシップが論文撤回を引き起こす?-倫理規定遵守の重要性

論文を執筆し、発表することは研究者のキャリアにとって重要です。研究者としての業績は、学術論文の内容(質)と発表数(量)に左右されると言っても過言ではありません。同時に、著者および編集者が論文執筆や出版における倫理規範を守ることも大切です。

近年、急激なITやインターネットの普及によって、過去にはあり得なかった不正や倫理違反がはびこるようになってきました。論文出版における不正にはいろいろありますが、大きくは①研究捏造(図の不正操作も含む)、②剽窃(他社の論文のアイデアやデータなどの無許可掲載)、③利益相反(経済的な利益享受や客観性が損なわれる懸念)、④オーサーシップ(著者の責任と記載に関する問題)、⑤重複出版、⑥サラミ法(論文の不当な分割投稿、スライス)に分類されます。この中でも④オーサーシップが出版倫理における問題であることは、見過されがちではないでしょうか。

 不正行為と見なされる「オーサーシップ」とは

どのような場合に、「オーサーシップ(著者)」が出版倫理上の不正行為と見なされるのか疑問に思われるかもしれません。その理由は、研究論文には著者名と共著者名を明記することで研究の責任の所在を明確にする必要があり、この記載を意図的に偽ったり編集したり(故意の削除や追加)することが不正行為、つまり倫理違反ととられるからです。

論文における著者とは、論文を組み立て、データの取得・分析・解釈など研究に関する一連の作業を実施・監督し、ジャーナルへの投稿を行う研究者のことです。また、共著者とは、知的あるいは技術的な補佐作業、論文の見直しなどに貢献した研究者のことです。研究において役割と責任を課せられた研究者は論文に名前が記載されるべきですが、逆に記載すべき著者を外したり、何らかの「見返り」を期待して研究自体に関与または実質的な貢献をしていない研究者を著者として記載したりすることは不正に該当します。

学術論文の執筆には、発表論文の責任者であるPI(primary investigator)を筆頭に、大学院生・学生、技術担当者など多くの研究者が携わります。研究論文には、すべての著者と貢献した研究者の名前を明記しなければなりません。先に述べたように、個々の研究者の業績を大きく見せようとして著者名を故意に除いたり、反対に実際の研究に関わっていない研究者を著者リストに付け加えたりすることは不正です。

また、原稿に著者名を掲載する順番も重要です。最初に記載する著者は筆頭著者と呼ばれ、実験あるいは重要なデータ取得において中心的な役割を担った研究者になります。そして筆頭著者と共に研究を概念化し、成果の発見に貢献した研究者であるPIが最後に記載されるのが一般的です。最初と最後は比較的すぐに決まるものの、共著者の掲載順は混乱の原因であり、論文提出における倫理的問題に発展することもあるのです。

 著者の責務と著者名の表記方法

論文著者として記載できる研究者の責務(著者資格)および著者リストの表記方法については、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)がガイドラインを作成しており、ICMJEに登録している学術ジャーナルに論文を投稿する際には、これに準じていることが求められます。著者資格は以下の3つの基準をすべて満たす者と指定されています。
・論文の構想と企画、データ取得、データ分析、データ解釈において相当の貢献を行っている
・論文執筆または重要な知的内容に関する批判的な改訂(校閲)を行っている
・出版用の原稿の最終承認を行っている

研究の正確性および信頼性を明確にするため、著者はそれぞれに割り振られた業務に責任を持つ必要がありますが、共著者の貢献度や責任のレベルに差がある点は考慮されます。とはいえ、ガイドラインに違反した場合には役割と責任が何であれ、倫理に反するとして、大学などによる不正調査の対象にされる可能性があります。実際、著者に関するガイドラインを遵守していなかったという理由で出版された論文が撤回されたこともあるのです。

ここで著者とは区別される研究貢献者についても記しておきます。研究貢献者とは、①知識的な貢献(アイデア、文章作成)、②実質的な貢献(研究の実施、データ分析)、③資金的な貢献(ファンド、実験材料の提供)をする人とされています。ICMJEによる著者資格を満たさない関係研究者はすべて研究貢献者となるので、技術協力者や学生など実験準備のみに関わったような場合には、研究貢献者として「謝辞」の項に、その役割および貢献について記載されることになります。

 問題があると感じたら……

オーサーシップについて疑問がある、掲載された著者リストに同意できない、研究に貢献したにも関わらず論文著者から削除された――というような場合には、各自が所属する研究機関に相談するべきでしょう。著者や貢献者の記載についてわからなくなった場合や、筆頭著者の資格についてもっと知りたいという場合には、ジャーナルの編集チームに相談するのもよいと考えられます。ジャーナル編集者からは的確なアドバイスが得られるでしょうし、著者に関する問題が報告された場合には、編集長が問題解決に乗り出してくれることもあります。論文著者が倫理規範を守るのと同様に、編集者や査読者にも倫理違反に正しく対処することが求められているのです。

■ 違反撲滅のために

倫理違反は、研究者自身のキャリアや業績に傷を付けるだけでなく、研究そのもの、あるいは科学的見識にも悪影響を及ぼしかねません。この問題に対処するにあたり、ほとんどのジャーナルおよび出版社は出版規範委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)*1に準じた調査を行います。日本では日本医学雑誌編集者会議 (Japanese Association of Medical Journal Editors: JAMJE)*2が、編集方針における基本的な倫理ガイドラインとして『医学雑誌編集ガイドライン』をまとめ、論文著者と編集者の権利と責任および遵守すべき倫理規範を明確にしています。

JAMJEガイドラインの目的
・医学雑誌編集者の責任と権利を定める
・医学雑誌の質向上のための編集者の役割を明確にする
・医学雑誌編集者のマニュアルとして利用できる内容とする

現時点では2015年3月に更新されたものが最新ですが、JAMJAは状況に応じて更新していくとしています。

経験豊かな研究者や査読者にとって基本的かつ常識的な内容を記したガイドラインは「釈迦に説法」かもしれませんが、学生や若手研究者にとって、論文の執筆・出版の際の研究倫理規範を理解し、違反することなくキャリアを重ねていくためには、このようなガイドラインの持つ意味は大きく、研究不正が多様化する現在では、その必要性が増していくことでしょう。


脚注:

*1 出版規範委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)
出版規範委員会(COPE)は出版倫理に関わる問題について協議・勧告を行う団体。1997年に英国で医学系学術雑誌が出版規範の問題を検討する出版規範委員会が立ち上げられたのが始まり。現在では、1万名を超える学術ジャーナルの編集者(エディター)などの出版関係者が会員として登録している。2013年に「論文査読者のための倫理ガイドライン」を公開した。

*2 日本医学雑誌編集者会議(Japanese Association of Medical Journal Editors:JAMJE)
日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)は、日本医学会分科会が発行する機関誌の編集者により構成される組織であり、平成20年8月1日に開催された設立総会において日本医学会の事業として発足した。1)医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護、2)医学雑誌の質の向上への寄与、3)著者と医学雑誌・編集者の倫理規範の策定、4)海外の編集者会議との連携の4つを目的に活動を行っている。

参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Authorship and Contributorship in Scientific Publications 

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