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査読プロセスに求められている多様性

論文の出版は学術界で成功するための重要な要素であるにもかかわらず、査読のプロセスには残念ながら偏見(バイアス)が残っているといわざるを得ません。いくつかの研究によって、女性とナショナル・マイノリティ(人種・言語・宗教上の少数者)の研究者は、偏見によって論文出版を阻まれていることが明らかになっています。偏見によって、重要な論文は埋もれ、結果として学術界の進歩が遅れる事態にもなっているかもしれません。こうした状況を改善するためには査読プロセスにおける 多様性 (diversity)を高めていくことが重要です。

査読に多様性が欠如している理由

査読に多様性が欠如している理由はいくつかあります。オープンアクセス出版社であるFrontiersの学術雑誌に掲載された研究は、査読プロセスにおけるジェンダーバイアス(男女間の偏り)の存在を検証しています。検証の結果、男性の編集委員は男性の査読者を、女性の編集者は女性の査読者を選ぶ傾向があることを示しています。これは、女性の編集委員の人数は男性と比較して少ないため、結果として女性の査読者の数も少なくなるという状況を生みます。この研究内容については、エナゴアカデミーの記事『編集者は同性の査読者を選びがち!?』でも詳しく触れています。また、British Ecological Societyが発刊する学術雑誌Functional Ecologyに掲載されている同様の研究も、同じ結論に至っています。ジェンダーバイアスによって、査読者の層に多様性が欠如していることが示されているのです。

この他、査読者に多様性が欠落していることへの説明としては、学術界と研究者が既存の人脈(ネットワーク)に強く依存していることが挙げられます。研究者は自分と同質の人間とネットワークを構築する傾向があります。したがって、少数派である女性はネットワークに入り込めず、キャリアを形成することが難しく、また、低く評価されがちです。実際、医学雑誌であるカナディアン・メディカル・アソシエーション・ジャーナル(CMAJ)に掲載された研究でも、同等の経験を有し、要件を満たしている場合でも女性のほうが研究資金の獲得が難しいという結果が示されています。そしてこれは、ナショナル・マイノリティの研究者にもあてはまります。論文掲載や昇進が難しいため、結果として、査読者として声がかかる人数も増えないままなのです。

多様性を推進する取り組み

こうした状況を受け、出版社や学術団体の間では、査読プロセスにおける多様性の推進に注目が集まっています。問題解決に向けた具体例としては、以下のような取り組みが行われています。

  • アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union : AGU)はポリシーを定め、女性や若い研究者、マイノリティを査読者に含めるよう促している
  • Conservation Biologyは、著者、査読者ともに相手が誰だかわからないダブル・ブラインド・ピアレビュー(double-blind peer review)の実施を検討している
  • オープンアクセス出版社であるBioMed Centralの4誌、Trials、Systematic Reviews、 Pilot and Feasibility Studies、Journal of Medical Case Reportsは、経験の浅い研究者の査読を指導するプログラムの試験運用を開始。このプログラムでは査読者が査読を通じて指導を受けたいと考えている若手の研究者を推薦できる。

著者や出版社の声

著者や出版社は査読プロセスの多様性を高めるためにさまざまな提案をしています。例えば、先にも触れたFunctional Ecologyは編集委員の性別、年齢、国の多様化を推奨しています。複数の研究が示している通り、編集委員の多様性が進めば、査読者の層もそれに応じて厚くなるからです。また、アメリカ天文学会(American Astronomical Society : AAS)におけるstatus of women in astronomyの議長であるパトリシア・M・ネゼック(Patricia M Knezek)は、専門機関は、学会における講演やポスター発表でもっと女性やマイノリティに代表を任せるべきだと発言しています。

さらに、AGUの元アナリストで、現在ユタ大学で研究助手を務めるジョリー・ラーバック(Jory Lerback)は、もっと多くの出版社や研究機関がAGUの先例にならうべきだとしています。毎年20誌に6,000以上の論文を掲載しているAGUは、2017年に自分たちの実態調査を行いました。この調査では、25,000名におよぶ著者と15,000名の査読者、著者によって提案された97,000名の査読者、編集委員によって推薦された118,000名の著者についての年齢と性別のデータを収集しました。その結果、出版された論文の第一著者に占める女性の割合は27%を占めるものの、AGU会員の28%にすぎず、査読者に占める割合に至ってはわずか20%であることがわかりました。また、男性の著者が提案した査読者のうち女性は15%だったのに対し、女性の著者が提案した査読者では21%と高くなっていました。AGUの編集委員による査読者の推薦にも同じ傾向が見られ、男性の編集委員が推薦した女性査読者の割合は17%、女性の編集委員が推薦した女性査読者は22%となっていました。こうした結果を受け、AGUでは先に挙げたポリシーの策定を行い、問題解決への取り組みにつなげることができています。ラーバックは、内部監査を実施し、結果の透明性を保つことが説明責任を負い、変革を実現する第一歩だと言っています。

いくつもの研究結果が示している通り、査読プロセスにおける多様性を実現することは、論文著者の多様性を実現するための重要なステップです。査読プロセスにおける偏見を取り除くことが、今よりも多くの重要な研究が日の目を見ることにつながり、ひいては学術界をさらに進歩させることになるでしょう。


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