学術界にはびこるジェンダーバイアス

残念なことに、学術界には今も性差別(ジェンダーバイアス)が存在し、女性研究者の活躍に影響をおよぼしているというのは周知の事実です。学術ジャーナルで発表する論文数の比較では、女性研究者の論文数は、男性研究者の数よりかなり少ない状況です。研究職に就くにも、女性は男性に比べてハードルが高く、報酬も少なく、職を得た後も研究に従事するより管理業務を任される傾向にあるといわれています。
多様性が求められているはずの学術界でジェンダーバイアスが存在し、女性が過小評価されているとは、どういうことなのでしょうか。
■ 査読にジェンダーバイアスは存在するか
通常、投稿された研究論文は、学術誌に掲載される前に、その分野の権威ある研究者により評価・検証される「査読」というプロセスを経てから出版に至ります。2017年、この査読におけるジェンダーバイアスの存在を突き止めるため、アメリカ地球物理学連合(AGU: American Geophysical Union)が調査を行いました。AGUは、学術ジャーナル20誌を刊行し、年間6000本の論文を掲載している団体です。この調査では、2012年から2015年にAGUが出版した学術ジャーナルの著者と査読者のデータから、著者と査読者の性別と年齢の分析が行われました。
AGU会員のうち、女性は平均28%(対象期間中)。かつて学術界に足を踏み入れる女性が少なかったことから、年齢層が上がると女性の割合が少なくなっていきます。投稿された論文の筆頭著者のうち女性は26%で、女性筆頭著者一人当たりの発表論文数は男性よりも少ない一方、女性筆頭著者の論文は、男性筆頭著者の論文に比べ、採用(アクセプト)された率が高いことがわかりました(男女比61%:57%)。対象論文をアクセプトするかの判断については、編集者および査読者の性別による影響は見られませんでした。
さらに、AGUは査読者の割合にも言及しています。同対象期間に論文の査読に参加したすべての査読者のうち、女性の割合は20%。これは、女性筆頭著者(27%)および出版共著者(23%)の割合、AGU会員に占める女性の割合(28%)に比べても低い数字です。
査読プロセスにおいて、女性筆頭著者は女性の査読者を推薦することが多く、同様に、女性編集者も女性の査読者を推薦することが多いことがわかっています。しかし、査読者に推薦されても、女性は査読者になりたがらない傾向があると数字に表れています。約22%の女性が査読者への誘いを断っており、男性の17%を超えているのです。多忙な研究者が査読への誘いを断ることはよくありますが、女性の場合、職場で管理業務を担っていることが多いことや、家庭での家事負担が重いことも一因と考えられます。
■ ジェンダーバイアスは思い込みに起因するのか
女性の過小評価は、男性は論理性、女性は関係性を重視するという文化的価値観に影響されているのかもしれません。男女の大学研究者に研究室長を選ばせてみたところ、男女どちらのグループも男性を選びました。そして、男性候補者が役職についた場合、女性に比べて高い給料とより大人数の管理を任される機会を与えられる可能性が高いのです。
男性研究者のほうが能力に勝るという思い込みは、女性のキャリア構築を困難なものにします。男性と同レベルの資質を有していても、女性が採用されたり昇進したり、そもそも男性研究者と同じ仕事を得るためには、彼らより多くの成果を出さなければならないということなのです。
■ 女性研究者を苦しめる難題
ジェンダーバイアスは補助金を得るときにも影響します。アメリカ国立衛生研究所(NIH)が提供する R01グラントという研究助成金を見ても、女性研究者がこの助成金を獲得する割合は非常に少ない状況です。査読者の女性研究者に対する評価が、男性研究者に対するそれよりよいにもかかわらず、女性研究者は科学分野で大きな成果を出すことができないという先入観で見られているのか、獲得できる助成金は少ない。一方、男性研究者への評価は厳しいながら、獲得できる助成金は多い。査読者は、無意識のうちに、申込者を男女で区別して判断しているのかもしれません。
優位な立場を維持している男性が、その優位さを守るような行動に出ているとも言えそうです。2014年に発表された調査によれば、アメリカの生物学分野では男性研究者の数が女性の数を凌駕しており、男性研究者が人材育成をする際、少なからず女性より男性に偏ることが示されました。若い研究者は、先輩研究者の指導を受けてキャリアアップしていきます。無意識であったとしても、雇用や人材育成が偏った割合で進んでしまった場合、女性研究者は自然淘汰されてしまう恐れがあるのです。
■ 改善策の模索
就職や昇進で苦労し、なんとか研究者になっても学術出版のプロセスや助成金の獲得、研究者としてのキャリアアップにもジェンダーバイアスの壁が立ちはだかる。女性研究者の苦労は計り知れません。この状況を改善するには、女性側から積極的に学術界に食い込んでいくことが必要かもしれません。査読を頼まれるということは、専門分野における能力を評価されたということですので、引き受けてみるとよいでしょう。査読に参加することで、コミュニケーションスキルが向上し、研究に役立つネットワークを築くことにもつながります。
AGUは今回の調査を踏まえ、査読におけるジェンダーバイアスをなくすための取り組みを始めており、編集者と著者に対して、学術界の多様性を向上させるよう意識して査読者を選ぶように助言しています。ジェンダーバランスに対抗すべく、より多くの女性を、そして若い研究者やマイノリティ(人種・宗教上の少数派)などを査読者として起用するよう勧めているのです。
学術研究は、すべての研究者に平等な機会が与えられてこそ、発展していくことができます。AGUに続き、学術界に多様性をもたらす努力が広がることが期待されます。


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