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STEM分野で顕著なジェンダー格差

Science(科学)、 Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとってSTEMと略称される分野での男女の格差(ジェンダー格差)の問題は広く知られているところです。1990年代初頭に比べると格差が縮小しているとの調査報告があるように、確かに以前よりはSTEM分野の学位を取得して同分野の職に就く女性の数は増加していると言われています。しかし、現実には厳しいジェンダー格差が依然として残っているようです。

STEM分野の女性比率

今でもSTEM分野を専攻したり、学位を取得したり、同分野の職業に就く女性の人数は、男性より低い傾向にあります。STEM分野で男性と同等、あるいは男性以上に優秀な女性もいますが、全体的な数で言えば少数派です。特に、物理学、コンピュータ科学、数学、工学の分野で人数比が顕著であり、米国におけるこれらの学科の学生数における女性の割合は20%程度に留まっています。日本でも同様です。文部科学省の平成30年度学校基本調査の公表数字によると、大学における女性学生の割合は、学部で45.1%、修士課程31.3%、博士課程33.6%と、それぞれ過去最高を更新。しかし、このうち理学と工学における女子学部生の割合は、理学27.8%、工学15%と非常に低くなっています。薬学が59.5%と健闘するものの、人文科学(65.3%)や教育(59.2%)との圧倒的な差は明らかです。

ジェンダー差別による影響

そもそもSTEM分野を専攻する女子学生数が少ないので、当然、大学卒業後に同分野で就職する女性の数も少なくなります。その上、米国のシンクタンクの調査によると、この分野で働く女性のうち多くがジェンダー差別を受けていると訴えています。男性が圧倒的優位な職場で、差別を経験した女性は78%に達し、セクシャルハラスメントを受けた女性も36%に及びます。

STEM分野におけるジェンダー差別の影響は広い範囲に及んでいます。スコットランド王立協会(Royal Institute of Scotland)がスコットランド青年アカデミー(Young Academy of Scotland)と共同で2012年から2018年にかけて実施した調査では、教育課程が進むにつれて女性がSTEM分野から離脱していく傾向が明確になり、それが産業界におけるSTEM分野の人材不足の大きな要因になっていること、ひいては経済発展の原動力であるイノベーションの足かせとなっていることなどが指摘されています。

経済的な影響だけではありません。ジェンダー差別による影響としてもう一つ重大なのは、負のループに陥ってしまうことです。STEM分野に女性が少ないため、後続の女子学生にとって自分の将来の模範となる同性のロールモデルが少ないことになります。また、STEM分野に女性が少ないことに人々が慣れっこになり、それが常態化してしまう結果、学術においても男女の役割が違うと考える社会ができ上がってしまいます。これでは不公正で不平等な社会です。

STEMにおける女性差別-ジェンダー格差の原因

原因として多くのことが考えられます。ひとつには、社会における男女の役割は違うという旧来の考え方が、依然として強いことです。多くの人が今でも、女性は家庭で家族を世話するものと思っています。根底には、女性は「本来」人に関心を抱くのであり、物体や抽象的なことには関心が薄いとの思い込みがあります。子供に接する人たちがこうした考えを持っていると、少なからず子供たちの関心の方向や能力に影響を与えることになりうるのです。こうした背景から、女子学生がSTEM分野を選択することにあまり魅力を感じなかったり、敷居が高いと思ったりするのでしょう。

男女の社会的役割に関する考え方以外の原因も考えられます。例えば、フィンランドは社会全体における男女格差が全少ない国ですが、STEMの中でも生き物に関らない無機的な学問分野には大きなジェンダー格差が見られます。これと対照的に、アルジェリアではSTEM分野の学位取得者の女性比率は約40%と高くなっています。伝統的な社会規範のある低所得、あるいは中所得の国々では、工学の学位を取得する女性の比率が高所得の諸国より高い傾向が見られます。それぞれの社会の多様な要因が学術分野の選択にも影響しているのです。

また、研究員採用、査読、オーサーシップ(論文著者)におけるジェンダー格差が、STEM分野で女性が就職、または昇進するチャンスにマイナスの影響を及ぼしています。文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめた「科学技術指標2018」によれば、2017年の日本の研究者全体に占める女性研究者の割合は15.7%。漸増傾向にあるとはいえ、諸外国に比べればまだ低い水準にとどまっています。女性研究者が少ない理由についてのアンケートでは、女性研究者の回答の上位3つは「家庭と仕事の両立が困難(68%)」、「育児後の復帰が困難(44%)」、「職場環境(42%)」となっていました。

大学における女性教員数に関する調査でも同様の傾向が見られ、2016年度の全大学における女性教員の割合は23.7%に留まっています。2006年度以降、一貫して増加しているもののまだ少ない状況です。少し前のデータですが、分野別の女性教員の採用割合(2014年度、文科省とりまとめ資料)を見ると自然科学系は28.1%とこちらも高いとは言えない数字です。職位別では助教29.7%、講師33.2%に比べて准教授23.0%、教授21.5%と上の職位にいくにしたがって女性比率が下がっていく傾向が見られます。女性教員の割合は増加しているとはいえ、上位職では依然として低く、指導的立場の女性の活躍が課題とされています。指導的地位の女性比率が低い理由についてのアンケートでも、先のアンケート同様、「家庭との両立が困難(64%)」、「中途離職や休職が多い(52%)」、「現在指導的地位にある世代の女性比率が低い(51%)」などの理由が高い割合を示す結果となっていました。

文科省を中心に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」などを定め、女性研究者の活躍促進を図ってはいますが、このジェンダー格差に関する社会の関心を高め、認識を引き上げていくことが、格差是正を促し状況を良い方向へ向けていく一助となるのではないでしょうか。


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