米国の裁判所、“捕食出版社”に差し止め命令

2017年11月18日、米国の連邦取引委員会(FTC : Federal Trade Commission)は、米国の裁判所が9月に、いわゆる捕食ジャーナルの出版社に対して「予備的差し止め命令(preliminary injunction)」を出したことを発表しました。FTCは不正な取引等を取り締まる政府機関です。
本誌でも度々伝えてきたように、捕食ジャーナル(predatory journal)とは、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことです。「ハゲタカジャーナル」と訳されることもあります。そうしたジャーナル(学術雑誌)に掲載された論文は、たとえば生物医学分野であったら、同分野の論文データベース「パブメド(PubMed)」に収載されないこともあります。
捕食ジャーナルを発行する出版社は「捕食出版社(predatory publisher)」と呼ばれます。彼らは登録料さえ払えば誰でも講演できる「国際会議」と称するものを開催することもあります。
FTCは2016年8月、インドのオープンアクセスジャーナルの出版社OMICSグループや関連企業に対して訴訟を起こしました。FTCの主張は、同社らが、有名な研究者の名前をその研究者が参加することに同意しなかったにもかかわらず使用して会議の参加者を募集したこと、論文が査読されているかどうかについて読者を誤解させたこと、投稿前に掲載料に関する情報をはっきりと著者に提供していないこと、同社らが発行するジャーナルについて誤解を招く「インパクトファクター」を提示していたこと、です。
この訴訟に対し、2017年9月29日、ネバダ州連邦地方裁判所のグロリア・ナバロ裁判官は、FTCから提出された証拠は「被告がジャーナル出版に関する虚偽記載をしたという予備的な結論を支持するのに十分である」と述べ、「差止命令がなければ、被告人が依然として不正行為に従事する可能性が高い」という判決を下しました。
しかし、学術情報サイト「リトラクション・ウォッチ」などによれば、この命令は、同社がジャーナルを発行したり、国際会議を開催したりすることを止められる内容ではないようです。今回裁判所が認めたことは、あくまでも同社が研究者たちに論文や口頭発表を勧誘する方法において不正行為を行ったことであり、結果として命じたのは、誤解を招く情報をウェブサイトから削除することでした。
FTCの金融慣行課の上席弁護士グレゴリー・アッシュは「これは確かに、私たちは捕食出版社を監視し、目を光らせています、という学術界へのメッセージです」とコメントしています。それに対してOMICS社の法律顧問は「リトラクション・ウォッチ」の取材に対して、「FTCは“フェイク・ニュース”に基づいて主張したのです」と述べています。
OMICSグループはインドに本社を置く、オープンアクセスジャーナル専門の出版社で、700誌ものジャーナルを発行し、世界各地で国際会議と称する会議を主催しています。同社の名前は、捕食ジャーナルや捕食出版社のリストとして知られる「ビールズ・リスト」にも挙がっていました(同リストは閉鎖されましたが、アーカイヴが残っています)。
2016年、同社がカナダで数多くの医学ジャーナルを発行する出版社2社を買収していたことが、同国の『トロント・スター』とCTVニュースの合同調査によってわかりました。カナダの評判は「ジャンク・サイエンス」のために出版社が「ハイジャック」されてしまったというもので、同国の医師たちはカナダの学術誌の名前が偽の研究論文にお墨付きを与えるのに使われることを懸念しているといいます。
その一方で、米国の研究予算の支出機関である国立衛生研究所(NIH : National Institute of Health)は、2017年11月3日、関係各所に対して同機関の助成を受けた研究は「明確かつ厳密な査読プロセスを持たないジャーナル」、要するに捕食ジャーナルでの論文公表を控えるよう通達を出しました。
この件やその背景などについては、次回お伝えしましょう。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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