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プランSの学術界への影響は⁈(2)

論文のオープンアクセス(OA)化に向けた公的助成機関によるイニシアチブ「cOAlition S」の開始と、OA推進の10の原則「 プランS 」についての概要、ならびに、このプランSへのフィードバック募集(期限:2019年2月8日)については別記事で紹介しました。学術研究者のみならず、出版界もこのプランSの動向に注目しており、600を超えるフィードバックが寄せられたそうです。それらの意見を踏まえてcOAlition Sが目指すOAの実現に向けた手引き「Guidance on the Implementation of Plan S(以下、手引書)」が改訂され、効力の発生時期を予定より1年遅れの2021年1月1日に延期するなどの変更が加えられました。この動きは学術界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

加速するオープンアクセス

2019年5月31日に発表された手引書の改訂版には、cOAlition S参加機関による研究助成を受けた研究成果(査読出版物)は、すべてOAジャーナルかOAプラットフォーム、またはOAリポジトリに即時発表しなければならないとされる日が、当初計画されていた2020年ではなく2021年1月1日となったことが記されています。OAへの移行には時間が必要であるとの指摘に対応し、出版社のビジネスをOAモデルにシフトする時間的猶予を与えるものと見られます。とはいえ、効力発生日までに学術界が適応しきれるのか疑問視する声は根強く残っており、さまざまな点で論議を呼んでいます。

改訂点

エンバーゴ(公開猶予期間)なしの即時・完全なOA化といった基本的な原則は従来通りでしたが、フィードバックを踏まえ、以下の点で変更が加えられています。

基本原則通りとされたこと

  • あらゆる学術出版物が購読料を支払わずに閲覧できるようにする(=OAとする)
  • エンバーゴ(公開猶予期間)なしに即時かつ完全にOA化する
  • CC BYライセンスによる実施を原則としたOA化とする
  • 研究資金提供者は妥当なOA出版費用を支援する
  • 研究資金提供者は、終了日が明確にされている転換契約(Transformative Agreements)を締結しているもの以外のハイブリッドOAジャーナルでの発表を支持しない

変更となったこと

  • 研究者や出版社がプランSのもとで進められるOA化に対応するための準備期間を得られるように、効力の発生日を2021年1月1日へ延期する。
  • OA化を促すための転換契約(Transformative Agreements)への資金提供は2024年まで実施する。転換契約により、定期購読モデルからOAモデルにシフトすることになる。
  • 過渡期の契約に関する選択肢として、転換契約、転換モデル契約(Transformative Model Agreements)、段階的にOAコンテンツを増やすとしている学術雑誌(Transformative Journals)での出版などを考慮する。
  • プランSの実現方法はひとつではなく、多数のOAプラットフォームの利用が可能。このことを踏まえ、プランSが単なるOA出版における出版費用モデルではなく、cOAlition SがOAジャーナルとOAプラットフォームのために継続的なモデルの多様性を支持するものであることを明確に示す。
  • cOAlition Sは、論文が掲載される学術雑誌(ジャーナル)の評判(権威ある雑誌かどうか)ではなく、研究自体の価値および研究成果に基づく評価、インセンティブを重視することを明確に示す。
  • 市場と研究資金提供者の将来性を標準化し、出版費用の上限を考慮するためにも、OA出版料の透明性は重要であることを明示する。支援者が助成金を提供する際、合理的でない価格設定については支払上限を考慮する可能性にも言及する。
  • OAレポジトリに要求される技術的な要件が厳しいため、これを改訂する。

この改訂版のリリースにより、新たなOA化論争が起こっています。EC(欧州委員会)のCarlos Moedas氏は、このプランSの改訂を歓迎し、「プランSは、OA化を実現させるために、増え続けている資金提供者が促進すべき大胆なステップのひとつです。」と述べています。当事者となる研究者は、当面の期間は、転換契約のもとで論文を出版したり、助成機関が認める場合には制限付きのOAで論文出版したりすることができますが、2021年以降の出版はすべてOAとなる予定です。

学術界の反応は?

cOAlition Sは、今回の改訂が研究資金提供者や研究機関などがプランSに取り組む助けとなるのを期待しています。cOAlition Sの一員であるJohn-Arne Røttingen博士は、「プランSの最終版は、OAへの完全かつ迅速な移行を加速させることになるでしょう。」と言っています。科学政策決定者でプランSの作案者でもあるRobert-Jan Smitsは、評価に関して成果を重視する点を高く評価しており、学術界でプランSへの賛同が高まることを期待しています。

出版社の中には、OA化への転換に選択肢が示されたことを前向きにとらえているところもありますが、OA化に必要な費用、特に助成金を受けていない研究者に対する費用負担について懸念を示す出版社もあります。いまだに問題が大きいとの指摘は残っているのです。

一部の若手研究者は、プランSは急ぎすぎているとして世界の研究者からの投稿が減る可能性を示唆しています。また、プランSがイギリスおよび欧州の国々に注力しすぎているとの指摘もあります。米国や中国、アジア諸国のようにプランSを推進していない国も多数あることを踏まえ、プランSに適合したジャーナルに論文を出版することに縛られるあまり、中国や米国のように高インパクトであればOAであることを必須としていないジャーナルへの論文投稿ができる国々に研究者が移動することの妨げになるのではないか、つまり研究者の学術的自由の侵害になるのではないか、とのネガティブな影響を懸念する声も上がっています。

多くの賛同が得られる一方で、実際に2021年までに準備が間に合うかと不安視する声もあります。しかも、世界中の研究支援の中でcOAlition Sの助成機関による支援はごく一部を対象としており、その割合は大きなものではありません。他の研究助成機関の賛同が得られなければ、世界でのOA化へのスムーズな転換は難しいだろうとの意見もあります。いずれにしても、2021年まであとわずか。出版社、特にハイブリッドジャーナルを発刊している出版社が今回の改訂をどのように捉え、今後どのように推移するか。注意が必要です。

【cOAlition Sとは】

cOAlition Sとは、2018年9月4日に欧州の11の公的助成機関が中心となって立ち上げた研究成果物の即時・完全なオープンアクセス(OA)化を目指すイニシアチブ(取り組み)であり、このOA化を推進するために策定された10の原則が「プランS」です。OA化は大胆な改革であることから、cOAlition SはプランSの実現に関する手引書“Guidance on the Implementation of Plan S”公開し、フィードバックを募集。40以上の国から600を超える意見が寄せられたことを踏まえた手引書の改訂版が2019年5月31日に発表されました。


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