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世界大学ランキングは何を評価しているのか

さまざま教育関連機関から、多種多様な指標を用いた『世界大学ランキング』が定期的に発表されています。これらのランキングおよび前年度との比較から、世界における日本の大学の位置や順位の変化が見えてきます。2018年のランキングは何を評価し、どんな結果が見えてくるでしょうか。

■ 「THE世界大学ランキング日本版」は国際性への項目追加で順位に変動

まず、日本国内の大学を世界的な指標でランク付けした結果から見てみます。3月28日に、イギリスのTimes Higher Education(THE)が「THE世界大学ランキング日本版2018」を発表しました。グローバル版の「THE世界大学ランキング」が大学院の研究力に比重を置いて評価しているのに対し、日本版は学部の教育力を重視している点が特徴的です。このランキングを決定する指標は4つ――教育リソース(資金力、学生一人あたりの教員数など)、教育充実度(高校教員の評判調査)、教育成果(企業や研究者による評判調査)、国際性(外国人の学生/教員比率、留学比率、外国語による講座の割合)。それぞれの項目がデータや調査等に基づいてスコア付けされ、150の大学がランク付けされています。今回から、国際性の指標に「日本人学生の留学比率」と「外国語で行われている講座の比率」の2項目が加わったことから、大学の評価において国際化の重要度が増していることが見て取れます。多くの大学が国際教育の強化を図る中、前年から大きく順位を上げたのは、総合ランキング20位から12位となった国際教養大学(総合トップ20の中では唯一の公立大学)。全寮制で留学生と共同生活をし、全ての授業は英語で行われ、さらに卒業要件に専門課程1年間の海外留学を必須とする徹底ぶり。世界標準を意識した大学運営で国際性スコア100ポイントと他校を引き離しています(国際性スコアのトップ10となれば83.3以上ですが、90以上が5校、95以上が上位3校。100ポイントは国際教養大学のみ)。他にも、東京外国語大学が昨年27位から今年17位、上智大学が18位から15位と、国際性の項目追加によって外国語大学のスコアが伸びる結果となりました。

■ 日経「大学革新力創出指数」に見る日本の大学の革新力低下

大学がグローバル化の荒波にもまれているのは確かです。しかし、大学に求められるのは国際性だけではありません。近年、日本の大学の研究力が低下しているとの危機感が募っています。3月に発表されたNature Index 2018 Japanでも日本の科学研究論文の発表数が減少していることへの懸念が示されていましたが、日本経済新聞も「大学革新力創出指数」を算出し、日本の大学の研究力は地盤沈下を起こしていると報じています。6月4日の日本経済新聞によれば、同紙は大手学術出版社エルゼビアと自然科学研究機構の協力のもと、国内97大学、国外112大学の計209大学を対象に、革新(イノベーション)力創出指数を算出しました。学術論文の発表数、研究者層の厚み、引用件数の多い論文の割合(論文の質)、研究者あたりの有力論文数(論文の生産性)を比較したところ、2012-2016年の日本の大学の論文発表数、研究の質は大きく順位を落とす結果となりました。一因と考えられているのは、研究者一人あたりの有力論文数から見る生産性におけるアジアの大学の台頭です。生産性の上位は、1位が南洋理工大学(シンガポール)、2位が香港城市大学(中国)、3位がオールボー大学(デンマーク)。今回トップの南洋理工大学は、2002-2006年の18位からの躍進です。対して、日本を代表する大学である東大の生産性は94位。2012-2016年の生産性で100位以内に入っているのは、94位の東大を筆頭に、98位の京都大学、99位の東北大学、100位の東京工業大学と4校のみです。100位以降には日本の大学がランクインしてくるものの、10年前(2002-2006年)は100位以内に8校が入っていたことを鑑みれば、低迷ぶりは明らかです。アジアの大学が存在感を増しているのに対して、日本の大学の存在感は薄れています。

■ 大学に求められる資質-日本の大学はどうなる?

世界的にアジアの大学が躍進する中、「THE世界大学ランキング日本版2018」に初ランクインした大学からは、新しい取り組みも見えてきます。総合ランキング上位151校(同位に複数校あるため)に新たにランクインした大学は23校(国立3校、公立7校、私立13校)でした。国公立大学には「教育リソース」のスコアが高い傾向がありますが、私立大学には前述の「国際性」や「教育充実度」のスコアを上げることでランクを上げている傾向が見られます。日本版ランキング2018の総合ランキングに初めて名前があがってきた私立大学13校* の中でも「教育充実度」のランキングが高かったのは、立教大学(総合27位)で「教育充実度」のスコアは96.2(分野別19位)。法政大学(総合53位)は92.4(分野別29位)。また、今回から「国際性」に項目が追加され、評価全体に占める割合が増加したことで外国語大学が躍進しましたが、他にも小規模な私大ならではの取り組みを行っている大学が「国際性」で高いスコアを獲得しています。例えば、8割以上の授業を外国語で行っている立命館アジア太平洋大学(総合21位、分野別2位)と国際教養大学(総合12位、分野別1位)などが善戦しています。

日経の分析の「研究の質」における国内ランキングを見ても、1位は首都大学東京、2位は東京大学、3位は信州大学と、従来の国立大学とは異なる大学が入ってきています。首都大学東京は、「大都市」に着目した高度な研究を推進し、大学の存在意義を世界に示すこと研究に関する目標と掲げるとともに、ASEAN諸国と日本の政府主導の国際的な学生交流事業に参画するなど、国際化推進にも力を入れています。信州大学は、日本で唯一の繊維学部を設置しており、繊維やファイバー系の論文執筆も多く、世界的に認知されているという特徴があります。また、首都大学東京と信州大学に共通しているのは、若手が研究に専念できる場を提供していることだとも挙げられています。

各種大学ランキングの指標に項目が追加されたり、どの指標に重きを置くかが変更されたりするように、大学に求められる資質は時代の流れとともに多少は変わってきます。とはいえ、大学の研究力を維持・強化は基本です。そのためには、大学としての特徴を生かしながら、質の高い研究発表の論文数を伸ばし、若手に活躍の場を提供し、明日を担う国際的な人材の育成にも力を入れていかなければなりません。さらに、急速なITの発展にともなう研究環境の変化にも柔軟に対応する姿勢が求められます。

今や、日本の大学は、大胆な改革あるいは方針転換していくことを余儀なくされているのかもしれません。

*13校:立教大学、法政大学、獨協大学、名古屋外国語大学、福岡大学、順天度大学、愛知大学、創価大学、同志社女子大学、昭和大学、昭和女子大学、国際医療福祉大学、日本女子大学


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