中国の論文数が米国を抜いて世界一に

科学研究における中国の躍進にはめざましいものがあります。2018年1月18日、米国立科学審議会(National Science Board, NSB)が、2016年に発表された科学・工学分野の論文数で中国が初めて米国を抜き、世界首位となったと発表しました。

■ 年間で42万本超え

「中国が世界一の研究論文発信国に――」。これは、米国国立科学財団(US National Science Foundation, NSF)がまとめた統計を、NSBがScience and Engineering Indicators 2018として発表したものです。30年前、中国の科学研究論文数は世界第3位でしたが、今やEU諸国や米国を抜き、1位にまで躍進したのです。中国政府が科学分野の発展を重視していることが背景にあります。政府はそのための政策をいくつか打ち出しており、中でも研究者に対して出版報酬が支払われるようになったことが大きかったようです。論文を執筆しジャーナルに掲載されることで、研究者は報酬を得ることができるのです。これは、EU諸国でも米国でも行われたことのないアプローチで、これにより中国における科学論文の出版数は30倍に急増し、さらなる増加が見込まれている状態です。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ほとんどの分野における研究および論文の出版は、イタリア、英国、ドイツなどに牽引されていました。20世紀に入ってからは米国が主導権を握り、その後90年以上にわたりトップの地位を維持してきました。中国が頭角を現し始めたのは1990年代半ば。そこから急成長し、2016年に発表された論文数は、米国が409,000本なのに対し、中国は426,000本を超え、スコーパス(Scopus:大手出版社エルゼビアによる論文データベース)に収録された論文総数の18.6%に及びました。

■ 出版数が激増した理由

研究者が論文を発表する時に原稿料が支払われることは稀です。論文の発表は研究の一部と考えられており、学会や出版社から原稿料が支払われることも滅多にありません。研究者にとっての対価とは出版すること自体であり、研究成果とともに自分の名前が論文に記述されること。これが学術出版界の通例であり、論文を発表することに対する実質的な報酬は期待できません。

中国政府は、この点に目をつけました。論文を発表したことに対して報酬を支払うことで、国内における出版の促進を目指したのです。これにより過去20年間、最低でも15%以上の出版増を毎年実現し、ついに2016年、科学論文出版数で米国を追い抜くこととなったのです。

中国政府によって支払われる報酬の多くは、国内の学術ジャーナルへの論文掲載が対象ですが、国外の学術ジャーナルへの論文掲載数も着実に増えてきました。過去20年間の論文掲載数が増えているのに、中国内の学術ジャーナルへの論文掲載数が全体の40%から20%へと減ってきていることから、この傾向は明らかです。

■ はびこる出版不正問題

近年、中国学術界では、論文出版数が増えると同時に出版不正が増加していることが問題になっています。出版仲介業者が暗躍し、研究者に論文の出版を保障するのと引き換えに金銭を要求したり、査読プロセスにおける不正を行ったりしていると見られています。中国政府は出版物の質を維持するため、2015年以降、主に北京の中国科学技術協会(China Association for Science and Technology, CAST)から報告される不正行為や倫理違反を積極的に調査しています。調査開始からわずか数ヶ月で、著名な学術ジャーナルに掲載された論文のうち少なくとも20本の査読プロセスにおいて、不正が行われていたことが発覚しました。過去5年間、かなり多くのジャーナルで不正件数が増加していることもわかっています。

昨年3月に中国の科学技術省が行った調査によると、国外の医学ジャーナルで100本以上の論文が撤回されました。これらはすべて、査読における不正が認められたものです。政府は、このような研究不正に対し「ゼロ・トレランス」政策、すなわち、小さな悪事であろうと違反者を容赦なく厳しく罰することを発表しました。また、不正に関与した研究者にも厳しい罰則を課すとしています。実際、2017にシュプリンガー社が出版する「Tumor Biology(がんや腫瘍分野の学術ジャーナル)」で中国人研究者による論文107本が撤回され、国内外で大きく報道されました。

■ それでも未来は明るい?

研究不正対策は急務ですが、中国による科学研究の推進に陰りは見えません。2015年に中国が投じた研究開発費は、約4000億ドルでした。1位の米国(約5000億ドル)が経済低迷により研究開発予算が横ばい状態であるのに対し、中国の研究開発予算は年々増え続けており、この順位も近いうちに変わるかもしれません。政府主導の政策と潤沢な研究費が、中国を世界の科学界をリードする地位にまで押し上げています。中国人研究者が、このチャンスを逃すはずはなく、国内外での論文発表数は驚異的に増えています。

今後、研究不正への対策を進めることで、その存在感をさらに高めることが予測されます。これに対し、米国や日本は国として、どう動くのか。学術研究に関する国家間の動きから、目が離せません。

 

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