ジャーナル選択を支援する新たなツール誕生!

近年の出版界における紙から電子媒体への急速な移行は、学術ジャーナルの世界にも、かつてない変化をもたらしています。多くの大学関係者、特に若手研究者は、オンライン化で急拡大したジャーナルの選択肢に圧倒されがちです。「自分の論文をよく読んでもらうにはどのジャーナルに掲載すればいいのか」――。これは研究者にとって死活問題であり、オンライン化の進行が、問題の深刻さに拍車をかけています。
■ 捕食出版社の跳梁跋扈
研究者を悩ませるのはオンライン化だけではありません。最近では、とんでもない「インチキ出版社」の登場が、学術界で問題視されています。研究者は苦労して仕上げた論文を、できる限り近い専門分野の、かつ研究成果や努力の重要さを理解してくれる学術ジャーナルに掲載したいものです。掲載誌を選択するにあたって重要なのは、投稿すべきジャーナルの質です。しかし、価値ある新しいジャーナルが刊行される一方で、「捕食ジャーナル」と呼ばれる悪質なジャーナルが出現してきているのです。
利益のみを追求し、倫理違反など気にも留めない出版社とそれらが刊行するジャーナルは「捕食出版社」、「捕食ジャーナル」と称されます。捕食出版社は「タイムリーな刊行」などを誘い文句に大量のメールを送りつけ、論文投稿のプレッシャーに追われる無防備な研究者を釣り上げては、捕食ジャーナルへの論文掲載料を巻き上げるのです。この過程に、まともな査読プロセスや編集体制などは存在しません。
ある調査によると、捕食出版社による論文掲載は、抽出した613誌だけでも、2010年から2014年までの期間に6万本から42万本と7倍にも増加しました。「悪貨は良貨を駆逐する」とは、16世紀に英国のトーマス・グレシャムが指摘した経済学の法則です。「名目上の価値が等しく、事実上の価値が異なる貨幣が同時に流通すると、良貨はしまいこまれて市場から姿を消し、悪化だけが流通する」(出典:故事ことわざ辞典)ことから、悪がはびこると善が廃れるとの意味もあるそうです。捕食ジャーナルの出現と勢力拡大を放置しておいては、まともな論文の価値が損なわれ、適切な評価がされなくなってしまいます。学術研究の停滞にまで発展しかねない問題です。
■ 捕食ジャーナルに対抗する新たな動き
とはいえ、すべてのジャーナルをチェックし、その中に潜む捕食ジャーナルを見つけ出すのは困難と言わざるを得ません。ある算定によると、2014年には8000誌もの捕食ジャーナルが展開されていたと推測されており、研究者は自衛手段を講じる必要に迫られています。
このような状況下で生まれたのが、“Think.Check.Submit.”というツールです。主要出版社と業界団体によって2015年に立ち上げられたこのサイトは、研究者たちに論文掲載先に関する具体的な情報を提供して、ガイド役を務めることをめざしています。特に注力しているのが、研究者に簡便なツールを提供してジャーナル選択のプロセスの簡素化を図り、論文に適し、かつ十分に信頼できるジャーナルを選べるようにすることです。
Think.Check.Submitが提供するツールは無料な上、使いやすく設計されています。第1段階では、研究者に投稿先のジャーナルが信頼できるものであるか、自分の研究分野に即したものであるかを「Think(考え)」させます。第2段階では、研究者が確認すべき実質的な「Check(チェック)」リストに誘導します。ここでの設問は「あなた、あるいはあなたの同僚は、このジャーナルを知っていましたか?」あるいは「このジャーナルの編集委員会は正当だと思いますか?」など。有益な判断材料となる個々の設問に回答しながら考えることで、論文掲載候補から捕食ジャーナルを振るい落としていきます。チェックリストの各項目の確認が済んだ段階で、論文の「Submit(提出)」に進める仕組みになっています。
重要なのは、Think.Check.Submitは決して、特定のジャーナルや執筆者を推薦するものではないということです。このサイトは、研究者が成果のさらなる発展とキャリア形成に役立つ論文の掲載先を、自ら選別できるようになることをめざしているのです。
■ 適切なジャーナル選択がもたらすもの
Think.Check.Submitはジャーナル出版コンサルタント会社のTBI Communicationsによって運営されています。研究者は同社が集める膨大な情報を一か所で入手できることで、直接的な恩恵を受けられます。また、このツールがネット上で利用可能なことにより、英語を母語としていない若手研究者や、定評ある研究資料へのフルアクセスができない環境にいる研究者にも、大きな便益をもたらしているのです。しかし、その反面、このような研究者こそ捕食ジャーナルの格好の餌食となりがちなのも事実です。
時と共に学術界全体の意識が向上しており、捕食ジャーナルに対抗する取り組みへの関心が高まっています。こうした取り組みが浸透すれば、出版社やジャーナルを扱う図書館側も恩恵を得ることができるでしょう。捕食ジャーナルへの対抗という意味だけでなく、正当な出版社と研究者をつなぐ役割を果たすことも期待できます。
つまり研究者の意識が高まり、投稿先ジャーナルの選択において注意深くなることは、捕食ジャーナルを排除し、より真っ当なジャーナルおよび出版社を存続させることになり、結果として社会および長期的な政策決定における利益となるのです。
■ 現状と将来の見通し 
Think.Check.Submitの取り組みはオンライン上で認知度を高めつつあり、出版組織連合(ALPSPDOAJISSNSPARCなど)の賛同を得ていることも鑑みれば、長期的な成功が見通せる状況にあります。執筆者が論文の出版を競い合う中、その学識を確保しようとする学術ジャーナルの数は毎率3.5%で増加しており、特にオープンアクセス環境が拡大する中、良質な学識(=論文)を確保するのは、至難の業となっています。Think.Check.Submit の取り組みを補足するようなルールとともに、、研究者がDirectory of Open Access Scholarly Resources (ROAD)(オープンアクセスの学術情報データを公開するサービス)*1やQuality Open Access Market (QOAM)(ジャーナルの価格と品質に関する情報を提供するサービス)を通じてジャーナルのデータを自由にチェックできるような仕組みが必要です。
研究者は、捕食出版社・捕食ジャーナルによる不正・詐欺行為と戦うべき明白な責任があります。Think.Check.Submitは、学術出版における不正に対抗するために必要な手段を提供するもので、研究者側の意識向上は必須です。ITのグローバル化が進行する世界で、学術界における不正がさらに蔓延するのを防ぐためには、研究者個人の意識と、不正を許さないという社会規範に基づく対抗策が必要なのではないでしょうか。
注釈:
*1 ROADについて
ROAD(Directory of Open Access scholarly Resources)はISSN国際センターがユネスコの支援を受けて提供するサービスです。(国立国会図書館ウェブより抜粋
Enago academy掲載の英文はこちら:Think Check Submit: A New Approach to Journal Selection


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References
Carl Straumsheim (2015, October 1) ‘Predatory’ Publishing Up
Ruth Francis (2015, October 1) Think. Check. Submit. A helpful checklist for researchers
Kelly Neubeiser (2016, January 29) Think. Check. Submit your way to the right journal

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