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捕食出版社、生涯教育にも進出

本連載では、掲載料さえ払えばどんなにひどい原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」や、登録料さえ払えば誰でも「講演者」として発表させてしまう「フェイク・カンファレンス(fake conference)」について書いたことがあります。とりわけカナダの『オタワサン』や『オタワシチズン』に寄稿する記者トム・スピアーズによる調査活動を紹介してきました。

スピアーズは、捕食ジャーナルの出版社として知られるインドのA社が倫理学分野のジャーナル(学術雑誌)を発行していることを知り、昨年秋、アリストテレスの文章を盗用したうえで、それに手を加えてつくったデタラメな原稿を投稿しました。その原稿はあっけなく論文として採択されてしまい、ジャーナルに掲載されることになりました−−掲載料さえ払えば。スピアーズはその経緯を暴露しました。

『オタワシチズン』(2017年6月1日付)にスピアーズが寄稿した記事によれば、その暴露によって、A社はその原稿の採択(受理)を撤回することを余儀なくされたといいます。スピアーズは、A社の弁護士からは「謝罪文を公表することを要求する」と警告され、そのジャーナルの編集委員からは「あなたの論文は執筆の基準に満たしてさえいないと我々は結論づけている」と忠告されたといいます。スピアーズの原稿は、査読を通ったはずなのですが…。

ある日、スピアーズは同僚から「同じ論文を繰り返し採択すると思う?」と尋ねられました。そこで彼は、同じ研究をA社が開催する免疫学の国際カンファレンスで発表するために投稿することにしました。ただし題名は医学っぽく変更しました。「免疫学における新しい倫理的な問題:感染症研究のボランタリティとケタランスの程度」と。「ボランタリティ(Voluntarity)」や「ケタランス(Ketterance)」という言葉は、スピアーズらがでっち上げたもののようです。確かに、辞書を引いても出てきません。

そして結果は……またもや採択だったようです。1499米ドルを払えば、テキサスで開催される国際カンファレンスで、ポスター発表できることになりました。本連載でもお伝えしたように、A社はスピアーズがでっち上げた「空飛ぶブタ」などについての研究を、国際カンファレンスでの講演として採択したこともあります。

スピアーズらは同じデタラメな研究内容を、老人病学の国際会議にも投稿していました。2日後の同じ『オタワシチズン』によると、やはりこれも採択されたそうです。しかもそのカンファレンスは、老人病学や看護学分野における生涯教育(continuing education)に関するものでした。

捕食ジャーナルを出版したり、フェイク・カンファレンスを開催したりする「捕食出版社(predatory publishers)」はこれまで、業績を求める若手研究者を主なターゲットにしてきたはずですが、「生涯教育」にも手を付け始めたということは、そのターゲットが拡大していることを意味する、とスピアーズは『オタワシチズン』で指摘します。

スピアーズはA社に説明を求めるメールを送ったのですが、これまでのところ返事はないようです。

A社はインドのハイデラバードに拠点を置き、700誌ものオンライン・ジャーナルを発行する企業です。最近、カナダの正当な学術出版社B社とC社を買収しました。同社のビジネスモデルをB社やC社も採用するのかが気になります。またA社は世界各地で年間1000件もの「国際カンファレンス」を開催しています。もちろん、日本でも。今年は主に大阪で、37もの国際カンファレンス(2017年6月時点)がA社によって開催される予定となっています。

見知らぬ外国企業から「発表募集(Call for papers)」というメールが来たときには、そのジャーナルや国際会議で自分の研究を発表することが、ほんとうに、科学コミュニティや社会への貢献につながるかどうかを熟考したいものです。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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