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動画を使って研究を広めよう

研究者が自分のアイデアを広めるためには広報(PR)が重要です。それには、いろいろな方法があります。学術関係者によく読まれている学術誌に研究論文を発表すれば、成果に関する議論を通じて研究者の考えが広まり、新しい研究にもつながるでしょう。別な方法として、ブログも使えます。これは自分の研究や関連するテーマに関心を持つ人々が意見を交わす場となりえるので、自分の研究を知ってもらう効果があります。また大学に属する研究者であれば、授業、セミナー、発表会、その他の諸活動を通じて、自分の研究を人に伝えることができます。

しかし、これらの従来の方法とは異なる方法を利用する研究者がめだって増えています。それはインターネット上に動画を公開して研究を広めることです。

動画の強み

他の人たちに自分の研究成果に触れてもらうのがとても難しいことを、研究者はよく知っています。ノース・カロライナ自然史博物館の昆虫学者であるAdrian A. Smithは「自分の論文の読者の多くは、専門用語と記述スタイルに馴染めずにいる」として、研究成果を専門家以外にも広めて研究の意義を社会に知ってもらうために「研究成果をYouTubeで紹介しよう」と提唱しています。

2015年にSmith氏は同僚研究者と共同で、蟻が分泌する化学物質の個体間の情報伝達機能と性行動様式に関する研究の論文をまとめました。その要点を一般の人にも分かりやすく伝えるため、一般的な読者の代表として、研究論文など読んだこともなければ専門用語もまったく分からない自分の母親に研究内容を説明する動画を作成しました。そして、この動画を論文の記者発表に合わせて個人のYouTubeに公開し、プレスリリースにURLを書き込んでおきました。すると、ワシントン・ポストをはじめとした数紙の一般紙で研究が紹介され、さらには各紙のオンライン版やナショナル・ジオグラフィック・ニュースなどでもオンライン動画として公開された結果で、より多くの人に視聴される結果となりました。

動画の主な強みをまとめると次の通りです

■広範な人たちに知ってもらえる

SNSなどインターネット上で動画を公開することで、世界中の人々が直接アクセスすることができます。研究者同士の意見交換や研究協力にもつながることもあるでしょう。

■親しみを感じてもらえる

動画は、教室で先生が学生に語りかけるのと同じように、研究者が視聴者に直接語りかけているように説明することができます。そのため、論文を読むより親しみを感じてもらえます。また、文章(論文)では伝えにくい自分の考えも、動画ではあますことなく伝えられるでしょう。

■発表した論文の広報(PR)になる

視聴者は、研究成果の要点を紹介する動画を見ることで、短時間であまり専門用語に煩わされることなく研究を知ることができます。逆に研究者にとっては、自分の研究を広範な人に知ってもらう有効な方法です。

効果的な動画を制作するヒント

研究成果の概要紹介の動画を作る手順は、例えば次の通りです。

  1. 動画制作の機材を準備する。
  2. 動画の形式を決める。講義形式か、もっと双方向性の強い対話形式にするかなど。
  3. 脚本を書く。まずは、動画の長さを考えたうえで、構成を考える。
  4. 撮影、編集した動画を公開する。
  5. 研究者の役に立つソフトウェアやアプリケーションなどのオンラインツール(e-Tool)を活用する。動画作成ツールやプレゼン資料などに作成した動画を入れ込むためのツールなど、さまざまなお役立ちツールがあるので、活用してみるとよいでしょう。また、Kudosのように研究者が研究を広めるために役立つオンラインサービスを提供しているサイトもあるので参照してみてください。
  6. 動画を広める(PR)
    公開した動画をより多くの人に見てもらうために、Facebook、TwitterなどのSNSを戦略的に活用する。これらのSNSは研究者同士のネットワークを強化するためにも有用です。

なお、動画に第三者の権利が関わる要素(映像、画像、音楽、肖像権など)を使う場合、正式な許可を取得しておくことが大切です。また、特定の商品や企業等の行き過ぎた推奨や宣伝になることは控えるべきです。

世間の認知を獲得した昆虫学者

動画から少し離れますが、前述のSmith氏と同じ昆虫学者で、学術論文筆とは異なる方法で、研究内容を広く知らしめることに成功した日本人研究者がいます。この研究者は、日本では知られていない種類のバッタの相変異という極めてニッチなテーマを専門としていて、世間ではまったく知られていなかったと言ってよいでしょう。京都大学の白眉センターの特定助教や海外の研究所の特別研究員などを経て、現在は国際農林水産業研究センターの研究員となっている、前野浩太郎氏です。前野氏は、一般向けに執筆した書籍が売れたことで一躍有名人となりました。まず2012年出版の『孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生―』で一般読者の高評価を得て出版界で注目され、2017年出版の『バッタを倒しにアフリカへ』はベストセラーとなり新書大賞2018を獲得したのです。これらの出版物により、氏のユニークな人物像とともに研究テーマとその意義が世間の理解を得ることになりました。

動画も書籍も、普段学術論文を読むことのない人たちに研究の内容や重要性をわかりやすく、かつ独自の表現で紹介することのできる手法です。学術関係者以外にも広く研究を知ってもらうことは重要であり、そのために活用できるものは積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。まずは、自分ひとりでも実現できる動画作成から始めてみませんか?


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