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コロナ禍で変わる論文検索方法や研究資金規模

新型コロナ感染症(COVID-19)感染拡大は、甚大な経済的影響を及ぼしていますが、その影響は経済にとどまりません。研究者も移動を含めたさまざまな研究活動に制限がかかっている上に、医薬研究関連の情報過多と誤情報の拡散という問題に直面することとなりました。世界中がCOVID-19という共通の話題に関心を寄せる中、関連する情報は、例え誤ったものであっても、従来のメディアやソーシャルメディアにより瞬く間に拡散されます。特に、ソーシャルメディアは拡散する情報の量とともに速度と範囲を大きく変えました。この情報過多の問題も含め、パンデミックによる研究者への影響をみてみます。

パンデミックが研究論文の読み方・検索の仕方に再考を促す

COVID-19治療薬あるいはワクチンの開発に向け、関連する研究が急ピッチで進められています。従来であれば厳しい査読とアクセス制限を課す学術出版社も、COVID-19に関連する論文については査読の迅速化やオープンアクセスでの情報公開を進めるなどして情報の共有化を図っています。同時に、査読なしで公開するプレプリントへの投稿も増大。この結果、論文の洪水が引き起こされました。既に、6000本を超える論文が、査読なしのプレプリントに投稿されていますが、品質の確認は困難な状況です。そこで、研究者らは論文の読み方、論文の検索の仕方に工夫を凝らす必要に迫られることとなりました。

信頼できる論文を拾い出す方法のひとつは、筆者の一覧から見慣れた名前、信頼できる機関を検索して論文を探すというものです。ただし、検索結果を過度に信頼しすぎることのないように注意が必要です。斬新なアイデアよりも従来の考え方に基づくアイデアを好む傾向が、COVID-19に関連する論文の検索や評価におけるバイアスとなる可能性があるからです。COVID-19の重要な論文は、米国以外、アジアやヨーロッパ諸国から発信されていることも多く、例えばコロナウイルスの特性や広がり方についての重要な論文には、あまり知られていない中国の研究者から発信されたものもありました。また、パンデミックに関する需要な洞察は、国際的には知られていないスペインとイタリアの研究者から発せられていたとの事例もあります。

中国の大学による研究不正が複数公表されたことなどを鑑みると、認知度の低い研究者・研究機関から発信される情報の信頼性に不安があるのは否めません。しかし、研究不正は中国に限ったものではないので、研究者は発表されている論文を多面的に判断し、慎重に読む必要があります。

Academic librarians on open accessに投稿された記事によれば、プランS(Plan S)やAmeliCAといったオープンアクセスモデルの台頭に加え、コロナウイルス関連の論文のオープンアクセス化推進によって、オープンなデータの価値が一層高まると同時にアクセス可能な論文数が増加しました。それらの膨大な論文の中からどうやって自分が読みたい論文を見つけ出すか?そのためにはアブストラクト(要旨)を活用するのも有効です。アブストラクトとは論文の要約なので、該当論文の内容を判断するのに役立ちます。Web of SciencePubMedなどの学術論文データベースでは、アブストラクトの検索が可能ですし、全文へのアクセスを限定している学術出版社でも、アブストラクトには無料でアクセスできることが多いので、論文の概要を知ることができます。PubMedにはタイトルとアブストラクトから論文の比較を行う機能があり、類似の論文を見つけることができます。

また、bioRxivに投稿された分析「A scientometric overview of CORD-19」によれば、COVID-19およびコロナウイルスの研究だけでなく、ウイルス全般に関する研究出版物のデータセットであるCORD-19では、より効果的な検索が可能になったことが示されています。

検索機能を駆使して大量に発表される論文の中から読みたい論文を検索し、興味深い論文を厳選した上で読むのが効率的でしょう。

情報を見分ける

読みたい論文が見つけられたところで安心はできません。大量のCOVID-19に関する情報には誤情報や、信頼性の低い情報が含まれている可能性が否定できないからです。既に、十分に検証されていない情報が出回ったことで、有効性や安全性が確認されていない薬の使用が問題となった事例も出ています。米国ワシントン大学の研究者が立ち上げたCenter for an Informed Public(CIP)は、コロナ禍における誤情報や情報漏洩に関する研究を行うとともに、誤情報がどのように伝達されるかを学習するウェビナーなどを開催しているので、情報の正誤を見分けるための対策として参考にしてみてください。

影響は研究資金にも

COVID-19は研究活動そのものにも大きく影を落としています。パンデミックの影響で研究活動が停滞している点は、研究資金提供者も懸念しています。研究の期限を延長するだけでなく、COVID-19のために遅れたプロジェクトに余分な財政支援を提供している団体・機関もありますが、COVID-19による経済的損失が拡大し、景気回復の見通しが立たなければ、感染症対策以外の医学研究やあらゆる分野の学術研究の資金確保に長期的な影響を及ぼす可能性は高まります。政府資金や交付金による助成金の額が削減されるかもしれませんが、慈善団体による研究資金提供には既に影響が出始めているようです。医学的研究慈善協会(AMRC)は、150以上の医療慈善団体で研究プロジェクトへの資金提供を削減する事態に陥っていると述べています。英国の例をあげると、がん研究基金(Cancer Research UK)は今年4月に研究ポートフォリオ全体で約4400万ポンドの資金削減を決定。英国の心臓および循環器疾患に関する非商業的研究の半分以上に資金を提供している英国心臓財団(BHF)も60年の歴史の中で最大の危機を迎えているとし、年間研究予算を約5000万ポンドに半減するとの予測を発表しています。また、2019年の英国における非商業的研究に19億ポンドを支援した医学的研究慈善協会(AMRC)は、今後1年間の支出で3億1000万ポンドの不足を予想し、資金調達が以前のレベルに戻るには数年を要するとしています。これらの研究資金削減は、医師や患者によとって良くないものですが、資金不足によって次世代研究者の育成に影響が出ることも懸念されます。

COVID-19により研究が中断してしまえば、その分野の研究の発展が遅れるだけでなく、深刻な影響を長期的に及ぼす可能性があります。COVID-19の影響により研究が中断あるいは計画の変更を余儀なくされた場合は、研究資金提供者に研究期間の延長を申し入れてみてください。また、研究機関によっては、給与などの研究の側縁を支援するために研究資金を利用できるようにしている機関・団体もあります。

また、全く別の視点としては、コロナウイルスに関連する研究に関わっている、あるいは関連する研究提案が出せるのであれば、研究者個人や研究機関が直接資金調達を求めることができるサイトもありますので、このような情報を集めてみてください。

COVID-19の世界的な感染拡大は、人々の現在の働き方、将来の働き方を大きく変えました。現状下でどのように研究を行えばよいか、どうすれば効率的に進められるか、将来の研究資金をどう確保するか――悩みは尽きませんが、研究を続けるために必要な環境と資金を確保する方法はあるはずです。


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