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論文で「研究の限界」を書くことの重要性と書き方

研究者が論文を執筆する際、「研究の限界」を示すことは珍しくないでしょう。「限界」と聞くと一見ネガティブに聞こえますが、研究における「限界」は、その研究を適切に組み立てるのに役立つこともあり、「研究の限界」の重要性を正しく理解しておくことが必要です。

この記事では、研究の限界を客観的に提示することで、影響力のある研究結果へと導く方法について解説します。

研究の限界とは

どのような研究にも限界があります。研究の限界は、方法あるいは研究デザインの条件によって生じ、研究に影響を与える可能性があるものです。研究の限界は、研究にとどまらず、出版しようとしている研究論文にも影響することもあるのですが、残念なことに、多くの研究者は、読者目線の論文の評価に影響を及ぼすことを恐れるあまり、研究の限界について議論することを避ける傾向にあります。

しかし、研究の限界について論じ、対象読者(他の研究者やジャーナル誌の編集者、査読者など)に示すことは非常に重要です。と同時に、研究の限界が結論や所見にどのように影響しているかを説明することも、とても大切です。論文著者として研究の限界に言及する際には、研究についてのあらゆる弱点について調査し、研究主題について深く理解していることを示すことが必要です。研究について実直に示すことによって、その研究が誠実な努力を重ねた説得力のある結果であると示すことができます。

研究の限界をなぜ書くのか、どこに書くのか

そもそもの研究の主たる目標は、研究目的に応えることです。実験を行い、結果が出たらそれについて説明し、最終的に研究課題(リサーチクエスチョン)の正当性を説きます。論文も同様の流れで、研究の限界について言及するのに最適なのは、結果の後の考察(ディスカッション)のセクションです。

考察では、冒頭で研究方法の長所を強調したあと直ぐに、研究の限界について述べます。研究論文の結論(コンクルージョン)のセクションでは、自分の研究の限界にふれてから後続研究に向けた「提案」という形で、下記のような具体的なポイントを述べることもできます。

1. 研究者の制限

研究者に起因する制限については必ず言及します。制限についてきちんと書くことで、読者に対して透明性を示すことができます。また、今後の研究において研究者に起因する制限を減らすための策を提案することも可能です。

2. 情報へのアクセスの制限

研究には、複数の研究機関や個人が関わっていることがあり、そうした機関の所持する情報へアクセスが許可されないこともあるでしょう。このような場合、研究の進め方を再設計、または研究を再構築する必要が出てきます。アクセスが制限されている理由を読者に説明しましょう。

3. 時間の制限

ほとんどの研究者は、研究を完了させるのに締め切りを設定し、それに向けた作業を進めていきますが、時間の制約が研究に悪影響を及ぼすこともあります。最善の措置は、時間が限られていることを前提として、該当研究の問題をよりよい方法で解決するための将来の縦断研究の必要性について言及しておくことです。

4. 偏見(バイアス)

偏った見方は研究に影響を与えかねません。実際、研究者は、自身の論点を支持する結果とデータのみを選び、他の結果を示唆するデータから目を逸らしがちです。研究の正当性も疑われかねないこうした問題を避けるためには、結果の記述方法とともに、バイアスの影響を受けない適切な情報・データの収集方法を検討し、実行したことを述べるとよいでしょう。

研究の限界の種類

研究を始めるにあたって、研究内容、あるいは想定される結果には一定の限界があることに留意しておきましょう。研究者が遭遇する限界には、以下のようなさまざまな種類のものがあります。

1. 研究デザインの制限

研究環境や採用する手順などを含む研究デザインに基づく制限は、最終的な結果または研究成果に影響を及ぼす可能性があります。研究の目標や目的の設定の荒さなども考えられますが、それを絞り込めば、おのずと研究の焦点を狭めることができるでしょう。

2. 研究のインパクトの制限

優れた統計を行い、説得力のある研究デザインに基づく研究を行なったとしても、研究のインパクトを弱くしてしまう制限もあります。
・調査を進めるにつれて新たな発見が増える
・人口に固有した調査
・特定の地域に特化した調査

3. データまたは統計の制限

状況によって、調査研究に十分なデータが収集できなかったり、データへのアクセスが非常に難しかったりすると、調査が不完全になる恐れがあります。研究デザインが原因でデータの不足が起こることも考えられます。また、研究の概要(アウトライン)が不明瞭でお粗末だと、調査結果を解釈するのが一層困難になります。

研究の限界を正しく説明するには

研究課題(リサーチクエスチョン)を絞り込むための厳格なガイドラインが存在するので、それをもとに学術論文の潜在的な弱点を示し、その正当性を説明することができるでしょう。以下に挙げる基本的な手順を踏むことで、研究の限界を明確に説明できます。

1) 研究の限界を特定し、その重要性を説明する旨を明記する。
2) 必要な詳細や特性に関する情報を提供し、選択した研究内容の妥当性を示す。
3) 今後、そうした限界をどのように克服できるかの示唆を記す。

こうしたことを示すことによって読者は、著者が研究における潜在的な弱点を認識した上で効果的な解決策を提示していると理解できるのです。また、研究におけるあらゆる限界を対象読者にはっきりと示すことによって、論文の質を明確に向上させることにもつながります。

大切なのは、完全無欠な研究など存在しないし、完璧で欠点のない人などいないと心に留めておくことです。研究の限界を、新しい挑戦の機会と捉え、調査研究の将来の改善につなげる絶好の機会と考えることができます。その時点での研究の限界を読者に伝えておくことが、将来の研究の方向性を提供することにもつながります。

一般的な学術論文における研究の限界は、以下の項目に関連しているので、注意してみてください。

1) 研究の目標と目的の設定

研究の目標や目的の設定が荒いと、研究に不備が生じることがあります。この場合、目標の達成方法を絞り込むための効果的な手法や手段を特定し、調査の集中度合いを高めるようにしましょう。

2) 研究データの収集方法

一次データの収集経験がない場合には、調査の実施方法に間違いや不足が生じる可能性も否定できません。問題があった場合にはこれを率直に認めましょう。データ収集の経験を積み、自らのスキルを磨いて行きましょう。

3) 標本(サンプル)サイズ

選択する研究の性質に依存しますが、多くの場合、研究で有効な結果を得るためには、十分なサンプルを用いる必要があります。サンプルが小さすぎる場合、統計的検定で、得られたデータセット内の関連性やつながりを特定するのが難しくなってしまうので、サンプルサイズは重要です。適正なサンプルサイズは、定性的研究ではさほど重要ではないのに対し、定量的研究ではより重要とされます。

自分の研究結果を踏まえ、さらに正確な結果を導き出すためには、他の研究者が、より大きなサンプルサイズを用いて同じ研究を行う必要があることを提案するのもよいでしょう。

4) 選択した分野における先行研究の欠如

文献レビューを書くことは、研究者が選択した分野における現在の研究の範囲を究明するのに役立つことから、科学研究にとって重要な作業です。文献レビューは、特定の目標あるいは目的を達成するために、学術情報を必要とする研究者にとって情報の根拠となるものです。

ただし、最新かつ進展中の研究問題や、非常に狭い範囲の研究問題に焦点を当てている場合には、そうしたテーマに関する先行研究がほとんど見つからない可能性もあります。例えば、将来の通貨としてのビットコインの役割を探求しようとした場合、ビットコインがまだ新しい事象であることから、研究の問題を取り上げる研究論文を多数見つけることは難しいかもしれません。

考察の書き方

研究の各段階で参考にできる研究の限界の先例から学ぶことは重要です。まだ研究経験の浅い研究者である場合は、研究分野に関わらず、自分の研究で不足していること(欠点)について書くようにしてください。論文執筆の経験や、複雑な研究を完遂させた経験が少ないことから、経験や専門知識が豊富な研究者と比べると、論文における考察の深さと範囲はさまざまな点で妥協せざるを得ません。考察のセクションでいくつかの具体的な研究の限界についてふれ、今後の研究への示唆を記しましょう。

研究の限界とは、研究の欠点を明確にしつつ、その研究の妥当性と発展性を示す役割があり、研究自体の信頼性を高めることができる重要な情報です。研究の限界を包み隠さず正しく記述し、よりインパクトの強い論文を目指しましょう。


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