ICMJE Recommendationsアップデート2025年版ー倫理的研究出版は新たな局面に

研究インテグリティ(研究における健全性・公正性)とは、研究者が守るべき倫理・規範の基本的な概念です。医学・科学の研究実施、報告、出版にとって国際的な倫理基準に従うことは、研究結果の信頼性を確保するために極めて重要です。

医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE: International Committee of Medical Journal Editors)は、1978年に「生物医学雑誌への統一投稿規定(Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals)」を公表して以来、生物医学分野で重要な役割を果たしてきました。ICMJEのICMJE Recommendations(医学雑誌における学術研究の実施、報告、編集、および出版のための勧告)は、生物医学分野を対象としたものですが、生物医学以外も含めた多くの学術雑誌(ジャーナル)で採用されている学術出版の国際基準のひとつであり、出版業界の状況や必要性に応じて継続的に改訂されています。

2025年1月に発表されたICMJE Recommendationsのアップデートは、これまでと同じく(社会的)包括性、人工知能(AI)の責任ある利用、透明性に焦点を当てつつ、ハゲタカジャーナルや疑似ジャーナルへの対策についても含めたものとなっています。学術出版が変化する中、研究者、査読者、編集者、出版社、ジャーナル発行者、研究機関などは、学術研究の信頼性を維持し、新たな倫理的課題に適応するために、ガイドラインのアップデートや改訂には常に注意しておくことが重要です。

2025年1月のICMJE Recommendationsアップデート ハイライト

今回アップデートされたのは以下のセクションです。

  • Predatory or Pseudo-Journals (ハゲタカジャーナルまたは疑似ジャーナル)(Section II.C.1.a)
  • Timeliness and Responsiveness and Diversity and Inclusion in the journal peer review process (ジャーナルの査読プロセスにおける適時性と対応性、多様性と包括性)(Sections II.C.2.b and II.C.2.e)
  • Corrections and Version Control and Scientific Misconduct (訂正とバージョンの管理、科学における不正行為)(Sections III.A and III.B)
  • Authors’ responsibility in the accuracy of cited References(正確な参考文献引用における著者責任) (Section IV.A.3.g.i)

ハゲタカジャーナルまたは疑似ジャーナルで出版することへの注意喚起(II.C.1.a項)

ICMJEは、ハゲタカジャーナルや疑似ジャーナル(pseudo-journals)を特定するためにさまざまなリソースを提供し、著者が論文を投稿するジャーナルを選択する際、慎重に選択するように注意を促しています。

ハゲタカジャーナルや疑似ジャーナルでは適切な査読が行われないことから、学術研究の質や信頼性が保証されないため、学術界にとって深刻な問題となっています。研究者がこうした問題への認識を高めることで投稿前にジャーナルの信頼性を注意深く評価するようになれば、研究成果が悪用されるのを防ぎ、評判が傷つくのを避けることができるでしょう。

注意事項

  • 透明性のある査読がない、あるいはインデックスが付いていないジャーナルには投稿しない
  • 誤解を与えるようなインパクトファクターの書き方には注意する
  • 研究機関や資金提供者が認めない可能性のあるジャーナルでは出版しない

ジャーナルの査読プロセスにおける適時性と対応性、多様性と包括性の推奨(II.C.2.b項)

ジャーナルの適時性と対応性に焦点が当てられ、ジャーナルは原稿の状況に関する著者の問い合わせに適時に対応すべきであると明記されました。ここには、著者が原稿の撤回を依頼した場合の、編集者の対応も書かれています。

査読プロセスにおける対応の遅れやコミュニケーション不足は、研究の進展を遅らせるだけでなく、研究の成果をタイムリーな患者ケアに反映させることにも影響を与えかねません。今回のアップデートは、ジャーナルに査読プロセス中のタイムリーな最新情報の提供を促し、プロセスの透明性と効率性を高めるものです。

注意事項

  • 査読プロセス中、著者に最新の状況を伝えるのを怠ってはならない
  • 投稿原稿の査読のフォローアップが期限内に行われず、決定が遅れることがないようにする

関係者の尊厳と平等を守り、出版倫理を守る(セクションII.C.2.e)

ジャーナルに対し、人物が含まれる画像の公開は慎重にするよう注意が促されています。また、ステレオタイプな考えを示さないように最新の注意を払うこと、その画像が論文を理解するために本当に必要なものかを検討するようにとも書かれています。

特に医学研究のような繊細な分野では、患者や治験参加者、取り残されたコミュニティの人々らを対象とすることがあるので、責任を持って人々の尊厳と権利を尊重する必要があります。ステレオタイプな見方をすること、偏見(バイアス)を持つこと、誤った表現をすることを避け、より包括的で尊敬に満ちたコミュニティを育むことが必要です。

注意事項

  • ステレオタイプを長く記憶に留めてしまう可能性を考慮し、画像の使用は慎重に判断する

訂正とバージョンの管理の推進(セクションIII.A)と科学における不正行為への対応(セクションIII.B)

今回のアップデートでは、議論すべきこと、科学や手法が変わり続けることは誤りではなく、それらの問題については状況に応じて編集者への書簡、紙または電子的な連絡、ジャーナルが提供するオンラインフォーラムへの投稿、または新たな出版物として扱うことで対処できると記しています。また、必要な場合には(投稿論文を)撤回するなど、研究不正行為に対処するための手続きについても概説しています。

訂正し、バージョン管理を行うことは、不必要な論文の撤回を防ぎ、関係者間の対話を促進し、連帯責任を示すことにつながります。

注意事項

  • 学術的な議論を、訂正あるいは撤回すべきものと誤認させないようにする
  • 訂正とバージョン管理に関する指針の更新が未確認だった場合、読者はもちろん著者にも混乱をもたらすことから、更新情報は適宜確認しておく
  • 出版プロセスの信頼性に影響するので、文章の訂正・更新の情報は透明性をもって示す

正確な参考文献引用のための著者の責任の強化(IV.A.3.g.i項)

今回のアップデートでは、唯一の利害関係者である著者が正確に参考文献の引用を示す責任があることを明示しています。さらに著者は、必要であれば、自らの主張を裏付けるために引用した文献の適切性を証明することが求められます。

AIの利用が増えていることも踏まえ、ICMJEはAIが生成したコンテンツの扱いに関しても指針を示しています。2024年のアップデートではAIの利用と開示に関する記述が追加され、データ収集、分析、図の作成にAIを使用した場合には、著者はその使用方法を記述することとなりました。AIが作成した資料を一次資料として引用することは認められていません。

不正確な情報を引用することは、医学と研究の根幹に影響を及ぼす誤った情報を広めることとなってしまいます。AIが生成した資料の引用を禁止することを含め、著者に参考文献の引用における正確性に対する責任を負わせることは、著者の研究の信頼性を強化することになります。

注意事項

  • 不正確な、あるいは信頼できるかどうか確認できていない参考文献は掲載しない

ICMJE Recommendationsアップデートの比較―2024年と2025年

2024年と2025年のICMJE Recommendationのアップデートの主な違い

カテゴリー 2024年改訂 2025年改訂
Authorship

著者基準

Emphasized why authorship matters

著者基準の重要性を強調 (II.A.1)

追加改訂なし
Artificial Intelligence

AI技術

Guidance on acknowledging AI- assisted research

研究にAI機能の利用を認めるためのガイダンス

(II.A.3, II.A.4, IV.A.3.d)

追加改訂なし
Environmental Impact

環境影響

Addressed carbon emissions in medical publishing

医学出版と炭素排出 (II.D.1)

追加改訂なし
Funding Acknowledgement

資金の開示

Expanded requirements for acknowledging funding sources

資金源の開示の拡大  (II.B.IV.3.b)

追加改訂なし
Research and Publication Ethics

研究および出版倫理

Strengthened protection of research participants

研究参加者の保護強化 (II.E)

Cautioned against using images that reinforce stereotypes

ステレオタイプ(固定観念)を強めるイメージの使用に関する注意 (II.C.2.E)

Reference Citations

文献引用

Clarified citation responsibilities for authors

著者の引用責任の明確化 (IV.A.3.g)

Reinforced authors’ responsibility in citation accuracy

引用の正確性における著者責任の強化(IV.A.3.g.i)

Predatory Journals

ハゲタカジャーナル

追加改訂なし Added guidance on identifying and avoiding predatory/pseudo-journals

ハゲタカジャーナル/疑似ジャーナルの識別と回避に関するガイダンスの追加 (II.C.1.a)

Peer Review Process

査読プロセス

Outlined use of AI in the peer review process

査読プロセスでAI技術を使用する場合の概要 (II.C.2.a, II.C.3)

Emphasized timeliness, responsiveness, and diversity in peer review

査読における適時性、対応性、多様性の重視 (II.C.2.b, II.C.2.e)

Corrections & Misconduct

訂正および不正行為

追加改訂なし Clarified policies on handling corrections and scientific misconduct

訂正と科学における不正行為への対応方針の明確化 (III.A, III.B)

 

今回のアップデートは、ハゲタカジャーナルやAI技術の使用など、学術研究における新たな課題に対応した指針を示すとともに、学術コミュニケーションにおける研究インテグリティと倫理的出版の進捗を反映したものです。AIに関する記述が追加された2024年の改訂と比較すると追加なしの項目もありますが、重要な部分での改訂も行われました。この指針を円滑に導入するためには、これらのアップデートが関係者各自の役割と責任にどのような影響を与えるかを理解することが不可欠です。

そこで、論文著者が最新のICMJE Recommendationsを遵守するためのガイドとして、段階ごとの流れを示すフローチャートを紹介します。著者資格(オーサーシップ)、AIの使用、利益相反の開示、データの共有に至るICMJE Recommendationsの指針に準拠しているかどうかを判断するのにお役立てください。https://www.enago.com/academy/jp/wp-content/uploads/sites/14/2025/03/Infographic-1080-x-1080-px-1.png

※クリックで拡大され、ダウンロードできます

医学および科学論文における研究インテグリティと出版倫理を維持するには、すべての関係者がICMJE Recommendationsを正確に理解し、遵守する責任があります。

今回紹介したICMJE Recommendationsの他にも、参照すべきガイドラインはいくつもあり、学術出版における技術の進歩や変化がもたらす新たな課題に対処するため、常にアップデートされています。こうした情報を確認し、更新されたガイドラインに準じて投稿原稿を準備することで、より透明で信頼性が高く、包括的な論文を発表し、学術研究の発展に貢献することができるのです。

参考

2025年の改訂Up-Dated ICMJE Recommendations (January 2025)

2024年の改訂詳細はUp-Dated ICMJE Recommendations (January 2024)を参照

ICMJE Recommendationsに準拠していることを表明しているジャーナルのリスト

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