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システマティック・レビューの構成と書き方

システマティック・レビュー(系統的レビュー)とは、特定の課題についてこれまでに書かれた文献を収集し、データの調査・評価を行い、分析することで一定の結論を出すものであり、学術ライティング特有の作業です。システマティック・レビューを行うことは、質の高い、論理的なレビュー論文を書くための基本です。システマティック・レビューを出版するには、世界的に合意された特定のガイドラインに準じた作業プロセスで進めなければならないことは、学術研究者ならば、よく知るところです。ガイドラインは、研究者や出版社が論文について効果的かつ有意義なコミュニケーションをとるために無くてはならないものです。

大学院生など、論文の執筆や学術出版の経験が浅い研究者がシステマティック・レビューを執筆する際は、ガイドラインを注意深く読み、経験豊富な著者からのアドバイスを参考にすると良いでしょう。

National Center for Biotechnology Information(米国国立バイオテクノロジー情報センター)やNational Library of Medicine(米国国立医学図書館、国立衛生研究所の一部門)は、システマティック・レビューを以下のように定義しています。

A systematic review is a protocol driven comprehensive review and synthesis of data focusing on a topic or on related key questions. It is typically performed by experienced methodologists with the input of domain experts.”
仮訳:システマティック・レビューとは、特定の課題あるいは関連する主要なリサーチクエスチョンに焦点を当て、手順に則ってデータを統合・分析し、包括的に評価するものです。一般的には、経験豊かな方法論者が、該当分野の専門家の意見を踏まえて行います。

課題や質問に対して、系統的かつ明示的な方法を用いて、適切な研究の評価・分析を行なうシステマティック・レビューには3つの種類があります。

・質的(Qualitative):数値と計算に基づいて結果を評価する
・量的(Quantitative):研究結果に基づいて評価する
・メタ分析(Meta-analysis):多数の関連研究の結果の評価を要約する

システマティック・レビューは、種類の違いに関わらず、特定の手順に従って書く必要があります。

システマティック・レビューの全体的な構成には定型があり、その構成要素―タイトル>要旨(アブストラクト)>序論(イントロダクション)>方法>結果>考察(ディスカッション)>参考文献―を順に並べていきます。これらの構成要素は、レビュー論文を書いたことがなくても、学術あるいは科学に関わっているほとんどの執筆者にとっては馴染みのあるものでしょう。

システマティック・レビューの全体像

システマティック・レビューは以下の流れで進めます。

1. リサーチクエスチョンの設定
2. フレームワーク分析
3. エビデンスのマッピング
4. 批判的な分析
5. エビデンスの統合

リサーチクエスチョンの設定

リサーチクエスチョンを設定するには、研究の意図を反映する言葉を慎重に選択する必要があります。リサーチクエスチョンは、PICOまたはPECOに従って構造化します。PICO/PECOとは、Patient/Population(患者数/母集団), Intervention or Exposure(介入または曝露), Control/Comparator(対照/比較), Outcomes(結果・帰結)の4つの頭文字をとったものです。介入研究とするPICOか、観察研究とするPECOか、研究に合った方を選択してリサーチクエスチョンを構造化します。リサーチクエスチョンは研究と考察の基本となるので、明確にしておくことが必要です。

フレームワーク分析

フレームワーク分析とは、PICO/PECOによって構造化されたリサーチクエスチョンを視覚的に表すものであり、4つの構成要素すべての関連性を示します。構成要素の関連性は、証拠を提示することで裏付けます。そうすることによって、読者はレビュー論文に書かれている内容を短時間に理解することができます。

エビデンスのマッピング

エビデンス(証拠)のマッピングとは、研究者が特定したリサーチクエスチョンに関連する研究を選択する、あるいは不要と判断する(除外する)プロセスです。マッピングを行うにあたって、関連する研究の構成要素として採用できるかできないか、つまり選択/除外基準を最初に定めておく必要があります。BMC Medical Research Methodologyに掲載されている「The Global Evidence Mapping Initiative: Scoping research in wide topic area」という論文(Peter Bragge ほか著、2011年)では、証拠のマッピングは次のように説明されています。

“Evidence mapping describes the quantity, design and characteristics of research in broad topic areas…. The breadth of evidence mapping helps to identify evidence gaps, and may guide future research efforts.”
仮訳:エビデンスのマッピングとは、幅広い分野のテーマにおける、研究の量、デザイン、特徴を説明するものです。エビデンスのマッピングを幅広く行うことは、エビデンスギャップを特定するのに役立ち、将来の研究活動につながる可能性を秘めています。

批判的な分析

批判的な分析とは、基本的に研究の質の高さを判断するために行う分析を指します。研究の方法を評価するのに、ランダム割付の隠蔽、投稿取り消しの報告、報告の正確性、統計分析、結果の評価など複数の基準が採用されています。論文著者と査読者は、研究のあらゆる部分で、潜在的なバイアスやデータ(または監察結果)の誤用がないかを確認します。

エビデンスの統合

リサーチクエスチョンを指針として、さまざまな研究結果を比較し、対比させます。著者は研究の内容に基づき、リサーチクエスチョンの評価あるいはリサーチクエスチョンに対する答えを示します。さまざまな研究の評価を統計的手法を用いて統合することは「メタ分析」と呼ばれます。

メタ分析

メタ分析とは、複数の研究結果を統合し、分析すること、またはそのための解析手法を指します。特定の研究題材に関連するたくさんの情報から必要な情報を整理した上で体系的にレビューを行うシステマティック・レビューも含まれます。メタ分析は、システマティック・レビューと似た流れ(プロトコル)に従って作成されますが、新しい研究ではなく、既存の研究に関して分析を行うものです。とはいえ、特定の題材に関する研究を統合することは、研究題材あるいはリサーチクエスチョンにとって新たな視点と新しいデータを提供することだと主張することもできます。メタ分析とシステマティック・レビューは、多数の情報を集めて評価・分析する点で同じですが、メタ分析では統計解析の手法を使って定量的な評価を行うのに対し、システマティック・レビューではより網羅的に定性的な評価も含まれる点で異なります。

Journal of the Royal Society of Medicine (JRSM)に掲載の論文「Five steps to conducting a systematic review」(Khan, Kunz, Kleijnen, Antes著、2003年)には、システマティック・レビューとしてのメタ分析を行うために必要な5つのステップが記されています。

1. リサーチクエスチョンの設定
2. 既存の関連出版物の特定―文献検索
3. 研究の質の評価
4. エビデンスの要約
5. 結果の解釈

リサーチクエスチョンの設定

メタ分析のリサーチクエスチョンの設定方法は、システマティック・レビューにおけるリサーチクエスチョンの設定方法と基本的に同じです。著者は、PICO/PECOからPopulation、InterventionあるいはExposure、Outcomesの3つに、研究デザインを加えてリサーチクエスチョンを構造化します。メタ分析の場合、対照群や比較対象が必ずあるわけではないので、control/comparatorを除き、その代わりに研究デザインを追加します。査読者は複数の研究を総合的に扱うので、リサーチクエスチョンを設定する際には、研究デザインを考慮する必要があります。

既存の関連出版物の特定―文献検索

著者はメタ分析の情報を集めるため、関連する出版物を探して特定しなければなりません。選出された研究や出版物は、リサーチクエスチョンに直接関連している必要があります。どのようにその研究を選んだか、または除外したか、根拠を記録しておきます。メタ分析に用いる文献は、網羅的で偏りがないように検索することが大切です。選出した研究や論文を、あらかじめ設定しておいた基準に沿って、解析の対象にするかを選定してください。

研究の質の評価

この部分は、システマティック・レビューにおける「批判的な分析」に該当するものです。「品質」は主観的な評価だと思われるかもしれませんが、学術界にはそうした評価を標準化することができる一般的な指標があります。この指標には、研究デザイン、特定の題材に利用できる研究のタイプと量、さらに、結果にバイアスが生じる可能性などの評価が含まれます。メタ分析を行う際、学術雑誌(ジャーナル)や学会誌などは、報告すべき項目を示しているPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)声明に準拠していることが求めることが多くなっているので注意しましょう。PRISMAのウェブサイトには、執筆方法やレビューに含めるべき事柄など、質の高い研究の検索と評価を助けてくれる情報が掲載されているので、参考にしてみてください。

エビデンスの要約

この部分は、それぞれの研究の違い(特徴、質、統計方法など)および、特に研究結果における類似点について議論することを目的として書かれます。リサーチクエスチョンは、メタ分析での研究の比較だけに留まらない研究の根幹にあるべきものです。メタ分析は常に中心的な題材であるリサーチクエスチョンを読み解くことを意識して進める必要があります。

結果の解釈

結果の解釈を行う際には、バイアス(特定のジャーナル・出版社や、特定の著者を好む傾向)には気を付けなければなりません。研究の全体的な質について議論し、「推奨事項は、エビデンスの強みと弱みを参考にしてランク付けされるべき」です。

最後に

システマティック・レビューは、学術研究にとって重要な手法です。レビューの進め方から出版まで、計画を立てて進めることが鍵となるでしょう。個人ではなく、執筆者と研究者がチームを組んで行うことが一般的です。大学の図書館は、最初にシステマティック・レビューのガイドラインを探すには良い場所です。例えばトロント大学図書館のウェブサイトにはシステマティック・レビューに関するガイドラインが掲載されています。他にも、Joanna Briggs Institute(JBI)の「Checklist for Systematic Reviews and Research Syntheses」やBioMed Centralに掲載の論文「Methodology in conducting a systematic review of systematic reviews of healthcare interventions」など、役に立つ情報が多数ありますので、参考にしてみてください。


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