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システマティック・レビュー にもレビュー(再評価)を

ある課題についてこれまでに書かれた論文をすべて集めて、そのデータを批判的に読み込んでレビュー(再評価)し、一定の結論を出す研究を「システマティック・レビュー(systematic review)」といいます。日本語では「系統的レビュー」ということもあります。医療分野では、「根拠にもとづく医療(EBM: Evidence based medicine)」という方針において、最も信頼性の高い情報源となりうる研究方法です。
ところが、システマティック・レビュー論文のなかには、捏造や改ざん、盗用といった「不正行為」がある論文や、製薬企業などスポンサーとの関係があること(利益相反)を明記しておらず、バイアス(偏り)がある可能性のある論文を、見逃してしまっているものがあるとわかりました。調査結果は『BMJオープン』で今年3月2日に発表され、学術情報サイト『リトラクション・ウォッチ』が報じました。
スイスのジュネーブ大学病院で公衆衛生と疫学を研究しているナディア・イーリアらは、医学分野のトップジャーナル4誌に掲載されたシステマティック・レビュー論文114本をレビュー(再評価)しました。『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』、『英国医学ジャーナル(BMJ: the British Medical Journal)』、『米国医師会ジャーナル(JAMA: The Journal of the American Medical Association)』、そして『ランセット(The Lancet)』の4誌です。さらに彼女らは、それらの著者たちに連絡して質問をしました。たとえば画像の複製(duplication)がないかどうかをチェックしているか、著者たちの利益相反関係が知見に影響をもたらしていないかどうかを分析しているか、などデータの公正さ(integrity)を確かめているかを尋ねたのです。質問に対しては80件(69%) の回答がありました。
その結果はシステマティック・レビューの信頼性に疑問を投げかけるものでした。たとえば114本中7本の著者は、追加質問において、データ改ざんのような不正行為の徴候があると思ったが、その疑惑を報告したのは7本のうち2本の著者だけでした。
また、画像の複製に関しては81本の著者が調べていましたが、レビュー対象の論文の著者が倫理委員会の認可を受けているかどうかをチェックしていたのはそのうち3本の著者だけでした。そしてレビュー対象の論文の著者の利益相反について報告していたのは、わずか5本でした。


『リトラクション・ウォッチ』は次のように指摘します。

レビューの著者たちは出版バイアスを避けるためのチェックをつねに行っているわけではない。たとえば、ネガティブな知見が未公表の研究のなかに埋もれていないことを確かめたり、未公表の結果について著者に問い合わせたり、といったことはなされないことがあるのだ。

本連載でも伝えたことがあるように、臨床試験のなかには、実施されたにもかかわらず、結果が公表されないものがあります。スポンサーにとって都合のよいポジティブな結果だけが公表され、都合の悪いネガティブな結果が公表されていないとすれば、誰もが共有できる知識にはバイアス(偏り)が生じることになります。そうしたバイアスのことを「出版バイアス(publication bias)」といいます。
またシステマティック・レビューの著者のなかには、レビュー論文が公表された後に行動を起こした者もいるといいます。あるレビューには、「ボルト事件」と呼ばれる研究不正事件で悪名高い麻酔医ヨハヒム・ボルトらの論文を対象に含めていました。しかし研究不正問題が明らかになると、そのレビューの著者は論文を再検討しました。イーリアらはそのことを次のように紹介します。

1999年から2010年にかけての出版されたボルトの研究に焦点をあてた調査が2010年に実施されると、データの改ざんと倫理的認可の欠如のため、彼の論文80本が撤回されることになった。そのレビューにはボルトが共著者になった論文7本が含まれていた。というのは、それらは1999年“以前に”公表されていたからである。にもかかわらず、レビュー論文の著者たちは慎重に分析を行い、その7本の論文を除外することによって、ボルトの論文では明らかにされていなかった、ヒドロキシエチルデンプン溶液による死亡と急性腎不全のリスクの著しい上昇を明らかにした。

これは幸いだったケースといえるかもしれません。
またイーリアが調査したシステマティック・レビューのうち、27本(23%)が、どの論文が資金源を明らかにしているかを調べていました。スポンサー付きの研究が、スポンサーに好意的な結果を出していたかどうかを確認していたものはわずか6本(5%)でした。あるレビュー論文の著者は「スポンサーによるバイアスはありえない」と主張したといいます。その一方、3本の著者はどんなスポンサーによるバイアスも認識できませんでした。そして2本の著者がスポンサーによるバイアスを認識したといいます。
イーリアらはまとめとして、「不正行為の疑惑を、いつ、どのように報告するか、ガイダンスが必要である」と指摘しています。
前述したように、 システマティック・レビュー は最も信頼性が高い情報源とされているはずです。しかしながら、そのシステマティック・レビューの結果に対しても、レビュー(再評価)が必要だということです。


 

ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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