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「エルゼビア紛争」は続く

大手学術出版社エルゼビア社が発行するジャーナルの購読料をめぐる論争が、これまでにも何度か話題になってきました。2016年には、学術出版物のライセンス契約を取り扱っているドイツのDEALプロジェクトとエルゼビアとの契約交渉が決裂したのを皮切りに、同国の研究機関が同社の電子ジャーナルを見られなくなるという事態に発展しました(エルゼビアは2017年2月に、電子ジャーナルへのアクセス権を回復させると発表)。そして同様の問題は今回、韓国でも……。
■ 韓国の大学コンソーシアムとの交渉
2017年5月、韓国の300を超える大学図書館がコンソーシアムを結成、42のデータベース・プロバイダーとの契約交渉を行ってきました。エルゼビアの科学・技術・医学・社会科学分野の3,500以上の電子ジャーナルと35,000タイトル以上の電子ブックを搭載するデータベース「ScienceDirect」へアクセスするための費用につき、エルゼビアは前年比4.5%の値上げを要求しました。それに対しコンソーシアム側は、購読料の高さと、パッケージ中にあまり読まれていないジャーナルが含まれていることを不服とし、譲歩を要求。何ヶ月も膠着状態が続きました。
エルゼビアは、交渉がまとまらなければ2018年1月12日からアクセスを遮断すると表明していましたが、最終的に契約は締結。3.5-3.9%の値上げ率で合意したとされています。この契約合意に基づき、韓国の個々の大学がエルゼビアと個別契約を締結することになりますが、一年更新の場合の値上げ率は3.9%、3年契約の場合は2017年を基準として毎年3.5%、3.6%、3.7%と段階的な値上げとなります。
■ エルゼビアの高い購読料
エルゼビアのジャーナルの購読料は、韓国以外でも問題になっています。韓国のコンソーシアムは、エルゼビアは市場への影響力を濫用して購読料を引き上げようとしていると主張しています。韓国の大学はこれまで、エルゼビアの言う値上げ率を受け入れてきており、通年は12月に契約交渉をまとめていました。しかし、購読料の値上げが図書館の予算を圧迫し、ついに負担できないレベルに達したとして交渉に乗り出したのです。韓国の図書館協会に登録している123団体で、毎年計1億4000万ドルがデジタルデータベースの使用料として支払われており、このうち3300万ドルがScienceDirectに費やされ、最も大きな負担となっています。


同コンソーシアムはボイコットも辞さないという強い姿勢で出版社との交渉に臨み、エルゼビア以外の出版社にも、契約更新しない旨を通達。エルゼビアとの交渉は、同社が譲歩した形で決着しましたが、同様に購読料の値上げを要求してきた他のデータベース・プロバイダーとの契約更新は、いまだ滞っているようです。また西江(ソガン)大学の韓国大学教育協議会(KCUE)で研究分析チームのディレクターを努めるHwang氏は、今回合意した年間値上げ率3.5-3.9%は、国際標準の2%より高い水準にあると述べており、エルゼビアにさらなる引き下げを要望すると推測されます。
■ 学術出版の将来は
韓国のコンソーシアムは、ScienceDirect へのアクセスにつきエルゼビアと合意に達したことで、アクセスの遮断を回避することができました。ただし、今回の合意はあくまで2020年までの使用についてであって、それ以降の使用については、交渉を続けている状況です。
エルゼビアとの交渉による結果は、国や機関によってさまざまです。韓国での合意から数日遅れの1月17日には、フィンランドの国立電子図書館しました。この契約は、13大学、11研究機関および11応用科学大学に、ScienceDirect収録のジャーナル1,850誌の購読を供与するものです。
購読を打ち切ることを検討している大学もあります。国立台湾大学(NTU)は、契約交渉の結果次第ではScienceDirect の購読を、2017年をもって打ち切る予定であると発表しました。
一昔前なら、提示される金額を支払ってジャーナルの購読をするのが当たり前だった学術界。オープンアクセスジャーナルの台頭により、学術出版社が将来にわたってジャーナル購読料を主たる収入源として確保できるかは不透明です。業界を席巻してきたビジネスモデルに、終わりが近づいているのかもしれません。

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エナゴ学術英語アカデミー:  2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(前編)

参考記事
Science: South Korean universities reach agreement with Elsevier after long standoff

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